第291話 病気と、ヒスタミン抑制と、薬草

「こほっ」

「ラチェッタ、風邪かい」


 ベークがラチェッタを優しく労わる。


「こういう時の魔法がある。【ウイルス除去】」


 俺はスペルブックを開いて、ウイルス除去の魔法を唱えた。


「こほっ、こほっ」

「あれっ、治らないな。ウイルス性の病気じゃないのかも。【完全回復】」

「こほっ」


「ラチェッタ、大丈夫? 今日はもう休みなよ」

「ベーク待て、これはちょっと厄介な病気かも知れない」

「こほっ、こほっ」


 ウイルスも完全回復も効かないとなると、どういう病気だろう。


「私が診るわ」

「セレンは医者の資格を取るための勉強をしているんだったな」


 セレンがラチェッタの脈をとる。

 そして、おでこに手を当ててから眼球を覗き込む。

 喉の奥も覗いて、考え込み始めた。


「たぶん、魔力過敏症ね」

「ラチェッタはどうなるんだ!」

「ベーク、慌てないで。死ぬような病気じゃないから。魔力を異物として体が排除するのよ」


 ええと、アレルギーみたいなものか。

 アレルギーで死ぬ人もたしかいたな。

 花粉症ぐらいならいいけど。

 アレルゲンである魔力は1年中、空気に含まれている。

 治らないと、ちょっと可哀想だ。


「セレン、治療法は?」

「ないわ」


 俺が尋ねると、セレンは首を振った。

 魔法で何とかしたいが、アレルギーの仕組みは、俺の前世でもはっきりと判らなかった。

 ある日、突然発症する。

 前世でも治療の仕組みも分からない。

 科学物質が影響しているらしいが。


「こほっ、こほっ」

「待って、文献をあたってみる」


 セレンがおも研の部室から飛び出すように出ていく。

 どうやら、魔力過敏症は難病のようだ。


 さて、俺が出来る事は?

 アレルギーを引き起こす化学物質はヒスタミンだ。

 体からこれを排除すると、なんかやばそうだな。

 必要だから体内にあるんだし。

 発生を抑制するってのが良いんだろうけど。

 じゃあ、こんなのかな。


#include <stdio.h>

#include <stdlib.h>

#include <string.h>


extern void mystery_magic_name_get(char *str);

extern void suppresses_histamine(char *str);

void main(void)

{

 char str[256+5]; /*神秘魔法名の格納場所*/

 mystery_magic_name_get(str); /*神秘魔法名ゲット*/

 strcat(str,".body"); /*神秘魔法名に『.body』を連結*/


 while(1){

  suppresses_histamine(str); /*ヒスタミンを抑制*/

 }

}


 魔道具に作ってみた。

 ラチェッタに身につけさせ起動する。


「どう?」

「少し和らぎました」


 ヒスタミン抑制では対症療法にしかならない。

 これから酷くなる可能性もある。


 花粉症は前世で同僚が罹ったので、いくらか仕組みを調べた。

 それを覚えていた。

 前世の記憶を忘れないという特性が今日ほどありがたかった事はない。

 でも医学書みたいなのを読んでおかなかったのが悔やまれる。


「くっ、何にも出来ないこの身が恨めしい」


 ベークがうなだれる。

 ベーク程じゃないが、俺だって無力だ。


 セレンがメモを握り締めて帰ってきた。


「魔境の森に特効薬があるらしいわ」


 魔境の森というとアルゴだな。


「なんと言う薬草だ?」

「アレグラジオン草よ」

「僕の全財産を叩いてもいい。買えないのか?」


 ベークがそう言った。


「無理ね。幻の薬草だから」


『アルゴ、アレグラジオンという薬草は知らないか?』


 アルゴに伝言魔法を飛ばす


『知りませんね。申し訳ない』


 現地で探すしかないようだ。

 モンスターは別に脅威ではない。

 問題は広大な森からどうやって薬草を探すかだ。


「セレン、アレグラジオン草の絵とかないのか?」

「もちろんあるわよ。複写の魔道具で写してきたわ」


 魔境の森へ行かないといけないようだ。

 季節は、すぐに夏休み。

 ちょうど良い。


「みんなで遠征しよう」


「久しぶりね」

「薬草採りなら任せて下さいませ」

「私の鼻は犬より鋭いわ」

「ええと、目には自信があります」


「僕も行く」

「わたくもお供しますわ」

「ラチェッタは休んでいろよ」

「みなさんが必死になって探しているのに、わたくしだけが寝ているわけには参りません」


「同志よ。協力させてもらうよ」

「魔境は一度行ってみたかった」

「わたしだけ行かないという選択肢はないわ」


「よし、全員参加だな。夏休みまであと数日だ。野営道具の準備をしとけよ」


 みなから、威勢良い返事が返ってきた。

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