第154話 ワイバーンの群れと、月光草の真実と、陰謀の痕跡

 魔の森に入ったが、ドラゴンのアルゴは来ない。

 通信魔法で呼び掛けたが、反応がなかった。

 さては、アルゴの奴、寝ているな。


「ごめん、アルゴの奴、寝ているみたい」

「そうなのかね。おねむなら仕方ないのだ」

「じゃあ、せっかくだから魔の森を探索してみようか」


 みな頷いた。

 さて、何が出てくるかな。


 期待に胸を膨らませてぶらついたが、モンスターのモの字も出て来ない。

 どうなっているんだ。

 おかしい。

 これはアルゴと出会った日みたいだな。


 遠くから鳴き声が聞こえてきた。

 空を見ると、ドラゴンの姿が沢山ある。


 アルゴの同族はこんなにいたのか。

 そう思ってよく観察すると腕の形状が違うのに気が付いた。

 ドラゴンは前足と翼が一体化してない。

 このモンスターは翼と前足が一体化している。


「ワイバーンなのだ」

「呑気に話している暇はなさそうだ。みんな前に出るなよ」


 俺は魔力100万で作った推定580メートルの火球を放った。

 ワイバーン達は火球に飲み込まれ次々に落ちていく。


 俺は外付け魔力の魔道具を切り替えた。

 もう一度火球を放つ。

 ワイバーンは恐れるふうもなく火球に突っ込んで来る。

 楽で良いんだが、恐怖心って物がないのかな。


 ほどなくしてワイバーンの群れは片付いた。


「タイト先輩、すごーい。尊敬しちゃいます」

「ワイバーンといえば1頭でもSランクのモンスター。素材が勿体ないな」


 そうセレンがしみじみと言う。

 素材の回収はめんどくさいな。

 どこに落ちたか覚えていない。

 かなり遠かったから、辿り着くのも大変だ。


 その時ドスンドスンという足音がした。

 見るとアルゴがワイバーンを食っていた。


『アルゴ、何しているんだ?』


 俺は通信魔法で呼び掛けた。


「食事中」


 見ると翼がボロボロだ。

 どうやら飛べないらしい。

 この大きさのドラゴンにここまで手傷を負わせるモンスターがいるのか。


『誰にやられた?』

「にっくきワイバーンにです」


 確かにドラゴンに手傷を負わせるのならワイバーンの群れが必要か。

 ワイバーンの大きさは100メートルはある。


 アルゴが300メートルだと言っても、100メートルが群れで襲ってきたらこんなものか。

 俺はアルゴを完全回復してやった。

 ドラゴンに回復魔法掛ける日がくるとはな。


『月光草という花を探している。満月の夜だけに咲くらしい。知らないか?』

「それは詐欺師がでっち上げたホラですよ」

『なんでアルゴが知っている?』

「300年前にその詐欺師に会いました。自分のついた嘘で、探しに行けと言われて、魔の森にまで探しにきたそうです。可哀想なので珍しい花を持たせてやりました」


 300年前の事を覚えているなんて凄いな。

 脳みそがでかいから、沢山記憶できるのか。

 長く生きる生物だから、寿命に対応しているのかも知れない。


「リラ、残念だが、月光草はない」

「えーん、無駄足になっちゃった。でも、ないかな。てへ」


 アルゴの案内で倒したワイバーンの魔石を採った。

 だが、一頭が持ち去られている。

 モンスターの仕業かな。

 魔の森だから100メートルクラスのモンスターは他にもいるのだろう。


「今回は残念だったのだ。でも、あと3つ残っているのだ」

「月光草の偽物の花を見てみたかった。美しいのだろうね。非常に残念だ」


「ついた嘘で命を縮める。スラムの常識」

「殺し屋の常識にも当てはまります」

「詐欺師は無事、帰れたのかな。伝説が残っているという事は帰れたんだろうな」


 と俺が言うとセレンが。


「帰れなかったと思うよ」


 と吐き捨てた。

 帰れば花の効用が証明されて、何も効果がないと判れば詐欺だと分かる。

 ということは手帳かなんかに書き記したんだな。

 それを発見した誰かが伝えたんだろう。

 そんな推測が成り立つ。


「今回は大収穫でした。ワイバーンの毒針を手に入れられましたし、毒のレシピも手に入れられました」


 そうレクティが喜んだ顔で言った。


「毒?」

「ワイバーンを狂わせた毒です」

「今回の事は仕組まれたという事か」

「ええ、間違いなく。ワイバーンの歯の間に仮面が引っかかっていました。たぶんドジな犯人の一人が食われたのでしょう」


 魔導師の奴らの仕業か。

 どこへでも出てくるな。

 アルゴが狙われたのかな。

 モンスターを倒すのは悪とは言えないが、俺的にはアルゴは友達だ。

 死んで欲しくない。


 俺はワイバーンの魔石で完全回復の魔道具を作って、アルゴに渡した。

 これで即死しない限りは平気なはずだ。

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