第402話 手品と、腐敗竜と、呪い

「人質を取り返したいが、物は消せないんだよな。飛ぶ板での侵入は却下だ」

「私が一人ずつ抱えて助け出せば」

「そんなのばれるに決まってる」


 マイラの言う通り、ばれるに違いない。


「要は手品をやれば良いのではなくって。ホログラフィで人を映しておいて、逃げればいいのよ」


 レクティの案が良いかな。

 ホログラフィの画像を作るために、リニアに抱えられ、陣地まで飛ぶ。

 獣人は仮設された檻に閉じ込められている。

 ひとりひとり、イメージを確認して魔道具を作る。


 作戦の開始だ。

 獣人の檻に近づいて、魔道具を檻の中に放り込む。

 獣人がホログラフィと姿隠しの魔道具を同時に使う。

 今は夕暮れだから、遠目には分からない。

 牢の柱をノコギリで斬って獣人を外に出した。

 柱をまた接着させれば元通りだ。


 出した獣人をリニアが抱えて運ぶ。

 うん、上手くいっている。


 兵士が巡回にきた。


「異常なし。しかし、腐敗竜ディケイの祟りか。この遠征は上手くいくのかな」

「士官のいる前でディケイの話はやめておけ。殴られた奴もいるそうだ」

「そんなへまはしないさ。士官がピリピリしているってことは、ディケイの話は信憑性があるってことだな」


 兵士が雑談しながら去って行った。

 リニアが音もなく舞い降りる。

 風が吹いたので来たのが分かった。


「よし、次の人だ」


 同様の手口で獣人全てを助け出した。

 ホログラフィの魔道具に付けた糸を手繰り寄せ魔道具を止める。

 さて撤収だ。


 来た時と同じようにリニアに抱えられ、空を飛んだ。

 周りは既に真っ暗で、かなり怖い。

 リニアは夜目が利くから問題ないのだろうけど。


「竜神使いの魔王様、腐敗竜の祟りに遭わないようにするにはどうしたら良いですか」


 獣人が聞きに来た。

 腐敗竜の話が広まっているらしい。


「食べ物を扱う前には手洗いする。食材はちゃんと火を通し、料理はすぐに食べる事。残さないことが望ましい。拾い食いなどもってのほかだ」

「言われた通りにいたします。腐敗竜ディケイってどんな形何ですか?」

「腐敗竜の恐ろしいところは見えないんだ。すぐそばにいても気が付かない」

「それは恐ろしいことです」


 獣人が去って行った。


「ぷぷぷっ、腐敗竜だって」

「マイラもスラムにいた時は腐敗竜の祟りに遭っただろう」

「遭ったよ。それはもうたくさん。それで死んだ奴もいる」


 アスロン侯爵軍に動きがあった。

 食中毒で動けなくなった兵士の代わりにスケルトンが増員された。

 スケルトンを壊すのは心が痛まなくて良い。

 大歓迎だ。


 食中毒作戦は続けるとして、祟りとしてやるなら、猟奇殺人だな。

 どんなのが良いだろう。

 できれば幹部を始末したい。


 近づくとばれるだろうから、遠くから狙撃してなおかつ、猟奇殺人か。

 俺は誘導弾で糞を飛ばした。

 朝起きてテントから出て深呼吸している士官の口にぶち込んだ。


 腐敗竜はケツの穴から入って口から出てくるなんてデマを老婆のフォログラフィで流した。

 士官が用心するようになって、テントから出てくる頻度がめっきり減った。


 うん、上手くいっている。

 次はどうしようかな。


「セレン、出番だ。体の中に異物を送り込めるよな」

「ええ」

「錆びた針を送り込んでやれ」


 腐敗竜の呪いは錆びた針を知らないうちに飲ませるというデマを老婆のフォログラフィで流した。

 何人かの兵士が手足の痛みを訴えて、軍医が見たら、針が出てきたというわけだ。


 兵士達は震えあがった。

 錆びた針の兵士は死んだからな。

 雑菌が肉体に入ればそういう事もある。


 俺はリニアと一緒に陣地に忍び込んだ。


「俺、腐敗竜に目を付けられないか心配なんだ」

「士官の話では腐敗竜なんていないと言っているが」

「俺はいるほうに信じるね。近所の爺さんが足が痛くて眠れないと言っていた。あれはきっと腐敗竜の仕業さ」


 たぶん、神経痛だろう。


「士官に聞かれたら懲罰くらうぞ」

「くわばらくわばら」


 腐敗竜の話は確実に広まっている。

 士官をやりたいな。

 何か良い手はないだろうか。


 よし、天幕を腐敗させよう。

 水分と菌と熱があればすぐに物は腐る。

 これを維持する魔道具は簡単だ。


 魔道具を天幕に貼り付けた。

 一日で異臭が立ち込めた。

 雑巾も一日で臭くなるからな。


 もうこれでいいな。

 俺は魔道具を回収した。


 腐敗竜のデマを流したのは言うまでもない。

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