第318話 モンスターと、愛の力と、愛情魔法

 森の中にある村々は極めて原始的だ。

 何本かの柱と葉っぱの屋根。

 これだけで用が足りるのだろうな。


 獲物を求めて頻繁に移動するということが容易に想像がつく。

 たぶんサバンナで生活する民とほとんど生活は一緒なのだろう。

 違うのは森なので果実などの自然の恵みがあるかどうかだ。


「そろそろ、モンスターが強くなってくる」


 トレンが警告にきた。

 食料に集まるのは人だけではない。

 モンスターも同様だ。


「うわわぁぁぁ!」


 泣き声が聞こえる。

 行くと母親らしき人が、ダンプカー程のサイのモンスターから子供を守っている。


「助けるぞ!」


「シチミキ・ニカ!」


 母親が光り輝いて、モンスターを殴り飛ばす。

 そして、腰を抜かして座り込んだ。


 モンスターは脳震盪を起こしたのだろう。

 頭を盛んに振っている。


「隙だらけ」


 マイラが右前足に斬り込んだ。


「頭が高い」


 リニアは触手を出すとモンスターの頭を絡め取って跪かせた。

 マイラは残りの後ろ脚と左前足を切り刻んでいる。


 そして、レクティが瓶を投げた。

 瓶はモンスターの顔面に当たり、液体をまき散らした。


「レクティ、美味しいところを持っていかないでよ」


 リニアが気色ばむ。

 マイラはというと、首を斬り裂いていた。


「止めいただき」

「あら、わたくしの毒で死んでいましたのに」

「いや、生きていたよ。殺す時は確実に息の根は止める。そうでないともしもがある」


 とマイラ。


「私の出番がなかった。とほほ」


 セレンがしょげる。


「みんなお疲れ様」


 トレンが不思議そうに母親と会話しているのが目に留まった。

 何が不思議なんだ。

 ミカカ語なので内容は分からない。


「トレン、何が不思議なんだ」

「光輝くほど魔力を循環させられる戦士はディッブには存在しない」

「そうなんだ。最終奥義みたいなものか」

「そうだな」

「それを成したのが普通の母親だというのが不思議なんだな」


「まあな」

「愛の力だよ。鍛冶場の馬鹿力だが、我が子を守る必死さがなければ、奇跡は起こらない」

「そんな不確定な力に何の意味があるんだ」

「素晴らしいと思わないのか? みんなも素晴らしいと思うよな」


 おも研のメンバーは全員が頷いている。


「素晴らしいのか? 私には分からない」

「大切な人のためなら何倍もの力が出せるんだよ」

「力は自分のために使う物だ」


 個人主義極まれりだな。

 たぶんトラ的な生き方なんだろうな。

 幼児の時ぐらいは面倒を見る。

 でもその後は放っておく。


 さっきの母親は違ったみたいだから、ディッブ人の全員がそういう意見ではないはずだ。

 強い奴ほど個人主義なのだろう。

 弱い生き物は集まって暮らす。

 強い者は、一人で生きる。


 悲しい価値観だな。

 こういう価値観は辞めさせたい。

 でも文化とも言える考え方を変えるのは大変だ。


「大切な人とは、喜びも悲しみも分かち合うことで、喜びは何倍にもなって、悲しみは薄れる。そういうものだ。それが力を生む」

「軟弱な思考だな」

「俺は軟弱だとは思わない」


 トレンは分からなかったようで、俺達から離れて行った。


「ディッブ人に愛情を分からせるにはどうしたらいいと思う」

「そんなの簡単よ。洗脳しちゃえばいいでしょう。奴隷魔法ができたんだから」


 そうマイラが言った。


「ええと、親愛の情をすり込むのか。なんか嫌だな」

「みんなが周りの人間を好きになったら、素晴らしい世界ができ上がるのではないかしら」


「いくら魔法が凄いといってもやりすぎだ」


 憤慨したようなセレン。


「そうね。愛する人ぐらい自分の感情でしたいわ」


 リニアも反対か。

 そうだな。

 奴隷魔法も嫌だったが、今回のもそれと同じぐらい嫌だ。

 作れるけど封印だな。


「自然に愛情を育むのはどうしたら良いかな」

「難しいわね。孤児院では一緒に暮らすと、自然と大切な人になったわ」


 生活スタイルの違いか。

 ディッブの戦士階級は幼児の時に引き離されて訓練をするのだろう。

 たぶんそう思う。

 男女の愛はどうなんだ。


「リッツ、ディッブ人の戦士の求愛はどうやるんだ」

「野蛮だけど、戦って相手の実力が気に入ったら結婚するらしいよ。ちなみに女にはその権利はないみたい」


 女性からは求婚できないのか。

 遅れてるな。

 これを改善するのは一筋縄じゃいかなそうだ。

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