第53話 残念と、スペルブックの魔道具と、出た被害者

「残念だったね」

「あれが私の実力なんだと思う」


 セレンが4回戦で負けてしまった。

 女と男では体力差もあるから、ある程度は仕方ない。


 みんなは残りの試合を真剣に見ていたが、俺はスペルブックを見て新しい構想を練っていた。

 サージは短い呪文でもスペルブックに書き込んでいたな。

 何でそんな事をしているのか考えてみた。

 一つ目の利点は発動が早い。

 二つ目は間違いが起こり難くなる。

 焦ると人間はミスをする。

 目で確認すればミスは少ない。

 暗記では駄目なところだ。


 俺の呪文は短いのでなければ、暗記はまず無理だな。

 これが俺の弱点だ。

 特に括弧とセミコロンなんかは、よく忘れる。


 魔道具のスペルブックを作るべきか。

 選択するスイッチに応じて呪文が頭の中に送られてくる。

 そんな魔道具を作ろうか。


#include <stdio.h>

#include <stdlib.h>

extern void time_wait(long time_ms);


void main(void)

{

 FILE *fp; /*伝言魔法の定義*/


 fp=fopen("カニキクカ","w"); /*回線を開く相手を自分に指定*/


 fprintf(fp,"ここに呪文を書く"); /*自分にメッセージとして送る*/

 time_wait(3000); /*3秒待つ*/

 fclose(fp);

}


 これなら他人に見られる事もない。

 秘密を守る上でも利点がある。


 だが、いくつもの魔道具を操作するのとスペルブックを開くのではどちらが早いかな。

 大抵の人はスペルブックに付箋ふせんみたいな物を挟んでいる。

 色で塗り分けているから10種類ぐらいなら、どうという事はない。

 慣れれば一瞬だ。


 魔道具だと色付きのスイッチにする手かな。


 int color[10]={

  COLOR_RED,

  COLOR_BROWN,

  COLOR_ORANGE,

  COLOR_YELLOW,

  COLOR_GREEN,

  COLOR_BLUE,

  COLOR_PURPLE,

  COLOR_BLACK,

  COLOR_GRAY,

  COLOR_WHITE};


 char spell[10][]={"ボタン赤の呪文","ボタン茶の呪文","ボタン橙の呪文","ボタン黄の呪文","ボタン緑の呪文","ボタン青の呪文","ボタン紫の呪文","ボタン黒の呪文","ボタン灰の呪文","ボタン白の呪文"};


 for(i=0;i<10;i++){

  mp[i]=obj_color_make(10,IMAGEBALL,color[i],HOLOGRAPHY); /*ボタン生成*/

 }

 while(1){

  for(i=0;i<10;i++){

   if(touch(mp[i])==1){ /*ボタンに触った*/

    fprintf(fp,"%s",spell[i]);

   }

  }

 }


 こんなかな

 もっと素早いのだと、思念入力か。


void main(int argc,char *argv[])

{

 switch(*argv[1]){

  case '1':

   /*呪文1表示*/

  break;

  case '2':

   /*呪文2表示*/

  break;

  case 'a':

   /*呪文a表示*/

  break;

 }

}



 とまあこんな具合だ。


 問題は操作性だ。

 思念入力だと入力する一文字がどんな呪文に対応しているか忘れそうだ。


 タッチパネルなんかだと忘れない。

 これなら系統別に分ける事も可能になる。

 例えば、電撃を選んでそれから大中小を選ぶみたいな感じだ。

 でもそれだと発動が遅くなる。


 うーん、悩ましい所だ。

 試合に目を戻すと決勝戦が始まるところだった。


 二人とも筋骨隆々でボディビルダーを思わせる体格だ。


「くおぁああああ」


 突然、選手の一人が雄叫びを上げて、試合が開始されてないのに相手に襲い掛かった。

 審判が制止しようとするが、暴れる選手は審判にも襲い掛かる。


 負けて観戦していた選手達が、束になって制止しようと会場に上がる。

 制止する選手はボーリングのピンの様に弾き飛ばされた。


 凄い怪力だ。

 身体強化の魔法のチェックは受けているから別の方法のイカサマをやったに違いない。


 俺がスペルブックを開き電撃を放つと、電撃は誘導されて暴れている選手に当たった。


「ぐっ」


 暴れていた選手は苦鳴を漏らすと倒れた。


「俺は嵌められたんだ。こんなはずじゃなかった」


 暴れていた選手がそう言うと肉体が不規則に脈打つ。

 この症状はあれだ。

 選手に駆け寄ると腹の所から血が滲み出ている。


 やっぱりだ。

 衣服を剥ぐと黒い魔石が埋まっている。

 魔石を除去する間もなく選手は息絶えた。


 ついに学園の生徒にも被害者が出たか。

 だが、手掛かりは掴んだぞ。

 学園の生徒なら友達とか色んな人達に話をしているはずだ。

 きっと犯人に繋がると思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る