第36話 剣山と、握手と、決勝

 さて、準決勝だ。

 相手はセレン。

 性格から考えるに、奇をてらった攻撃はしないだろう。


「いよいよ、雌雄を決する時がきたのね」

「お互い頑張ろう」

「ええ」


 セレンと握手してから離れた。


「準備はいいか。では始め」

「先手は貰う。【誘導火球】」


 俺はバリアの魔道具を起動して火球を受け止める。


「常に先手よ。【剣山】。やったか」


 セレンよ、そういう台詞を言うと負けるのだよ。

 身体強化の魔道具を起動する。


 超スピードで足下から出る剣山を避けまくった。

 おっと危ない、危うく転がりそうになった。

 身体強化の魔法はまだ慣れない。


「【電撃誘導】。これで決まりか」


 俺は電撃魔法を放った。


「【石の盾】。まだまだぁ」


 セレンが石の盾で電撃をガードする。


「【水フィールド】」


 俺は石畳を水浸しにした。


「【浮遊する板】」


 続けて石で板を作り浮かび上がらせる。

 その上に俺は乗った。

 俺は魔道具で地面に向けて電撃を放った。


「こなくそっ」


 セレンよ、女の子が使う言葉じゃないぞ。

 セレンは電撃にタイミングを合わせジャンプした。


 俺は地面の電撃と同時に誘導弾を魔道具で放つ。


「くそう」


 地面と空中の二面攻撃は流石に避けられない。

 ついにセレンは感電した。


「勝者タイト」


「いい戦いだったわ」

「そうだな。また機会があれば、やろう」


 セレンと握手したら、マイラが飛んで来てうーっと唸った。

 マイラは身体強化の魔道具を使ったな。

 使いこなしているようで何よりだ。


「いつまで握っているのっ!」


 セレンが慌てて手を放した。


「目くじら立てるなよ。可愛い顔が台無しだよ」


 ご馳走様とセレンが呟いた。

 何がご馳走様なんだか。


 今日はすぐに決勝を行うらしい。

 セレンと入れ替わってニオブが舞台に上がった。


「兄より優れた弟などいない。証明してやろう」

「減らず口を叩く暇があったら、負けた時の言い訳でも考えるんだな」


「準備はいいか。では始め」

「【火球飛べ】」


 ニオブが火球を放つ。

 俺は魔道具を起動して、ニオブの火球をバリアで防いだ。


「【火球、枝垂れ柳】」


 火球が俺の頭上に位置取り、火の玉をランダムに吐き出し始めた。

 俺は頭上にバリアを展開した。


「隙だらけだぜ」


 ニオブが身体強化の魔道具を使って俺に迫った。

 俺も身体強化の魔道具を使い迎え撃つ。


 運動神経で劣る俺は防戦一方になった。


「【電撃散布】。【水フィールド】」

「それは見た。【乾燥】」


 一進一退になった。

 ニオブの癖によくやる。


「ならば【剣山】」


 石の剣が何本も地面から突き出る。

 これはセレンの魔法を真似た物だ。

 俺はニオブを舞台の端に追い詰めた。


「もう逃げられないぞ」

「もう、ルールなんか知るもんか【太陽火球】」


 まばゆいばかりに輝く火球が出来上がり俺に向かって飛んできた。


「それは反則だ」


 バリアの魔道具を起動するが、バリアの出力が弱かったようだ。

 突破されてしまった。

 当たる。

 そう思った時に影が目の前に飛び込んできた。


 なんと影はマイラだった。

 マイラが身を挺してかばってくれたのだ。


「マイラっ、死ぬな、マイラ! ニオブ、もう許さない【電撃1000発】」


 電撃が1000発がニオブに飛ぶ。

 ニオブは石の盾を出したが徐々に削られた。

 電撃がニオブに当たり始める。


「あがが」

「そこまでだ」


 アノードが割って入った。

 俺は魔法を止めた。


「何で止めるんです。電撃一つは殺傷能力の低いものです。違反はしてません」

「もう勝負はついている」


「ニオブ、反則負け。勝者タイト」


 審判の声で俺は我に返った。


「そうだ。マイラ、無事か」


 服は焦げてボロボロだが、目立った傷はないようだ。


「触らないで、ヒリヒリする」

「良かった無事だ。誰か着る物を」


 マイラに大きな布が渡された。


「しかし、マイラはよく無事だったな」

「魔力増強の魔道具を使ったの」


 そう言えば、渡していたな。

 100万も魔力があると防御力もかなり上がるのだな。

 それでも熱は防げないはずなんだが。


 マイラに治癒魔法を掛けてやる。

 軽い火傷になっていた肌が元に戻る。


「とにかく良かった。ニオブの野郎、許さない」


 俺はニオブに近づくと蹴りを入れた。


「ひっ、近づくな。辞めてくれ。痛いのはもう嫌だ」


 こいつ、痛みに耐性があまりないのだな。

 電撃の連弾は堪えたらしい。


「人は殴られれば痛いんだ。お前以外の人もな。今まで俺を何度も虐待してくれたな」

「知った事か。汚らしい平民の母親から産まれたお前を、虐待して何が悪い」


 こいつ反省の色が見えないな。

 ならば苦しめて、むごたらしくあの世に送ってやる。

 俺はスペルブックを開いた。


「ひっ、何をするつもりだ」

「やめたまえ」


 またもやアノードが止める。


「でもこいつは許されない事をしたんです」

「私の立場では殺人を許容できない」


 そうだな。

 皆が見ている。

 カッとなって殺そうとしたが、向こうは貴族。

 俺は平民だ。

 今は退いてやる。

 機会を窺うとしよう。

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