第285話 映像コンテストと、作品と、感想

 映像コンテストの審査員席に座っている。

 良し悪しなんて分からないから、見て面白かったら点を入れるだけだ。


 一発目『婚約者の寝顔とぬこ』。

 特大ホログラフィに映し出されたのは俺とエレクの寝顔。


 俺は飲んでいたお茶を吹いた。

 これの1次審査を通したのは誰だ。

 出品者はセレン。

 くっ、セレンにやられた。


 会場は湧いている。

 寝顔って力が抜けるからたしかに可愛いけども、釈然としない。

 肖像権やプライバシーなんて物はファンタジー世界にはない。

 10点満点の5点を出しておいた。


 次の作品は『星空』。

 星が動いていくのを、壮大な音楽を背景に、早回しで見ている。

 この出品者もセレンだ。

 2つあるなら寝顔の方は1次で落とせよ。

 10点満点の8点を出しておいた。

 会場は独特な雰囲気だ。

 褒めて良いのか、けなしたら良いのか分からないといったところ。


 次の作品は『私の子供』。

 これはまともそうだな。

 子供が初めて立てた日を記録したらしい。

 中々立ち上がれず、ハラハラして、誰もが手に汗握る。

 会場が一体感に包まれた。

 頑張れ、もう少しだという声が聞こえてくる。

 10点満点の9点を出しておいた。


 次の作品は『よっぱらい』。

 酒場で男性が一人酔っぱらっている映像が映し出される。

 男性には絆創膏が何枚も貼られていた。


「アージさん、その傷は?」

「かかあがヤキモチ焼きで。女性と少し親しくしてたら、柄杓で叩かれちまってよ」

「それで飲みに?」

「まあな。もてる男はつらいぜ」

「この唐変木! 誰が柄杓で叩いたって?」


 恰幅の良い女性が現れた。


「げっ、かあちゃん」

「あんた、酒はよしなって。傷に響くだろ」

「でアージさん、本当は顔の傷は?」

「この馬鹿亭主は転がったのさ。てめぇのドジを言いたくなかっただけさね」


 酒場は爆笑に包まれた。

 こういうのも良いな。

 10点満点の8点を出しておいた。


 コンテストは進み。

 次はベークの作品だ。

 タイトルは『働く男』。

 ベークのアルバイト風景が映し出される。

 ただそれだけかと思ったら、殺人事件勃発。

 死体役はラチェッタだ。

 第一発見者はリッツ。


 参考人のアリバイやら、殺人の手口やらが明らかになる。

 そして、最後に犯人との対決。

 駄目だ。

 犯人を問い詰める場所が中庭だなんて。

 断崖絶壁はお約束だろう。

 そして、パトカーがサイレンを鳴らして迎えにくるんだ。

 はっ、前世じゃなかった。


 ベークとしては考えたな。

 10点満点の6点を出しておいた。


 次は『48の殺人技』。

 マイラがリニア相手に技を披露していく。

 組み手をしているだけなんだが、面白い。

 武術技好きにはたまらないんじゃないかな。

 それなりに会場が湧いた。

 最後にマイラは俺の死角から近づいて俺のキスを奪ってから、また死角に入った。


 覚えがある。

 唇になんか触れた感触があったんだ。

 気のせいかと思ったがマイラの仕業だったんだな。

 恐ろしい技だ。

 10点満点の7点を出しておいた。


 次の作品は『お喋り』。

 レクティの作品だ。


「あれは良いものですよね」


 レクティ達が会話している。


「まあね。魅力的なのは認める」

「1日頑張れる感じですね」

「そうね」


 駄目だ。

 この映像を止めろ。

 映像は進んで行く。


 心の叫びは虚しく散った。


 俺の『好きです愛してます』を言っている映像が流れた。

 劇の台本を読んでくれっていうから付き合ったのに。

 てっきり恋愛ドラマを出すものだとばかり。


 こんなのは4点だ。

 恥ずかしい。

 レクティは権力を使ったな。

 まったく乱用もほどほどにしろよな。


 次のタイトルは『散歩』だ。

 リニアと狼型モンスターのサイリスが現れる。

 リニアがサイリスに骨を投げる。

 サイリスはそれをキャッチ持って来る。

 リニアがサイリスをわしゃわしゃした後にカメラの魔道具をサイリスに付けた。

 リニアが駆け出す。


 凄いスピードだ。

 それをカメラが付いたサイリスが懸命に追いかける。

 魔法学園の壁を乗り越え、街に出て家の壁をよじ登り、屋根を駆け抜ける。

 走っているリニアも凄いが後を付いて来るサイリスも凄い。

 やがてリニアは王城に。

 王城の外壁をやすやすと上がるリニア。

 最後は天辺の旗に手を回してにっこりとほほ笑んだ。


 警備がザルだな。

 後でランシェに映像を見せよう。

 8点を出しておいた。


 優勝作品は、タイトルが『うまそう』で、名物料理を映し出す物だった。

 グルメ映像は強い。

 子猫の映像も頑張ったが届かなかった。

 ちなみにエロは1次審査で落としてある。

 お上からけしからんと言われるのもなんだし。

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