第319話 首都と、市場と、機能停止

 首都に着いた。

 外壁は石で出来ていて、ゴツゴツしていて武骨だが、城壁は厚そうだ。

 ここいらのモンスターは強いから、性能は良いのだろう。


 トゲトゲの鉄で出来た門を潜る。

 世紀末をイメージした映画に出て来そうな門だ。


 首都の家は主に木で出来ている。

 多湿の場所柄なのでこうなったと思われる。


 俺達はかなり広い家に案内された。

 家の中の壁が少ない。

 風通しが良いようにだろうな。


「荷ほどきしたら、街に出よう」

「はーい」


 マイラ達から返事があった。

 俺の荷物は収納魔法に入っているから、荷物整理は必要ない。

 手早くラフな格好に着替えた。


 飾りの付いた服は着たくない。

 特使として威厳を保つためだろうけど、動きにくいんだよ。

 歓迎の試合とかやりづらかった。


 みんなの支度も整ったようだ。


 街に出ると、露店がないのに気づいた。

 お金がないものな。

 リッツの案内で市場に行く。


 野菜や果物や肉や魚などを売っている。

 惣菜も売っているな。

 みた所、物々交換で商売しているようだ。


 人の集まりがやってくる。

 何が始まるのか見ていたら、市場に象ほどの大きさのモンスターが運び込まれた。

 解体作業と物々交換が始まった。


「ただで持っていく人がいるね」


 マイラが目ざとく見つけたようだ。


「上級戦士だよ。トレンから聞いている。市場に獲物を持って来るのは下級戦士だって」


 リッツが解説してくれた。


「貴族階級はどこも横暴だな」

「そうでもないみたいだよ。戦士は市民が手に負えないモンスターを退治するから、尊敬はされている。その証拠にただで持っていっても嫌な顔されていない」

「給料の一種なのかもな」


 貨幣経済を流行らせるとしたら、ディッブ人の分化が破壊されるのだろう。

 俺の役割と違う気がする。

 そこまでする義理はないな。

 でも文化を破壊して、色々な軋轢を解消しないといけないんだろうな。


 歩み寄るなら、俺の国のスライダーも変わる必要がある。


「リッツ、ディッブ人の苛立ちは国の格差だな」

「まあね。個々の力は優れているよ。でも全体だと敵わない。ディッブ人の上の方は頭も良い。戦争したら勝てないのが分かっている。でも戦士としての矜持が邪魔をする」


「矜持ばかり気にするチンピラは早死にする。ずるい奴が生き残る」


 マイラがそう口を挟んだ。


「そこいくとロータリは生き残れそうだな」

「商人は直接の武力では弱いですけども、しぶといですわ」

「みんな仲良くしたらいいのに」

「順列をつけたがるのは本能みたいなものだから」


 レクティとセレンとリニアも話に加わった。


「意識改革は難しそうだ」

「まあね。武力を誇示する奴は分かり易いけど、頑固なのが多いから。損得勘定じゃないので始末が悪い」


 マイラがそう言った。


「ですわね。損得勘定で動く人は操り易いですね。利点を示せばいいのですから」

「となるとディッブ人の利点という面では闘貨は良かったかもな」


「でも、それをスライダーからしか買えないとなったらまた摩擦よね」


 とリニア。

 まあな、そこが難しい。

 ただで渡すという選択肢はない。

 平等な関係を築きたいだけだからな。

 ディッブにはモンスター素材を輸出してもらいたいところだ。


「摩擦は仕方ないですわ。経済でもなんでも動きがあれば摩擦は生じます」

「なるべく摩擦の少ない仕組みが作りたいな」


「ディッブの闘貨を渡し過ぎるのはどうかな。裏切る可能性もある。でも対策は考えてあるんでしょ」

「マイラさん、たぶん停止コードが魔道具に組み込まれていると思いますわ」


「まあねそれは組み込んだ。ある言葉を言うと止まる」

「知られたら一大事ね」

「スライダーでも王族しか教えないんでしょ」


 とリニアとセレン。


「そうだよ。秘伝として伝えていくつもりだ」


 停止のプログラムはこうだ。


 char str[256]; /*音声入力の文字が入る場所*/

 voice_input(str); /*音声入力*/

 if(strcmp(str,"親亀こけたら皆こけた")==0) while(1); /*パスワード『親亀こけたら皆こけた』で停止*/


 このプログラムが闘貨には仕込んである。


「お腹すいたなぁ」


 リニアがお腹をさすった。


「俺も果物が食ってみたいな。リッツ、俺が作った魔道具と交換してこいよ」

「ラノ」


 リッツがミカカ語で返事して離れていった。

 ベーク達は市場の品物を見ている。

 珍しい物もあるからな。


 ディッブ人の不満は分かる。

 1番でないことが嫌なのだと思う。

 武力こそ全ての社会で、武力が他所より劣っている。

 その現実が苛立ちの原因なのだろう。

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