第155話 親族見学会と、魔法の歴史と、リラの病気

 魔の森への旅行休暇が終わり、学園は親族見学会で一色。

 親が来ているからといって別にどうという事はない。

 転生後の俺の親はいないからだ。


「へっ、ランシェが来てる」


 騒がしいなと思って後ろを振り返ると、俺の義理の母であるアヴァランシェ・バラクタが来ていた。

 アヴァランシェ・バラクタ、愛称ランシェは王族で王家の影を指揮している。

 情報機関を掌握しているのだから権力があり、とうぜん忙しい。

 無理しちゃって。

 いいや、理由もなしに来るはずがない。


 魔導師と対抗組織レジスタとの戦いの何かがあるのか。

 建国祭で双方に死人が沢山出た。

 そのせいかここ1ヶ月は落ち着いている。

 また、一波乱くるのかな。


「ええ、では魔法の歴史をやります。古代魔法文明の事はよくわかっておりません。原初の魔王ラジアルが魔法を発明したと伝えられています。石板が多数見つかってその事が書いてあるのですが、捏造の可能性も指摘されています」


 退屈だな。

 暗記問題みたいな学問は、ただひたすら退屈だ。


「無詠唱と短縮詠唱の発明もラジアルの手によるものとされています。古代の呪文をお教えしましょう。『ハニスイコチリリ』です。ちなみに普通の人が唱えてもどうにもなりません。何故だか誰か分かりますか?」


 誰も手を上げない。

 仕方ないな。

 俺は手を挙げた。


「はい、タイト君」

「言葉を言語として認識してないからです。言語として認識していれば、異世界の言葉でも魔法が使えるはずです」

「素晴らしい答えです。みなさん拍手を」


 拍手が起こる。


「そうです。音として認識していたのでは魔法となりません。この魔法として使えるかどうかの境界は、日常会話ができる程度と思われます。『ハニスイコチリリ』この言葉は火球を意味します。皆さんも古代語を勉強すれば、古代語で魔法が放てます」


 講師が水を飲み、喉を湿らす。


「ちなみに古代人の魔力は100万を超えていました。驚きですね。実は魔力は低下する一方だとの統計があります。この事から、魔法を使える人類と使えない人類がいて、我々はその混血だと思われます。未来では人類全てが平均魔力100になるはずです」


 古代人の血が薄まってきているのだな。


「タイト君に続く魔王はもう現れないとの見方が一般的です。では今日の授業は終わりです」


 やっと終わったよ。

 隣の席のマイラを見たら寝ていた。

 俺は優しく揺さぶった。


「終わったよ」

「んっ、敵襲?」

「授業が終わったよ」

「じゃあ、パーティだ」

「そうだね」


 懇親会という名前のパーティに出席する。

 オルタネイト伯爵を見つけたので挨拶する事にした。


「お久しぶりです」

「大活躍じゃないか。レクティから報告は聞いているよ。ワイバーンの群れを退治したんだって」

「魔法を使えないモンスターなど、どのようにもなるさ」

「素晴らしいね。オルタネイト伯爵を継いでみないか?」


「統治と魔法は別物だと考えてる」

「そうだね。それが分かっていれば務まりそうだけどね」

「やめておくよ。男爵ぐらいが俺にはちょうど良い」

「その無欲さが、やっぱり凡人とは違うね。普通、力を持つと野心が芽生えるものさ」

「なんて言うのかな。身の丈を知っているからかな」

「気が変わったらいつでも言ってくれ」


 オルタネイト伯爵と別れた。

 リラも来ているな。

 そう思ったら、リラが突然倒れた。

 悲鳴が上がる。


 リラには魔導師が駆け寄った。


「お騒がせしてすみません。お酒を飲み過ぎたようです」


 そう魔導師が言って、3人掛かりでリラを運び出した。

 本当に酒の飲み過ぎか?

 怪しいのだが。

 それよりリラの介抱をなぜ魔導師がする。

 病気だと言っていたから魔導師の主治医なのかも知れないが、怪しいな。


 それも気になるが、ランシェに挨拶しておかないと。


「ご機嫌はいかがですか」

「最悪である」

「何故と聞いても?」

「情報が入って来なくなったのであるな」

「下火になって良い事じゃないですか」

「こういうのは嵐の前の静けさと言うのである。しかも何が起こるか分からん」

「ですか。対症療法に徹するしかないのでは」

「それが腹立たしいのである」


 ランシェがここに来たのは焦れたからか。

 情報を得る為に来たのだな。

 リラの倒れた件といい、何か起こらないと良いのだが。

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