第278話 演習旅行と、おすそ分けと、もてる条件

 季節は6月、演習旅行だ。


 魔戦士も動き出しているし、俺達はついて行くことにした。


「リッツ、危ない時は、救難信号の魔道具を使え。すぐに駆け付ける」


 俺はリッツに魔道具を渡し頼んだ。

 リッツになぜこんなことを頼むかというとトレンと行動を一緒にするからだ。


「命に代えてもトレンは守ります」

「レクティの見ている前でそんなことを言うとソレノに伝わるぞ」

「レクティさんはそんなことしないですよね」

「わたくしは告げ口など致しません」


 でも情報共有とか、報告はするんだよな。

 リッツ、強く生きろ。


「良かった。ソレノに嫌われたらどうしようかと思った」


 なら、トレンとの交友を辞めろ。

 交友しても良いが、友達との線引きはしっかりしろ。

 もっともソレノの方は、リッツを監視対象にしか見てないだろうけど。


 ソレノがリッツを振る時はたぶん、トレンとのことを持ち出すんじゃないかな。

 そんな気がする。

 リッツが別行動になった。


「兄さん、私達、影が薄いような」

「妹よ。普通が良いんだよ。先輩達みたいなことは、逆立ちしてもできない。無理をすると破滅するぞ」

「でも、このまま何にもしないと不味いような」


「コネクタ、ベス、エミッタみたいな強烈な個性は要らないんだ」

「妹よ、会長もそう言っているし、無難に課題をこなそう」

「仕方ないわね」


 問題児が多いんだ。

 まともな人間もいなくては困る。


 演習旅行の馬車に揺られて、野営地を目指す。


「ベークとコネクタとベスは2回目だよな。来なくても良かったんじゃないか」

「ラチェッタが行くなら、僕は行く。それが正義だ」

「去年、楽しかったから、今年も来たんだ」

「生徒の交流イベントには積極的に参加しないと、友達も出来ません」


 ベスの目は獲物を狙う目だな。

 友達といっても男友達だろう。

 上手くいくと良いな。


 4時間経って野営地についた。

 寝床を作らないといけない。

 空は晴れ渡っている。

 雨の心配はなさそうだ。

 焚火の用意をして、火の周りにマットを敷く。

 虫よけの魔道具を設置したら完了だ。


 あとは焚火で夕飯を作るだけ。

 俺達は魔道具で作る即席のスープ麺で、腹を満たした。


 ベスがシチューを作っておすそ分けに行ったようだ。

 料理で男の胃袋を掴めれば良いがな。

 コネクタは醤油で味付けした串肉を持って、他のパーティに行った。


 女子は肉をありがたがらないぞ、チョイスが少し甘い。

 甘いものをデザートとして持っていくのが吉だと思う。

 チョコレートでもあれば完璧だが、そんな物はない。

 定番はドライフルーツや砂糖菓子だが、俺が差し入れるならたい焼きか焼き芋だな。


 さつま芋みたいな甘い芋はないが、デンプンは酵素を使えば甘く出来る。

 魔法で実現可能だろう。


 コネクタとベスが帰って来た。


「どうだった」


 無言で首を振る二人。


「スラムの鉄則を教えてあげる。もてるのは生活力。男なら稼げるのが一番。女なら家事もろもろやお洒落よ。この力が重要」

「俺って稼げない男だと思われたのか。ショック」

「串肉でもランクがある。最高級肉なら飛びついた」


「私も料理が下手ってわけじゃないのに」

「シチューは普通すぎる。もっと凝った料理にしないと」


 マイラの駄目出しにショックを受ける二人。


「違います。殿方は知性と優しさですわ。淑女は慎みと笑顔です」

「レクティさんは俺が馬鹿だと言っているの。ショック」

「淫乱だと思われているんだ。うわーん」

「ほほほ」


「セレンはどう思う」

「うーん、男性は頼りがいかなぁ。女性は明るさかなぁ」

「くっ、言葉がない」

「暗くなんてないもん」


「私は、男はうでっぷし。女は包容力だと思ってる」

「俺に無い物を言われても」

「私もお母さんみたいな力を求められても」


「大丈夫だよ。たで食う虫も好き好きって言葉がある。きっと素敵な人が見つかるさ」

たでって何?」

「兄さん、そういうのが知性が無いって言われるのよ」


 俺も知らん。


「たぶん、辛い植物なんだろう。虫は悪食みたいだな」

「悪食じゃないと気に入ってもらえないなんて」

「私は辛くありません」


 ベスは毒舌が入っているから、辛そうだ。


「まあ頑張れ」

「どんな努力をしたら良いんですか」

「そうよ」


「さっき4人が言ったことで、出来るものをやったら良いんじゃないか」


 打ちひしがれる二人、正論過ぎたかな。

 わいわいと喋るのも楽しいな。

 たしかにこういう催し物は良いものだ。

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