第369話 新人勧誘と、ロムと、飛び出す絵本
「魔法おもしろ研究会に入りませんか」
声を上げるとチラシを貰っていく人はいるが、入りたいという人はいない。
自分なりの面白い魔法を研究しろと言われても困るよな。
生活に便利な魔法や、戦いに役立つ魔法とかなら、研究しがいもあるのだろう。
面白い魔法を研究してどうなるって言われそうだ。
それと、前会長のエミッタがやらかした伝説が残っている。
アキシャルを追いかけ回したストーカーの服をエミッタが爆発で吹き飛ばしたとか。
何が気にくわなかったのか偉人の銅像を爆破したりとか。
とにかく伝説がたくさんあって、枚挙にいとまがない。
余りに暇なので本を読んでいたところ、俺の前に人が立った。
本から視線を上に向けるとロムの笑顔があった。
ロムは本売りの少年だ。
この間、瀕死のところを助けたばかりだ。
「よう親友」
「ここに来たってことは学園に入ったのか?」
「まあな。本を読んで知識だけはある」
「目的はここの蔵書か?」
「そうだ。ここの図書館には入りたかった」
「ついてたな。魔戦士との戦いで本は無事だったみたいだ」
「知ってる。だから入った。ところでアスロンの野郎はぶっ殺したか?」
「まだだ、人間を容易くは殺せない。特に貴族ともなればな」
「めんどくさいことだ」
「物語みたいには上手くはいかないさ。それよりおも研に入るか?」
「義務とかなければ入る」
「とりあえずはないな。課題みたいなのを振ったりはするが、拒否しても除名はしない」
「そうかなら、いいぞ」
「みんなを紹介しよう」
みんなを呼び集めた。
「ロムはマイラを知っているな。こっちの彼女はリニア、でもってベークと、ラチェッタと、コネクタとベス兄妹だ」
「よろしく。ロムだ。希少本を持っていたら見せてほしい」
みんなもよろしくと言い、希少本は持っていないと一同に言った。
「なければ作る」
マイラがそう言いだした。
エミッタみたいなことを言うな。
「となると魔法の本だな」
俺がそう言うと皆が頷いた。
「常々考えていたことがある」
ベークに何か考えがあるらしい。
「言ってみろ」
「炎を出すコンロの魔法とか魔道具とかあるよな。炎を妖精の形に出来ないのかと。で小さい子が手を出して火傷すると思ったから、幻か光で良いんじゃないかと。妖精のランタンとか作ったら良いなと」
「ほうそれで」
「幻で物語をつづれないかなと」
「ええと飛び出す絵本か」
「まさにそれ。良いネーミングだ」
飛び出す絵本は前世の言葉だけどな。
新人勧誘もそっちのけで魔道具を作る。
ロム監修で飛び出す絵本が完成した。
本を開くと幻が飛び出した。
それには音声も付いている。
内容は。
私は、テスラ。
弟はリテル。
お母さんが病気で今日も森で薬草摘み。
森は鬱蒼と茂り不気味だ。
でも負けてはいられない。
「おねぇちゃん、もう帰ろうよ」
「我慢しなさい。薬草が無ければお母さんの病気も良くならないし、明日のパンも買えないの」
「でもでも」
「沢山薬草が摘めたら、飴玉を買ってあげる」
「ほんとう」
「だからしっかり薬草を探すのよ」
「うん」
森はどんどん深くなり、ホーホーという不気味な声も聞こえてくる。
引き返したい。
でも。
「ひっ」
弟のリテルが怯えた声を出した。
みると、怪我をした大きな狼が横たわっている。
「怪我をしているみたい」
「グルルル」
「血止めの薬草なら持っているよ」
弟のリテルがそう言います。
そうね、可哀想だから助けてあげましょうか。
「動かないでね」
血止めの薬草を傷口に貼ります。
「ヴー」
「ごめん、痛かった」
「グル」
ほどなくして、傷口に薬草を貼り終えました。
「さあ、道草する余裕はないわ。どんどん摘んで帰りましょう」
「うん」
籠は薬草で一杯になった。
その時、森の奥で何かが光ったような気がした。
なんでしょう。
行ってみると七色に輝く花が咲いている。
手を伸ばして摘んだ。
「小娘、その薬草を寄越せ」
目つきの悪い男の人が出て来て私を脅した。
「嫌よ」
「そうだ。ねえちゃんが、先に摘んだんだ」
「こうなれば」
男は持っている剣を抜いて、斬りかかる。
音が止ってスローモーションになった。
そして、血しぶきが。
あの狼さんが、庇ってくれたみたい。
狼さんは爪の一振りで、男の剣は折れた。
男は真っ青になって逃げ出した。
「狼さん」
狼さんが助かるにはこれしかない。
七色の花を、狼さんの口の中に入れたところ、狼さんは光り輝き、傷が癒えていた。
良かった。
「おねぇちゃん。あの薬草をお母さんに食べさせたら、病気も治るんじゃない」
七色に輝く花を食べた母さんの病気が治った。
めでたしめでたし。
オーソドックスな物語だ。
ちょっと血が出るのが物騒で異世界らしい。
中世の童話とかも残酷だった。
靴が合わないからと言って足を切り落とした話など色々とある。
「ベークアンドリッツ商会で扱わせてほしい」
「物語ならいくらでも知っているぜ。別の本も作ろう」
ベークにロムがそう持ち掛けた。
飛び出す絵本はきっと売れるに違いない。
二人の好きにするさ。
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