第320話 会談と、紙芝居魔道具と、娯楽

「俺が上級戦士筆頭のジェフトだ。敬語なんぞ要らん。ざっくばらんに話してくれ」


 今日はトップとの会談だ。

 上級戦士のジェフトは2メートルを超える筋骨隆々とした巨漢で、角刈りとモヒカンを合わせた髪型をしている。


「では、とりあえず贈り物をもってきた。トレーニング、貨幣製造の魔道具と、闘貨」

「ありがたくもらっておく」


「ざっくばらんに言うよ。戦争は回避したい。誰の得にもならないからだ」

「戦争なぞ恐れるに足らん。死ぬのも怖くない。戦いは損得ではないぞ」

「俺には子供が殴られるのを恐れて、別の子供を殴ろうとしているとしか映らないな。まるで臆病者の行動だ」

「我々は子供ではない。大人だ。そう考えると見方が違うのでは」


 くっ、手強いな。

 どう言おうか。


「戦争などという野蛮な行為をしているうちは子供ではないかな。喧嘩をよくするのは子供だ」

「喧嘩ではない戦いだ。遊びと捉えられては困る。」

「そちらの考えは分かった。しばらく滞在するつもりだ。気の変わる事もあるからな」

「戦士にふさわしい客人は、いつでも歓迎する」


 うーん、一筋縄ではいかないな。

 リッツの所に行った。


「ディッブ人が忌避する行動は?」

「それは臆病者と思われることかな」


 俺もそう思ったから、その線で攻めた。

 だけど説得には至らなかった。


「戦いに大儀は求めないのかな」

「戦闘は喜びだから、大儀とかはないみたい」

「俺達のことはどう思っている」

「スライダーとロータリには戦士はいないと思ってたとトレンは言っていた。リニアが試合で勝ったので、それを聞いて驚いたと」

「となると、俺達は戦士じゃないアピールに、切り換えた方が良いのかな。でもそれだと発言の力が弱まる」

「だね。戦士でない人の言葉を聞く価値はないと思っているから」


 なるほど、ディッブは戦士の国だ。

 スライダーは魔法使いの国。

 ロータリは商人の国。

 こう考えると、戦士が魔法使いに喧嘩を売ってどうするんだという事になる。


 国ごとに違うという価値観を認めさせるのが良いのかな。

 別の価値観の人間にも強い奴がいるって思わせたらいけるかもな。


 どうやってだ。

 俺は三匹の子豚の話をホログラフィの紙芝居魔道具にした。

 伝えたかったのは、武力と知力の関係だ。


 知力は強い。

 でも武力とは違うと伝えられたらいいのにな。


 市場に行って紙芝居魔道具と食料を交換しまくった。

 ディッブ人の意見は様々だ。


『石の家が強いのは分かる。でも藁と木の家は、むれないぞ』

『たしかにずるいスライダーとロータリには苦戦する。だが石の城壁ぐらい上級戦士なら壊す』

『豚が狼に敵うわけないだろう』

『強くなるのは家を作ることじゃなくて、鍛えることだ』


 うーん、否定的な意見が多いな。

 仕方ない。

 北風と太陽の紙芝居魔道具を作ろう。


 北風太陽魔道具の意見はこんな感じだ。


『親切にしてやってなんの得がある』

『気のいい奴は好かれるよな』

『北風は鍛え方が足りない。相性の悪さを武力で吹き飛ばすのだ』

『ロータリがやたら貢物を持ってくるのは、こういうずるい作戦だったのか』


 だめだ。

 違う価値観にはならないようだ。

 紙芝居魔道具は、あまり効果がないようだ。


 人を感化させて考えを変えさせるのは難しい。


「紙芝居魔道具、面白い」


 コネクタが感心して見ている。


「お前に気に入ってもらってもな」

「でも、ディッブ人も気に入っているよ。そこらじゅうで集まって見ていたから」

「じゃあ、コネクタは紙芝居魔道具職人にでもなってみるか?」

「やるやる」


 コネクタは紙芝居魔道具を作り始めた。

 プログラム的魔法でなくても、幻をだすぐらいは出来るからな。

 コツのイメージは水蒸気に光線を当てて映像を映すことだ。


 コネクタの紙芝居魔道具は冒険譚が多い。

 リッツが言葉を翻訳して、ディッブ人向けに売り出した。

 集まるのは主に食材だけど、コネクタは小金持ちになった。


 5年ぐらい時間があるならこの方法でも良い。

 別の文化を浸透させて、多様な価値観を分からせるのだ。

 せめて1年あればな。


「兄様、スライダーに帰ったら、紙芝居魔道具を売り出すのよね」

「まあね」

「恋愛物はやらないの」

「需要があればやってみたい」


「よし、おも研会長命令だ。みんなで紙芝居魔道具を作ろう。暇つぶしにもなるし、ディッブ人の教化にも役立つ」


 みんなで紙芝居魔道具を作った。

 俺は題材を童話から取って、マイラは戦闘もの、レクティはスパイ物、セレンは星の星座の物語、リニアは動物の童話、リッツは出世物語、ラチェッタは神話、リッツはハーレム物、コネクタは冒険物、ベスは恋愛物を作った。

 翻訳したところ、ディッブ人には大受け。

 笑顔が溢れた。


 どこの国でも娯楽は通じるのだな。

 娯楽から攻めるというのは良い方向だ。

 だが、時間がない。

 もっと即効性のあるものを考えないと。

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