第293話 悪化と、魔法と、祈り

「こほっ」


 また、ラチェッタの咳が出てきた。

 病気が悪化したらしい。

 抑制の魔道具を起動しているのにだ。


 現段階で俺に出来る事はない。

 ラチェッタのために出来ること。

 束縛魔法を作ろう。


 よし、出来た。

 魔道具にした。

 あとでラチェッタに渡しておこう。


 ついでに、ベスに頼まれた電撃魔法を作ろう。


 うん、出来た。


「よし、休憩だ」


 俺の乗っている板はマイラが操縦している。

 緩やかに板が停まった。

 スピードを段々減速していくとはマイラはやるな。


 使いこなしてる。

 リニアはターンして急に停まる。

 こちらはスキーでも見ているみたいだ。


「こほっ」


 ベークが操縦している板も停まる。

 一緒に乗ったラチェッタが降りた。


 レクティは前のめりになって停まった。

 セレンは飛び降りて足でブレーキを掛けた。

 靴底がすり減るぞ。

 恰好良いけど。


 コネクタは無難に停まった。

 だが、ベスがコネクタの背中に盛大に頭突きをする。


 急ブレークあるあるだ。


 みんな魔道具のコンロで湯を沸かし始めた。

 ティタイムにするらしい。

 すぐにヤカンのお湯は沸騰した。


 音が出るケットルとかあったな。

 あれは単純な構造だった。

 こんど提案してみようか。


「こほっ」

「ラチェッタ、また咳が出てきたな。セレン診てやってくれ」

「はい」


 セレンはラチェッタを診察して、首を振った。

 お手上げらしい。


 レクティが優雅な手つきでお茶を淹れてくれた。

 お茶の香りが凝った頭をほぐしていくようだ。

 空を飛ぶ板の運転は疲れる。

 みんなほっとした顔を見せていた。


「こほっ」


 ラチェッタは相変わらず咳をしている。

 こうなれば特効薬であるアレグラジオン草を一刻も早く見つけないといけないようだ。


「僕は何をしたら良いんだ」


 ベークの問いに誰も答えない。


「励ましてやるんだよ。病は気からだ。それしかない」


 俺はそう言ってベークに視線を向けた。


「ラチェッタ、僕がついている。病気が辛かったら僕を殴ってくれたっていい」

「こほっ、そんなこといたしません。こほっ、その気持ちだけで十分ですわ。こほっ」


 甘い空気が流れた。

 コネクタとベスが羨ましそうに見ている。

 コネクタとベスにも誰か紹介した方が良いのだろうか。


「ベーク、魔法が出来た。翻訳してやってくれ」


 俺は甘い空気をぶち壊した。

 これ以上だと湿っぽくなりそうだったからだ。


「できたよ」


 ベークがC言語を普通の言葉に翻訳して紙に書き込む。

 リッツがそれを覗き見た。


「ちょっと、ソ・ミカカ語に翻訳出来ないな。帰ってトレンに聞かないと」


 リッツは新しい魔法に興味津々だ。

 和やかにお茶を飲んで、またリフレッシュできた。

 ラチェッタの咳が収まったが、一時的なものだろう。


 ええと花粉症の治し方って何かあったかな。

 今一度思い出してみる。

 杉茶なんかが良かったようだ。

 でもあれは薬を飲んでいるのと変わらない。


 ベークがラチェッタに優しく毛布を掛ける。

 暖かくして治るのはウイルス性の病気だぞと声にでかかった。

 でも満足そうなラチェッタの顔をみたらまあ良いかと思い直した。

 あれも励ましの一種だろうから。


 コネクタとベスがやはり羨ましそう。


「二人とも誰か紹介してやろうか」

「「お願いします」」


 ええと、レクティの伝手だと部下の間諜が来る可能性が大だ。


 王宮関係だと有能な人が来そうだ。

 ランシェに頼むのもありかな。


 元締め関係だと、堅気を頼むと言えば、商会の有望株が来るだろう。

 これもありだな。


 カソードなら、生徒会長だから、生徒に対する人脈はあると思う。

 一つ頼んでみよう。


「ラチェッタの病気が治ったら紹介してやるよ」

「俺達の未来のためにも、ラチェッタ、早く良くなって」

「ですね」


 二人とも祈りを奉げた。

 祈って治るわけじゃないが、思われるだけで力になると思いたい。


――――――――――――――――――――――――

 拘束魔法と電撃魔法です。

 読まなくても別に構いません。

 せっかく書いたので載せておきます。


トラップ拘束魔法


#include <stdio.h>

#include <stdlib.h>


extern MAGIC *obj_make(long obj_size_mm,int image,int attri);

extern int touch(MAGIC *mp);

extern MAGIC *stone_bind(float mana);

extern int mclose(MAGIC *mp);

void main(void)

{

 MAGIC *mp1,*mp2; /*魔法の定義*/


 mp1=obj_make(1,IMAGEBALL,HOLOGRAPHY); /*1ミリのボールをホログラフィで生成*/

 while(touch(mp1)!=1); /*ボールに触った*/

 mp2=stone_bind(100.0); /*石で束縛*/

 mclose(mp1); /*魔法終わり処理*/

 mclose(mp2); /*魔法終わり処理*/

}


電撃魔法


extern MAGIC *electric_make(float mana);

extern void magic_direct(MAGIC *mp,char *orbit,int orbit_size,char *target_data);

extern int mclose(MAGIC *mp);


void main(int argc,char *argv[])

{

 char orbit[10]; /*軌道データ10個*/

 int i; /*カウンター*/

 MAGIC *mp; /*魔法の定義*/

 mp=electric_make(100.0); /*電撃を作る*/

 for(i=0;i<1000;i++){ /*千回繰り返し*/

  magic_direct(mp,orbit,sizeof(orbit),argv[1]); /*目標に向かう軌道データ生成*/

  magic_move(mp,orbit,sizeof(orbit)); /*軌道データ通りに動かす*/

 }

 mclose(mp); /*魔法終わり処理*/

}

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