第198話 順位戦と、尾行と、密偵
順位戦が始まった。
リッツは予選で惜しくも落ちた。
「そんなに悔しがらないで。また、来年があるわよ」
リッツの彼女が慰めている。
「負けて嬉しがるようじゃ駄目だ。この悔しさをバネにするんだ」
「悔しいのは、やり残したことがあるからじゃないの」
「そうかも」
「出し切るのは難しいよね。私なんか失敗ばかり」
「ソレノもそうなんだ」
「ええ、でも再挑戦できるなら、負けじゃない。次にかけたらいいのよ」
「そうするよ」
リッツの彼女はソレノという名前らしい。
どうせ偽名だろうけど。
コネクタとベスは本選に行ったが、コネクタは1回戦で敗れた。
ベスは2回戦で敗れた。
「お疲れ様。3人とも善戦したな。これから、打ち上げをしよう」
ソレノを入れたメンバーで喫茶店に行く。
レクティとソレノが親し気に会話している。
レクティが紹介したのだから、知人という設定なのだろう。
マイラに脇腹をつねられた。
「ソレノが気になるわけじゃないんだ。ちょっとね」
「するどいですね。尾行に気づきましたか」
レクティが声をひそめてそう言った。
「尾行されてたのか。気づかなかった」
マイラとダイナが消えた。
そしてほどなくして帰ってきた。
「片付いた」
「どんな奴だった?」
「チンピラ風だったけど、素人じゃなかった。それと魔法を使ってきた」
「強敵だったんじゃないか」
「死角に潜り込ませているようじゃ2流」
「とにかく、マイラ達に怪我がなくてよかったよ」
喫茶店に着いた。
リニアが食べ物を大量に注文する。
いつもの風景だ。
「先輩、強くなるにはどうしたら良いと思う。俺はソレノを守れる男になりたい」
いや、無理なんじゃないか。
きっとソレノはリッツの何倍も強いぞ。
実戦だと歯が立たないだろう。
「技術的な所は日々の研鑽だと思うが、守るという心が強ければ良いんじゃないか」
「鍛練あるのみかな」
「それも大事だけど、絆だよ。仲間を作るんだ」
「勉強したり遊んだりって事?」
「良く学び、良く遊べって事だな」
「お兄ちゃんは詰めが甘いのよ」
「妹よ。たかが1回戦勝ち抜いたからって、いい気になるなよ」
コネクタ、ベスの兄妹は相変わらずだな。
「私達もあんなだったのかな。何だかちょっと懐かしい」
セレンがそう感慨深げに言った。
「ぜんぜん違う。私は初年度から優勝した」
そうマイラが胸を張って主張した。
マイラとリニアは比較したらいけないな。
ついでにレクティも比較したらいけないような気がする。
やっぱりセレンは普通だな。
だが、突っ込んだらいけないような気がする。
セレンが微笑ましいなんて言ったら両方に角が立つような気がする。
ハーレムは大変だ。
比較しちゃいけないんだからな。
個性の尊重がこれほど大変だとは。
マイラが素早く動き、突然フォークを投げた。
えっ、ゴキブリか。
視線をフォークの行先に向けると、男が手から血を流してた。
床にはメガホンの小さいのが転がっている。
何だこれは?
レクティが目で合図すると、客の一人が手から血を流している男を連れてった。
呆然としているリッツとコネクタとベス。
ついでにセレンもか。
「タイト様は王族なので敵が多いんです。護衛もついているのですけど」
そうレクティが説明する。
俺は床に落ちたミニメガホンを手に取る。
ええと。
「耳に当てて使うのよ。音が良く聞こえるはず」
マイラが説明してくれた。
「原始的な道具だな。あれっ、これは魔道具だ」
メガホンには魔石が嵌っている。
耳を当てると遠くの音もはっきりと聞こえた。
「マイラはこういう魔道具を見た事があるんだ」
「魔道具じゃないのはね。前にスラムの犯罪者が使ってたのよ」
原始的な奴はすぐに思いつく。
使っている奴がいても不思議じゃない。
魔道具はその延長だな。
「レクティ、さっきの男の報告書を後で見せてくれ」
「ええ」
ミニメガホンの魔道具は便利だろうな。
でも弱点もある大きい音を立てられたら、気絶するんじゃないだろうか。
密偵向けの商品だな。
開発するまでもない。
レクティが耳打ちしてきた。
「さっきの男ですが、連行している最中に自殺しました」
「どこかの密偵だな」
「おそらく」
自殺するなんて、非情な組織だな。
王族の影は違うだろ。
俺に話を通せば済む事だから。
オルタネイトも違うな。
レクティの部下はオルタネイトの組織と同一だから。
レジスタは甘いから、仲間を助けにくるだろう。
となると現状では魔導師だな。
対魔導師ウイルスの探りかな。
いやまだばれてないはずだ。
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