第74話 殺し屋と、魔導師と、偽ニオブ
Side:ノンポーラ
愛しいニオブが居なくなった。
たぶん殺されたのでしょう。
殺したのはタイトに違いない。
「ダイナを呼んで頂戴」
「はい、奥様」
しばらくして、メイド姿のダイナが現れた。
ダイナは子飼いの殺し屋よ。
容姿は平凡で目立たない。
それが資質みたいね。
潜入するには重要だって前に聞いたわ。
それに夫の食指が動かないのも高得点だわ。
そばにいてもイラつかない。
「お呼びですか?」
「仕事よ。魔法学園に行ってタイトという者を殺して欲しい」
「かしこまりました。方法は?」
「任せるわ」
「ではこれにて」
タイトには殺し屋を送ってあげましたわ。
ふぅ、少し落ち着いた。
夕食に参りましょう。
あの子のいない食卓は灯りが消えた様。
タンタルの表情も少し暗い。
「ニオブの奴はどこで遊び歩いているのだろうか」
夕食の席で夫であるタンタルに話し掛けられた。
「そうですね。花でも買いに行っているのではないでしょうか。アルミナさんの墓前に供えると言ってましたから」
「最近家に帰って来ない事も多い。一度釘を刺してやらねばな」
「ええ、そうして下さいまし」
「覚えておるか。メイドのリジットを。働き口を探しておってな。再び雇おうと思う」
リジットは夫の浮気相手。
良く覚えている。
少し嫌がらせをしたら、すぐに辞めていった。
「それは」
「何だ、反対なのか」
「いいえ」
夕食を済ませ。
寝酒のワインのグラスを傾けて一口。
私はある魔道具を起動した。
しばらくして、男がやって来た。
男は仮面を着けていて、ローブを羽織っている。
正体は知っている。
魔導師よ。
殺し以外の汚れ仕事専門の魔導師。
顔も名前も知らないけど、利用する分には構わない。
「仕事よ。ニオブの偽物を用意して頂戴」
ニオブの偽物を用意するのは正妻の地位を揺らがさない為。
このままでは、どこぞの馬の骨と泥棒猫が入ってこないとも限らない。
「それなりに費用はかさみますよ」
「分かってるわ」
仮面の男は去って行き。
数日後、資料を持って現れた。
「偽ニオブの候補者リストを持ってきました」
「見させてもらうわ」
私は資料をめくり始めた。
顔と声がもっとも似ている者は?
その資料を見て私は。
「おほほほ、こんな所にいたのね。あの泥棒猫。盲点だったわ。バリアブル領の魔道具工房に親子共々勤めているとは」
「気に入った者がおりましたか」
「この者よ」
私は夫の寵愛を盗んでいった、憎い女の息子の資料を指差した。
「ではそのように取り計らいましょう」
「ちょっと待って。母親はむごたらしく殺して。下級貴族に目を付けさせるのがいいわ」
そして、一週間後、仮面の男が途中経過を報告に来た。
「いいつけ通りにしましたよ」
「あの泥棒猫はどうなって」
「下級貴族に目を付けられ、愛人になれと迫られて、自殺しました」
「少し筋書きと違うようね」
「ええ、下級貴族が弄んだ後に、売春宿にでも売り払おうと思っていましたが、あっけなく」
「まあ、良いわ。結果的にあの世に送れたのだから」
しばらく経って、偽ニオブがやってきた。
「可愛いニオブ、どこに行っていたの?」
「それが名前以外の記憶がないのです」
本当に似ているわ。
術を施したとはいえそっくり。
おまけに声まで似ている。
口調や雰囲気を無視すれば、あの子が帰ってきたようね。
もっとも、ニオブと兄弟なのだから当たり前だわ。
「ゆっくり思い出せば良いのよ。焦る必要はないわ」
「ええ、そうします」
「部屋に案内するわ」
ニオブが使っていた部屋はそのままににして新しく部屋を空けた。
いくら私でもニオブとの思い出の部屋をいい様にされるのは我慢が出来ない。
新しい部屋に一通りの家具は運び込んである。
「人が生活した感じがしないのですが」
「ええ、新しく部屋を空けたわ」
「何故?」
「記憶になくて慣れない生活なのだったら、気分転換に新しい部屋も良いと思って。記憶が戻るようだったら元の部屋で暮らしてもいいわ」
「僕は構いませんよ」
殺したい様な、あの人の子供だと思うと愛しい様な。
なんとも言えない気持ちが浮かび上がってくる。
今はこのままで、いきましょう。
私の地位を揺らがせないためにも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます