第111話 怒りと、無能と、横流し
Side:偽ニオブ
王都の宿屋で、部下の報告を聞いて僕は怒りに震えた。
気を落ち着ける為にお茶を一気に飲む。
そして、腹いせに机を両手で叩いた。
あれほど人がいない場所で試せと言ったのに。
試したのは地中に設置するタイプの魔道具で、魔力を感知して爆発する物だ。
この魔道具は僕にしか作れない。
なぜなら普通の人は魔力を感知などできないからだ。
魔力を感知して爆発しろなどという呪文は他の人には不可能だった。
魔道具の作り方は魔石に呪文を刻む。
この時に呪文を唱えるつもりでイメージを持たないといけない。
魔道具を使うのは使用者だが、魔道具は製作者の魔法のイメージで動いている。
だから、魔力感知のイメージを持たない人にこの魔道具は作れない。
「何で僕の言う事が聞けない」
「どこが悪いのでしょうか?」
こいつ、もしかして分かってやっているんじゃないだろうな。
「言わないと分からないのか?」
僕は指を突き付けて怒りに震えた。
「もしかして、人間に被害が出た事ですか」
平民は傷つけたくないと言えないのがもどかしい。
「そう、それだよ。平民は大事な兵士だ。貴族との戦闘で傷つくのなら仕方がない。僕も諦めよう。だけど、試験で損害を出すのは許せない」
「冒険者がいくら傷ついても兵士の数には変わりないと思いますが」
「口答えするのか。運が良かったな。お前が貴族なら首を刎ねているところだ」
「すいません」
こいつは後で首にしよう。
全くどいつもこいつも使えない。
さて、どうしようか。
平民に被害が出ないように、安全に運用するには。
商人に使わせて、モンスター除けに使おう。
それがいい。
「商人に詳しい奴を呼べ」
「はい、ただいま」
しばらくして、担当者がやって来た。
「おい、魔道具を商人にテストさせろ。モンスターならいくら死んでもかまわない」
「分かりました。すぐに手配します」
魔力を外付けするのがあって良かった。
魔道具がいくらでも生産できる。
そうだ、魔道具に名前を付けないと。
地中爆弾でいいな。
魔力を感知したら、爆発しますと声を流そうか。
それなら人は大丈夫でモンスターだけが引っかかるはず。
もちろん、戦争で使う時は警告は無しだ。
呪文を【10分待つ。魔力感知したら、爆発しますと声を出して、3秒後に魔力を用いて、火薬を生成して爆発】とした。
火薬の資料は仮面の男が持ってきた。
秘密だから漏らしてもらっては困りますと付け加えてだ。
どこから持ってきたかなんてのは問題じゃない。
兵器として役に立つかだけが問題だ。
王都の外で試験をやる事にした。
「魔道具に近づいてみろ」
部下に命令する。
「はい」
爆発しますと声が聞こえた。
部下が慌てて飛び退く。
爆発で地面が抉れた。
3秒じゃ少し短いな。
5秒ぐらいが適当か。
警告つき地中爆弾は完成した。
これで平民に被害はないだろう。
それから、事態は僕の推測を外れた展開を見せた。
なんと、商人が地中爆弾を横流ししたのだ。
そして、使うのに布で包んで使うという暴挙に出た。
警告の声が聞こえなくなるようにと、そうしたらしい。
平民に多数死者が出た。
なんて馬鹿な事をするんだ。
ただでさえ地中で声が聞こえ難いのに、布で巻くなんて。
僕は担当者を呼びつけた。
「どいつもこいつも、何で僕の言う事を聞かないんだ」
「何か不味かったですか?」
「商人が横流ししたのも、腹が立つが。警告を聞こえないようにしたのはもっと腹が立つ」
「何でですか」
首を傾げる担当者。
「お前は想像力がないのか。家族があの魔道具で吹き飛ばされるところを想像してみろ」
「それはそうですが。兵器はそういう側面を持つのでは」
「責任を持ってお前が回収しろ」
「そんな無体な」
「言い訳など聞きたくない」
そして、それっきり担当者は現れなかった。
逃げたんだのだろう。
もういい。
地中爆弾は一回起動すれば、魔力が無くなるまで止まらない。
正直言って、僕にも手が打てない。
家畜でも連れて来て犠牲にでもすれば、爆破出来る。
でも、それは家畜が可哀想だ。
ネズミを捕獲して解除する事にした。
これより小さい魔力では反応しないからだ。
被害が出るまでに、間に合えばいいのだけれど。
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