第217話 親に挨拶と、親会社の偉いさんと、セレンの絵

 セレンの親に挨拶に行く事になった。

 セレンの親がいる場所は王都の隣の街だ。


 空を飛んで、1時間ぐらいで着いた。

 時刻は夕方だ。


 緊張するな。

 身なりを確かめてから、セレンの実家に入る。


「ただいま」

「おかえり、そちらは」


 セレンによく似た女性が迎えてくれた。

 セレンのお母さんだろう。


「あはは、婚約者」

「なにー! 許さんぞ!」


 セレンのお父さんだろう。


「お父さん、もうやめてよ。みっともない」

「小さい時はパパと結婚するって言ってたのに」


「初めてお目に掛かります。タイトと言います」

「ふん」

「あなた、大人げない。どうぞ狭い家ですが、我が家と思ってくつろいで下さい。大変、ごちそうを作らないと」

「私も手伝う」

「そんな奴に食わせる料理はない」


「お父さん。いい加減怒るよ。どこが気に入らないのよ」

「すべてだ。なよなよしやがって。そんなので娘を守れるものか」

「タイトは魔王なのよ。ドラゴンだってひれ伏すわ」

「まあまあ」


「経済力はどうなんだ?」

「たぶんどの貴族より、お金持ちよ」


「ふん、名声はどうだ?」

「魔王で王族なのよ」


「くっ、認めんぞ。どこかに欠点があるはずだ」

「ないわね」

「そんなはずはない。そんなに凄い男なら、他の女性も放っておかないだろう」

「それは……」

「それは何だ?」

「婚約者は4人いる」

「ほら見た事か。絶対に認めんぞ。第一王族では身分が釣り合わない。不幸の元だ。やめておけ」

「もうお父さんなんか知らない」


 セレンが出ていった。

 俺は後を追いかけた。


「セレン、良いお父さんじゃないか。セレンが心配なんだよ」

「そうかな。アラを探しているとしか思えない。誰を連れて来てもきっと気に入らないんだわ」

「戻って一緒に料理しよう」

「そうね」


 セレンと俺とお母さんで料理を作る。


「お土産があったんです。遅くなって申し訳ありません。魔道具の詰め合わせです」

「まあまあ、ご丁寧に」


 料理が出来あがったので、食卓に運ぶ。


「あなた、お土産を頂いたのよ。お礼を言って」

「ふん」


 微妙な感じの食事が始まった。

 お父さんは食わないとは言わないんだな。

 セレンの手料理が嬉しいのかな。


「お父さんは何をされている方なんですか」

「お父さんなどと呼ぶな。気色悪い」

「お父さんは、商会で働いているのよ。たしか、トグル商会だった気が」


 どっかで聞いた名前だな。

 ええと、元締めの所、クラッド商会の取引先だ。


「クラッド商会とはお付き合いさせて頂いてます」

「何っ! もしかしてオルタネイト商会ともか」

「ええ」

「そんな嘘を言っても駄目だ」


「お父さん、婚約者の一人はオルタネイト伯のお嬢様なのよ」

「えっ」

「どうしたの?」

「トグル商会はオルタネイト商会の子飼いだ」


 うわっ、中小企業に勤めている人の娘が連れて来た婚約者が、親会社のご令嬢と結婚するってわけだ。


「ぐぬぬ」

「お父さん、片意地張っても仕方ないわ。タイトは凄いんだもの」

「娘をよろしく頼む」


 強張った顔で言われてしまった。


「はい、分かりました」


 何だかなぁ。

 俺としては趣味の話題とかで仲良くなって、それでって展開が好きなんだけどな。

 オルタネイトの名前は凄い。

 王国で有数の資産家だものな。

 どこと繋がりがあるか分からないぐらい人脈があるんだろうな。


「タイトは魔道具作りの天才なのよ」

「もしかして魔法陣もか」

「そっちは4人いる婚約者のうちのマイラって子が主にやっているわ」

「魔法陣の生みの親じゃないか」


「そうなのよね。4人のうち、私だけが平凡で」

「セレン、あなたにはあなたにしかない良い所があるわ。自信を持ちなさい」

「お母さん、でもそれが分からないのよ」

「セレン、あなた絵が得意だったじゃない。本格的にやってみたら」


 絵の仕事はいいかもな。

 優劣を無理してつけなくても良いからだ。

 売れなくても自分が満足してれば、やっていける。

 本業は必要かもしれないが。


「やってみたら、良いと思うよ。応援する」

「医者の勉強の気晴らしが欲しかったの。ちょうどいいかも」

「とりあえず。ペットゲームのグッズデザインとかを頼む。なに、売れなくても良いんだ。もっともレクティが容赦なく駄目出しするかもだけど」

「やってみる」


 セレンがやりたい事を一つ見つけてよかった。

 大成する必要はない。

 そこそこに出来れば良いんだ。

 もっとも他の3人より絵が上手い気がする。


 マイラは前衛的な絵を描きそうだ。

 レクティは基本に忠実な絵を描くんだろうな。

 リニアは子供の落書きの延長みたいな絵を描きそうだ。

 俺は絵は駄目だ。

 上手く描けた記憶がない。

 みんなより下手かもな。

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