第172話 サイリスの体と、リニアの復学と、依頼達成

 演習旅行から帰ってきて、しばらく経ったある日。


「こんにちは」


 金髪になって眼鏡を辞めたリニアが姿を見せた。


「こんにちはなのだ。リラの姉妹なのかね」

「リラ改めリニアよ」

「驚きなのだ。リニアは死んだと思ってたのだ」

「ではリニア嬢に花束をどうぞ」


 アキシャルも最近になって復帰した。

 仮面の軍団はあれで打ち止めらしい。


「雑草並みのしぶとさ。さすが駄犬」

「色々と命の危険があったから、変装してたの」


 そういう事にしたのか。


「サイリスの体が出来ているぞ」


 俺は40センチぐらいの、白い犬のぬいぐるみを出した。


「お願い」


 粘土の体から魔石を取りだし、ぬいぐるみに埋め込む。

 五感の魔道具を取り付け、動作の魔道具も取り付ける。

 とりあえずは完成だ。


 白い犬のぬいぐるみが、元気に歩き回る。


「これは欲しいのだ」

「偶然出来たものだから、二つは作れないんだ」

「残念なのだ」


 そういう事にしておく。

 魂を弄ぶ必要はない。

 その権利もない。


 いくらモンスターといえども魔石の中に閉じ込めるのは可哀想だ。

 サイリスだって必要が無ければやっていない。


「わふん」


 サイリスから声が出る。

 声の魔道具も付けておいた。

 種類は限られるが声が出せる。


「リニアはお別れにきたのか?」

「ううん、リニアとして復学する事にしたのよ。親に貰った名前だから、捨てたくないわ。私の事をリラって呼んだら殺すかも。なんてね」


 あのへんな喋り方がなくなって、リラとは違うのだなと認識できた。


「サイリスの目から光線を出すのだ」


 エミッタがそんな事を言い始めた。

 怪獣映画じゃあるまいし。

 マイラの方を見たらワクワクした目つきをしてた。

 マイラ、お前もか。

 そんな機能は付けないよ。

 でも目からライトなら、ありがちだけど便利かなと思う、


 セレンはサイリスを突いてはウザがられている。

 ペットゴーレム人気だな。

 決まった動作しか出来ないのなら作れる。

 音声認識で挨拶を返すぐらいは作れるけど、需要はあるのかな。


 レクティがそばに寄って来て俺に囁く。


「リラの正体はリニアだったんですね」

「そうだ」

「悔しいです。行方不明者の情報もあたるべきでした」

「俺は元々依頼でリニアの情報を見てたからな。そうでなければ、気づかないところだ」

「リニアさんはあなたの事を本気なんでしょうか」

「キスされたけど、分からないな。なんとなく軽い雰囲気があったから」

「でもリラさんならともかく、リニアさんは軽くないですよね」


「守ってやるといって、命の危機を救ったんだけど。客観的に見てどう思う?」

「それは惚れますね。絶対です」


「そうか」

「遠くを見つめるような目をしても現実は変わりません。そこまで言って行動したのなら、責任を取らないと」

「ええっ、俺が責任を取らないといけないの」

「男ならそうですね。惚れさせたのですから、責任は取らないと」

「レクティのライバルが増えるよ」

「望むところです。やる気が出ます」


 さいですか。

 婚約者が4人に増えそうだ。

 仕方ないと割り切れたらどんなに良いか。

 この世界の貴族はどうかしている。

 妻が何人もいて楽しいのか。

 常識的に考えて修羅場だぞ。

 こうなったら、必殺先送り。

 問題を先送りだ。


 おも研の活動が終わってから、俺はギルドに顔を出した。


「久しぶりね。鎌鼬のマイラ」


 いつもの受付嬢が俺達を迎えてくれた。


「ほんと久しぶり」

「野垂れ死んでいなくて良かったわね」

「あなたもね」


「依頼達成の報告をしたい」


 俺は依頼書を出した。


「1年以上前の依頼書とは、随分長いですね。報告をどうぞ」

「行方不明のリニアは無事生きて見つかった。今は魔法学園に復学している」

「後日、ギルドの職員が確かめましたら、依頼料を振り込ませて頂きます。お疲れ様でした」


 これで本当に終わった気がした。

 いいや、始まりかな。

 終わりであって始まり。

 ギルドの依頼は終わったが、新しい依頼は俺からだ。

 リニアを友達として見守る。

 それが新しい依頼だ。

 この依頼は時間がかなり掛かりそうだ。

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