第381話 繭と、加熱と、ゴム

 エルフの手先は器用だ。

 長い年月生きる種族だから、日用品も死ぬまでにたくさん使う。

 自作することが基本で、何かの折には贈り合ったりするそうだ。


 服とか靴とかを仕立ててもらいたかった。

 葉っぱと木の材料の服と靴は着心地が良くない。

 糸に関するあの風習が無ければ、糸を貰って魔法で服を作るのに。


 それで、どうしたかというと。


「クリア、糸の材料のモンスターがいるだろ。それぐらいは教えられるよな」

「それを聞くということは恋の手ほどきを意味する」

「それはもういいから、モンスターを教えて?」

「寒い時の服だと羊のモンスターだが、夏なら葉っぱか、ビッグモスだな」

「蛾の方でお願いする」

「分かったついて来い」


 繭はすぐに見つかった。


「あれだ」

「ありがと」


 そりゃ、1メートルもあればすぐに判る。

 こんなので外敵に襲われないのかと疑問に思ったら。


「いいかよく見てろ」


 クリアが採取用ナイフで繭を切りつける。

 ナイフでも切れない程糸が固い。


「硬いね」

「中のビックモスが魔力を使って強化しているんだ」

「へえ」

「それでどうするかと言うと【加熱】。しばらく熱すればビッグモスは死ぬ。糸が痛まない温度で加熱するのがコツだ」


 ビッグモスが死んだのか、クリアは採取ナイフで繭を樹から切り離した。


 加熱の魔法を作って、それを魔道具にする。


import magic

mp=heat(60) # 60度で加熱

str=input('入力したら終わり') # 入力したら終わり

mclose(mp) # 魔法終わり


 こんな感じかな。

 やってみると、糸が貸してもらったナイフで切れたので、魔法を止める。


 服と靴を作る魔法は前と変わりない。

 材料のイメージが繭になっただけだ。


 滑らかな手触りの服と靴が出来上がった。


「便利な魔道具だな。これなら子供でも失敗しない」

「需要は子供と不器用な人だけか」

「エルフに不器用な奴はいない」

「商品にはならないな。だけど、ビックモスの繭は持ち帰ったら大金になりそうだ」


「前来た商人も同じことを言ったが、ビックモスの繭を燃やしてしまって、採取に失敗してた」

「熱するのに火を使ったのか。そりゃ駄目だな」

「タイトは本当に魔法が上手いな。エルフでも熱を理解するのは大変なのに」

「熱が分子運動だと判れば良いだけだがな。電磁波でも加熱は出来る。まあ色々と方法はある。それと赤外線でも熱くは出来る。こちらは太陽のイメージで行けるから簡単だろう」


「本当に賢いな。お前年取ったハイエルフじゃないよな」

「へぇ、ハイエルフもいるのか」

「伝説だ。その魔法は地形すら変えるという」


 少し歩いて立ち止まった。


「靴の履き心地がいまいちだな。靴底がないせいかな」

「ゴムの木がある。樹液を硫黄と練って。圧力と熱で固まらせる。これは既に作ったのがあるから、やろう。我らも靴の滑り止めにはよく使う」


 ゴムあるのかよ。

 この世界のゴムを意味する単語は初めて聞いた。

 探せば、あるもんだな。


 村へ帰りゴムを貰って接着剤で靴に貼り付ける。

 うん良い感じだ。

 今まで革の靴を履いてたけど、こういう靴も良い。


 ゴムは輸入したいな。

 俺の服のズボンもゴムにした。

 前世の記憶が甦り、ちょっと懐かしい。


 髪留めとかも使えるな。

 輪ゴムとかも便利だ。

 ゴムの用途は多種多様だ。

 戦略物資のひとつだものな。


 合成ゴムとかどうやって作るんだっけ。

 生憎と前世の記憶にはナフサを使ったという以外にはない。

 ナフサって石油からだよな。

 そのうち石油も見つかるだろう。


 まあ石油が見つかっても精製の知識はないけどな。

 錬金術師とかに丸投げしたら、何か作るに違いない。

 オルタネイト伯とかが石油に興味を示しそうだ。


 俺は石油王になるつもりはない。

 世の中が便利になればそれでいい。

 プラスチックとかないと、不便なんだよ。

 生活しててあれば良いと思うことは多々ある。

 石油は今後の課題だ。


 リッツの商会に、こことの貿易をやらせてみようか。

 魔境の森に入るには凄腕の護衛が要る。

 ディッブ人ならやるだろうな。

 ただ、エルフとディッブ人を会わせてどんな化学変化が起きるか。

 ディッブ人に侵略の意図はないから、略奪しないように手綱を握れれば可能だな。

 リッツの手腕次第だ。

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