第9話 元締めと、交渉と、大量生産

 魔道具は性能が良過ぎて売れない。

 性能を悪くするなんて事は俺には考えられない。

 エンジニア魂に反するというものだ。


 それで考えた。

 スリグループとの交渉に魔道具を使うというのはどうだろう。

 どうなるか分からないが、やってみるだけだ。


「マイラ、準備は良い?」

「うん、短剣も2本装備したし、暗器の針も持ったわ」


 朝一で買ってきて、色々とプログラムを書き込んだスペルブックを、俺はしっかりと抱きしめた。


「よし、出陣だ」


 マイラと二人、スラムの一角の家に入った。

 入ってすぐの入口の影に男が潜んでいる。

 俺に男が居るのが、分かったのはマイラが居たからだろう。

 そうでなければ完全に影に入っていたはずだ。


「マイラか。今日は早いな。特上の獲物でも仕留めたか」

「元締めは居る?」

「ああ、いつもの奥の部屋だ」


 男はあごをしゃくった。

 俺達は奥の部屋に入った。

 中年の男が三人いる。

 椅子に座っているのが元締めで、脇に立っている二人が用心棒だろう。


「マイラ、上納金か?」

「いいえ、交渉に来たわ」

「上納金の交渉か」


「スリから足を洗う」

「昨日から冒険者ギルドに出入りしているらしいな。裏切るつもりなら辞めておけ。稼ぎの良い子飼いを失いたくない。足を洗うのも無しだ」


「まあまあ、対価なら用意した」

「小僧、引っ込んでろ」

「見てみなよ」


 俺は種火の魔道具を出した。

 用心棒が緊張したのが分かる。

 しかし、持っているのがゴブリンの魔石だと知って、緊張を解いた。


 魔道具を起動すると火が灯る。


「無限に火が点くんだ」

「ほう、貸してみな」


 元締めに魔道具を渡す。

 元締めが魔道具を起動して、一分ほど経つと元締めの目がギラリと光った気がした。


「上納金を四ヶ月免除だ」

「これを俺がいくらでも作れると言ってもか」

「ふはははっ、今この場で小僧を拉致しても良いんだぞ」


「させない」

「マイラ、落ち着け」


 俺はスペルブックを開くと、30センチほどの火球を空中に浮かべた。

 用心棒が武器を構える。

 マイラも短剣を抜いて構えた。


「拉致が何だって?」

「小僧、脅しは通じないぞ」

「脅しじゃない交渉だ」


「よし、言い分を聞こう。言ってみろ」

「俺はこの魔道具を元締めに定期的に格安で売る。それでマイラを解放してやってくれ」

「ふん、対価としては十分だ。しかし、駄目だ。グループを抜ける前例は作れない」


 そう言うと思ったよ。

 これは想定していた。


「じゃあ、選べ。消し炭になるか、全員が堅気になるかだ」

「何だって!」


「魔道具はゴブリンの魔石から出来ているんだぞ。そんなものいくらでも作れる。お前ら全員を養っていける稼ぎはあるんだよ」

「小僧、気に入った。名前は?」

「タイトだ」


「よし、タイト。お前の提案に乗ろう。スリは今日から廃業だ」


 俺は火球を消した。

 そして、魔道具5個を出した。


「これでとうざは足りるだろう。グループの人間には、何か真っ当な仕事を、見つけさせるんだな。養うと言ったが、ごく潰しは要らない」

「分かってる。一生懸命に働らかせて食っていけない奴にだけ、足りない分を支払うさ」


 マイラと二人、元締めの家を出る。

 俺は深呼吸して息を吐いた。


「元締めが納得してくれて良かったよ」

「魔導師には敵わないから、誰でも退くよ。元締めだって命は惜しい」


 さて、魔道具の大量生産をしないとな。

 今だと、1日に10個ぐらいしか作れない。

 魔道具を作るプログラム的呪文を作らないと。


extern MAGIC *magic_tool_init(void);

extern void magic_tool_write(MAGIC *mp,char *spell);

void main(void)

{

 MAGIC *mp;

 mp=magic_tool_init();

 magic_tool_write(mp,"ここに呪文を入れる");

}


 解説をする。


 mp=magic_tool_init();←魔石を魔法として登録

 magic_tool_write(mp,"ここに呪文を入れる");←呪文書き込み


 こんなのでどうだろう。

 これで1日に何万個も作れるはずだ。

 案件が一つ片付いた。

 後は人さらい組織だな。

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