第251話 元締めと、自爆と、ベーク
ベークの問題は放っておいて良いだろう。
何で覚醒したかは分からないが、ベークのスキルが軌道修正したのかも知れない。
ベークは試験勉強を頑張っているみたいだし。
そのご褒美なのかもな。
元締めから手紙が来た。
俺はマイラを連れて、元締めのもとに訪れた。
「スパイがいるんだって」
「はっきりとはしねぇんだが。ギラギラとした視線を感じるんだ。こういう時は俺の命を狙っている奴がいる」
「ふふっ、下剋上されそうになってやがんの。歯向かって来る奴は、半殺しにしたら良いんじゃない」
マイラが元締めを煽る。
「時代が違うんだよ。お前がいた時はそれで良かった。でも今は違う」
「スパイを見分ける魔道具は作れるよ。前に作ったから」
「恩に着る」
元締めはスパイを見つけたら商会を首にするだけで済ますみたいだ。
「元締めもぬるくなったね。私は誰が裏切り者か、目つきで分かるよ。元締めも昔なら一発で分かったはず」
「もう出会ってから4年近く経つのか。元締めも丸くなるわけだ」
「常に牙は研いでおく。牙の鋭さのなくなった者から死んでいく。スラムの常識」
「動乱の世界に生きているからね。備えは常にしておかないと」
そして、しばらく経って、元締めから手紙がきた。
行くとロープに縛られた男が3人。
「俺達を解放しないとダイアック様が容赦しない」
こいつら、魔戦士の一味か。
ほんとスケールダウンだな。
魔導師の一団の手ごわさと比べたら、大人と子供みたいなものだ。
こんなチンピラを仲間に引き入れても大した事は出来ないだろう。
「元締め、こいつらは反乱を起こした魔導師の手下だ。警備兵に引き渡した方が良い」
「こうなったら、【大爆発】」
「おう、【大爆発】」
「ええいままよ【大爆発】」
こいつら自爆しやがった。
元締めは机を盾にして防いでる。
マイラは俺が起動したバリアの陰に隠れて無事だ。
「狂信者か。やばいな」
「ぬるい事、やってるからこうなるのよ。殺されたら花を手向けてあげる」
「どうやら、ぬるま湯から出ないといけないようだぜ」
元締めの目が狂暴な光を湛えたようだ。
「具体的にはどうするの?」
「そりゃあ。スパイあぶり出しで見つけたら、眠らせて警備兵に突き出す。自爆する可能性ありって伝えておけば、お上がなんとかしてくれるだろ」
「甘いよ。元から絶たなきゃ駄目。やっぱりぬるくなってるね」
「とすれば、泳がせておいて一網打尽が望ましいな。元締めを魔導師(仮)にしてあげるよ」
「そいつぁ、何ですか?」
「魔導師の秘術があるんだよ。少し前ならこれを知っていると殺し屋が飛んできた。それぐらいやばいネタだ」
「ようがす。聞かせてくれ。腹を括りましたぜ」
「生き物は神秘魔法名というものを持っている。これの名前は重複がない。だからこれさえ分かれば、どこにいても居場所が分かる。他にも色々と出来るんだけど。それはまあ良いでしょ。とりあえず神秘魔法名が分かる魔道具を預けておくよ」
「分かりましたぜ。スパイを突き止めたら、神秘魔法名を控えておきます」
とりあえずはこれで良いだろう。
ベークの方も何とかしないとな。
「ベーク、お前は新しく得た能力をどうしたい?」
ベークを呼び出して、俺は真剣な口調で尋ねた。
「タイトのスペルブックの意味が分かるあれか。僕もどうなのか分からない。まだ呪文一つしか使えないし」
「数百近く呪文はある。やばいのもあるが、お前の覚悟次第ではそれなりに教えてやっても良い」
「ダイアックに負けて悔しかった。無能は嫌なんだ。自分の為じゃない。ラチェッタを守れない無能な自分が許せない」
「まあいいだろう」
俺はいくつか呪文を見せてやった。
ベークは自分のスペルブックに、必死になって翻訳した呪文を書き込んだ。
「誘導攻撃魔法がこんなに簡単に。今までの苦労は何だったのだろう」
「悪用するなよ」
「分かっている。これでダイアックに勝てるかな?」
「同じ条件なら10倍の威力だ。流石に負けないだろう。だが過信するなよ。体は生身なんだ。バリアが無ければナイフの一突きで死ぬ事もある。完全回復だって死人は生き返らない」
「この呪文をラチェッタと分かち合いたい。教えたら駄目かな?」
「それは構わない。こうなった以上、問題ない呪文に関しては公開するつもりだ。論文を書けよ」
「僕が論文を?」
「そうだ。魔導師の資格を取るためには、論文の提出は必須になる。卒業資格、勘当問題とこなしたら、次は魔導師資格だ。頑張れ」
「二度と負けない。勝つ為なら何でもやる」
スキルの強制力は凄いな。
ベークがどんどん一人前になっていく。
そのうち俺も追い抜かれるかもな。
人生の勝利者スキルだからな。
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