第378話 紐と、商売と、エルフの美醜
「おはよう」
「おはよう」
クリアに朝の挨拶をする。
どうやらクリアは監視役のようだ。
そう口に出しては言わないが、一挙一投足見逃さないと言わんばかりに見てくる。
監視だけではなくて人間というものにも興味があるのかな。
エルフは感情が薄いというわけではないらしい。
好奇心は人間と変わりないような気がする。
ゴザを借りて、リフトの魔道具を並べる。
がわを作らないと魔道具は判別がしにくい。
何か紐でも付けるか。
「紐はない」
「本気で言っているのか」
クリアの焦った様子。
「紐を求めるのは何かあるの?」
「求婚を意味するんだ。二人を結びつけるという意味でな」
「あー、紐は自分で作らないといけないのか。じゃあ、材料をくれ」
「分かってるのか。紐を作る材料を求めるのは気があると言っているのだぞ」
「めんどくさい風習だな。でも場所が変わればありえるか。求婚に服を贈る地域もある。風習を馬鹿にはできないな。文化だからな。魔道具の見分けがつくように何か欲しかったんだ」
「では、塗料をあげよう」
赤い魔石に灰色の塗料を塗る。
灰色は他の魔道具で使わないような気がしたからだ。
「いらっしゃい、いらっしゃい、リフトの魔道具だよ。お代は魔石だ」
「大きい魔石と小さい魔石で同じだと不公平だ」
客がそんなことを言う。
確かに。
秤を作るか。
import scales
print(scales()) # 秤る
かなり手抜きの魔法だがまあいいか。
魔石を計って、魔石でお釣りを渡す。
「秤の魔道具を打ってくれ」
客の一人がそう言ってきた。
「簡単な魔法だろ」
「そうなんだが。商人が使っている秤なら正確そうだ」
「まあ良いけど。どの色を塗ろうかな。黒かな」
商品として秤の魔道具も並べた。
俺の秤魔法のイメージはバネに吊るしてどのぐらい伸びるかでやっている。
手で持って重さを量るイメージで魔法を構築したら、たぶん誤差がかなり出るだろうな。
秤が正確だというので、これもかなり売れた。
紙を売り出すことにした。
紙への食いつきは凄かった。
瞬く間に完売。
木の皮や、木の板や、動物の革じゃ不便だよな。
でも重要なことは石に魔法で刻むらしい。
エルフの寿命を考えたら石板は必要だろうな。
俺がやるなら、魔石の中にデータを刻む魔道具と、読み取る魔道具を作る。
これなら携帯するのに楽だ。
魔石に刻む時にデジタルデータの考えがないと難しいだろうな。
小さい文字で刻む魔道具も作れるが、読み取りの魔法が難しい。
デジタルデータならオンオフしかないから、アルゴリズム的には簡単だ。
必要なら作るが、石板というのはどこかロマンがある。
文化を破壊することもないだろう。
「売れたな。魔石の数で魅力が決まるなら、お前は美丈夫だ」
「エルフの魅力はどこで決まるの?」
「狩りの腕や、物を作る器用さ、音楽の巧みさ、色々とあるが、一般的なのは耳の形だな」
だよね。
俺にはエルフの顔は見分けがつかない。
エルフにも顔は同じように見えるんだな。
だから顔の容姿での不細工はいない。
耳かぁ、となると俺はエルフ的には不細工なのかも。
丸耳が良いってエルフがいるかも知れないが、きっと少数派だな。
もてたいと思ったわけじゃない。
不細工で可哀想とか思われたらいやだなと思っただけ。
もっとも、耳を整形までする必要もない。
耳を観察するとエルフの耳は色々と形が微妙に違う。
奇麗な三角やら、笹穂とか、先がペン見たいのやら、先に毛が生えているのもある。
どういうのが美しいかは個人的に色々と違うと思う。
人間も好みが色々とあるからね。
クリアの耳は尖っている。
刺さりそうな耳だ。
もっとも、クリアの声は覚えたから、耳の形じゃなくても、話掛けられると認識できるけど。
紙の売れ行きが凄いので、紙製造の魔道具で作りまくる。
材料が近場になくなったので、魔力消費が徐々に増えるのが感じられた。
紙はもう駄目だな。
別の物を考えよう。
水生成とか、灯りの魔道具は複雑なプログラムで便利に作らないと駄目だろうな。
細かな調節とか、お休みタイマーとか色々だ。
まあ作るけどね。
ただせっかく作っても売れないと悲しい。
リサーチしてニーズに合ったものを作りたい。
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