第223話 熊の置物と、盗聴器と、罠

 授業が終わり、おも研の部室にマイラと顔を出した。


「むっ、誰かに話を聞かれている。そこっ」


 マイラが指さした先には、置物が置かれてた。

 可愛らしい熊の置物だ。

 女の子が好きそうなデフォルメがしてある。

 魔道具の盗聴器かな。

 魔道具を停止させた。

 それで、魔道具を解析して、どこで盗聴しているか突きとめた。


「ダイナ、頼む」


 ダイナに頼んだから、王家の影が対処するだろう。

 この置物は誰が置いたのか。

 メンバーが全員そろったところで何気なく聞いてみる事にした。


「熊の置物可愛いね。別の種類があったら、買ってみたい」

「ああ、それ。この間、先輩がデートした時に買った奴だ。俺が置いたけど不味かった?」


 そうリッツが名乗り出た。


「いいや。マイラが欲しがったから、譲ってくれないか?」


「別にいいですよ。それ気に入らなかった奴なんで。値段も銅貨1枚だったから」

「どこの店?」

「地図を描いてもいいけど、会員制で決まった日しか店を開けないらしいよ。入れるかなぁ」


 リッツから地図を貰い置物の熊を撤去する。

 熊はレクティが持っていった。

 製造元を突き止めるらしい。

 こういうのは職人の癖が出るので、工房に聞けば作った職人が分かるんだそうだ。


 みんなが帰ったので、4人と俺で会議をする。


「リッツはかなり怪しいですわね」

「まあね。俺も否定しない。でも隠そうとしないんだよな。利用されているのかも」


おぼろ、報告を」

「へい」


 マイラの言葉で、音もなく扉を開けて、男が現れた。

 幽霊みたいな男だな。


「リッツの交友関係で怪しいのはおりません。買い物につき合った女達と、どうやって繋ぎを取ったのかも不明となっとります。女達にはかれました」

「マイラ、いつの間に密偵を雇ったの?」

「スラム時代の伝手よ。お金を払えば何でもする奴は多いから」


「ではあっしはこれで」


 足音も立てずに男が去る。


「レクティの所も似たり寄ったりか」

「悔やしいですが、そうですね。付け加えるなら、鍵を売った男との接点も見つかってません。それとリッツが利用したダンスホールの控室に盗聴魔道具らしき物が置かれてました」

「どんな形の?」

「柄にライオンの頭が付いた靴ベラです。ライオンの中に魔石があるので、魔道具だと思います」

「リッツは盗聴器をばら撒くように言われたのかな。聞いてみるか」

「ですね。直接聞くのが手っ取り早いでしょう」


「セレンとリニアはなんかある?」

「なんか諜報組織の幹部の集まりみたいだね」

「こういう仕事は嫌いだわ。腕力でなんともならないから」


 ノックの音がして、ドアの隙間から紙が入ってきた。

 レクティがそれを読む。


「あの女達の店はもぬけの殻だそうです。近隣の人の話では何年も空き家だとか。置物の職人は突きとめましたが、依頼主は分からずじまいですわ」


 レクティの所は仕事が早い。

 さっき情報を渡して、1時間ぐらいでこれだものな。


 さて、リッツに話を聞くか。

 リッツの所は男子寮なので俺が聞きに行った。


「ダンスホールの控室に靴ベラを持っていった?」

「置いたけど、私物を置いたら不味かったですかね」


 あっけらからんと言うリッツ。

 これで嘘をついていたら大した役者だ。


「そうだね。みんなが使う所だから、私物を置かれると色々と不味い。少し不味いと知って何で置いたんだ?」

「占いに出てたんだ。出先の部屋にライオンの物を置くと良いって。1日だけの話だから、片付けてもいいよ」

「リッツはもう靴ベラは要らないのかな」

「手元に戻ってくると不吉らしいんだよね。そっちで処分してほしいなぁ」


 みんなの所に戻る。


「簡単にリッツが置いたと認めた。占いに従ったと本人は言っているが、嘘だとは思えない」

「利用されている可能性は高いでしょうね。ですが、こう尻尾を掴ませないのは手練れですね」


「あの」


 セレンが手を上げる。


「何?」

「罠を張ったらどうですか」

「セレン、ナイスな意見だ」

「どうやるの?」


「私達が暮らしている寮に招くんです。それで敵なら何かしらの反応を示すと思う」

「うん、チャンスだとみれば、何かするか。やってみよう」


「見張りは任せて。リッツの挙動は見逃さないから」

「わたくしは部下に外を警戒させます」

「私はお茶を淹れます」

「荒事はないと思うけど、リッツが暴れたら取り押さえるよ」


 作戦は決まったな。

 そうだ招く口実をどうしよう。

 ええと、そうだ。

 説教してやれ。

 ソレノが居ながら、女といちゃつきやがってと。

 軽く叱ればいいだろう。

 口実だからな。

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