第259話 批評と、属国と、懐柔策
入学試験が行われたが俺には関係ない。
ラチェッタは頭が良いので、問題ないと思っている。
「くふぅ、がぁ。くそがぁ。俺の何が悪いんだ」
一人悶えているのはベーク。
論文の批評を読んだらしい。
まとめると偶然の産物のどこが誇らしいのかねといった感じだ。
過程が書かれていないのが問題らしい。
それはそうだよな。
突然ベークに芽生えた能力だからな。
プログラムを文章に翻訳しただけだもんな。
プログラム言語の成り立ちをベークに語れというのが間違いだ。
推論の部分もだめだめらしい。
神の好みで贔屓されているから10倍の性能が発揮されると書かれているからな。
そりゃ駄目だよね。
俺でもこれはないなと思っている。
結論としては偶然の産物という風にしか捉えられない。
偶然発見しましたじゃ論文は駄目だ。
何でそうなっているか書かないと。
ベークには書けないだろうな。
ベークは新しい呪文を即興で作ってよと言われても対応が出来ない。
事実手紙で何件か問い合わせが来てたがまともに答えられなかったらしい。
一石は投じたが、それだけという結果らしい。
それよりも俺は貿易関係が気になる。
「助けて」
「ベーク、気持ち悪い目で見るな。さぼっていると強制力が働くぞ。それとも何か俺の抱えている問題をなんとかしてくれるのか。見返りもなしに人間は動かない」
「問題って?」
「この国はロータリに魔道具を輸出している。莫大な稼ぎを得ているわけだが、ロータリから買う物がない。そこでロータリはこの国に出稼ぎに出ているわけだ。安い賃金で働くとこの国の奴が仕事にあぶれるよな。後は分かるだろ」
「ロータリを侵略して属国にしてしまえば良い」
「本気で言っているのか?」
「ベーク様、ラチェッタは悲しいです」
「ほら見ろ」
「俺の感覚がおかしいのか。ロータリは敵国だよな。攻められた歴史もある。こっちが勝ち続けたという歴史はない。大抵は領土を奪ったり、奪い返したりだ」
「よく勉強しているな」
「歴史の試験は暗記物が多いから良く覚えている」
「ベーク様、魔導師の歴史はどうです?」
「ええと」
「知らなくて当然だ秘されているからな」
「魔導師の元は小国の民だったそうです。征服されて今の形になりました。魔導師がこの国を奪いたいのは敵国だったからです。その分断の歴史が悲しいです。ベーク様は新たな悲しみを作り出せと言うのですか」
そんな歴史があったのか。
なるほどね。
ラチェッタは亡国の王族だったわけだ。
「そんな事は言ってない。でも言って分からない奴は殴るしかないだろ」
「ベークの論理も一理あるが、理想は拳を振り上げて殴り合わないだ。両方が思う所があるなら口喧嘩に留めておけば良い」
「それも悲しいです」
「論文もままならないのに、王族が考えるような問題が俺にわかるかぁ!」
「ベーク、考えるのを辞めると獣になるぞ。ぶっちゃけ破滅する」
「なになに?」
マイラ達が部室に入ってきた。
「このあいだの問題だよ。ベークは属国にすれば良いと案をだした」
「手下にするのは賛成。でも戦って手下にした奴はいつか歯向かう。心酔させて手下にした奴は裏切らない。チンピラの法則」
「ですわね。併合するなら敵国の民衆を味方に付けませんと」
分かるよ。
ニュースの戦争でやってた。
泥沼になるんだよな。
武力で併合するとテロ待った無しだ。
いつまでもくすぶり続ける。
つまり俺がやるべき事は敵国の民衆を味方につけろという事か。
なんとなくやるべき事が見えてきた。
国債への投資はだめだな。
人気取りだ。
ロータリの民衆に金をばら撒く。
元の金はロータリから儲けた物だ。
懐は痛まない。
俺は聖人君子ではない。
この世界に適応して生き残りたいだけだ。
「炊き出しはどうですか?」
セレンがそう言ってきた。
いいね。
ロータリの余った農産物を買い取ってロータリの民衆にばら撒く。
人間は下にいくほど人数が多い。
普通の家庭までを懐柔したら、9割以上を味方につけられる。
「まだるっこしいね。ロータリのモンスターを殺しまくれば良い。戦力の誇示も出来て一石二鳥さ」
モンスター駆除に金を出すのも良いな。
この国のモンスター除去率は上がっている。
冒険者が人余りだ。
ロータリまで遠征してもらうのも良いだろう。
魔石は輸入させてもらって、高い魔道具にして輸出する。
ベークは本当に使えないな。
「ほら、ベークも何か考えろ」
「婚姻政策だ。親戚になれば争いも減る」
まともだな。
もうランシェ辺りが考えていそうだ。
その時に炊き出しとモンスター駆除を、結婚祝いとして押し込むように言ってみるか。
拒否されても別に痛くない。
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