第18話 首席と、馬鹿めと、良妻賢母

 今日は合格発表の日だ。

 合格者が張り出された。


「俺の222番は? 200はここで、220は無いな。221はある。セレンは合格だ。222が無いぞ。えっ落ちたのか」

「タイト、上」


 一番上を見ると首席と書かれていて、222番とある。


「やった」


 マイラと手を取り合って喜んだ。


「222番は誰だ!?」


 大きな声に振り替えるとなんとニオブがいた。

 やつも受けたのか。

 関わりたくないな。

 俺が持っている受験票にニオブの目が留まる。


「貴様か!!」


 やばい、見つかった。

 俺はきびすを返そうとした。

 肩を掴まれ強引に振り向かされる。


「なんだよ。他人には構うなよ」

「お前は! タイトじゃないか。本ばかり読んでいると思ったら、首席になるとはな。ちょうどいい。首席を譲れ」

「嫌だ」

「こいつ誰?」


 マイラが怒っている。

 やばい短剣を抜きそうだ。


「マイラは先に行ってくれ。後で合格祝いをしよう。マイラに準備を任せたい。重要任務だ」


 分かってくれよとマイラの目を見つめる。

 マイラはうなずくと去って行った。


「俺の事をこいつなんて呼びやがって、許さん」

「許さなければ、なんだ」


 俺は殺意を込めて睨んだ。


「まあ、いい。寛大な気持ちでゆるそう。それよりも首席だ。譲れ。ただとは言わない。ここに俺の受験票がある。もちろん合格している」

「それのどこに俺の得があるんだ?」


「バリアブル公爵家にくせるんだぞ。こんな栄誉などどこにも無い」

「お断りだ」


「金貨1枚を払おう」

「断る。くどいぞ」


「仕方ない奴だな。金貨2枚だ」

「金額じゃない。不正するのが、嫌なんだ。特にお前の為に、なんかはな。悔しかったら、実力で首席を取ってみるんだな」

「ここまで譲歩しても、言う事を聞かないのか。【火球よ的を穿て】」


 俺はスペルブックを開くとニオブの火球を撃ち落とした。


「群衆の中で魔法を放つとはいけないな」


 高校生ぐらいの青年が現れ言った。

 赤毛の長髪で声を聞かなければ女だと思っただろう。

 それぐらい美形だ。


「うるさい黙れ」

「生徒会長の私に向かって言っているのかね」


「くそう、タイト覚えてろよ」


 そう捨て台詞を吐いて、ニオブは去って行った。


「ありがとう」

「馬鹿はどこにでも現れるからね。ところで名前を聞いていいかな?」

「タイトです」

「私はアノード。何か困った事があったら、気兼ねなく生徒会室を訪ねて来てくれ」


 アノードはそう言ってから、群衆に紛れた。

 さてと、寮の手続きをしないと。

 事務室はどこかな。


「合格者です。寮に入りたいのですが」


 なんとか見つけた学園の事務室でそう声を掛けた。


「ええと、タイト君ですか、魔報まほうが届いてますよ」


 魔報まほうは魔導師が通信の魔法を使って、伝言のやりとりするサービスだ。

 誰からだろう?

 文面を読んだ。

 『駒として役に立つようだな。家名を再び名乗るのを許してやろう。ニオブに首席の地位を譲るように。タンタル・バリアブル』とある。


 タンタル・バリアブルは父親だ。

 いや、元父親だ。

 他人と言っても良い。


 首席を譲れだと、寝言は寝て言え。

 家名など欲しくない。


魔報まほうってここでも送れますか?」

「ええ。文面と送り先はどうします?」

「文面は『馬鹿め。タイト』で送り先はバリアブル公爵邸です」

「本当によろしいので」

「馬鹿めと送って下さい」

「分かりました」


 寮の鍵を貰い、宿でマイラと合流してから、寮に入った。

 荷ほどきをしていると扉をノックする音がする。


「開いてるよ」


 少年が一人、入って来た。


「こんちは、お隣さん。俺はカソード」


 カソードは赤毛の短髪で顔つきが誰かを思い起こさせる。

 歳は中学生ぐらいだ。


「もしかして、生徒会長のアノードさんの親戚?」

「うん、弟だよ」


「よろしく、俺はタイト。こっちの護衛がマイラ」

「女連れとは羨ましい」


「マイラは護衛だけど、冒険者のパーティ仲間だから、戦友みたいなものだよ」

「マイラちゃん、よろしく」

「しっしっ」


「気を悪くしないでくれ。マイラは育ちが特殊なんで気難しいんだ」

「気にしないよ。今度、飯を食いに行こうぜ」

「そうだな。行こう」


 カソードが去って

 マイラが準備した料理に舌鼓したづつみを打った。


「タイト、合格おめでとう」

「ありがと。これもマイラのおかげだよ。勉強中に家事をやってくれて感謝してるよ。まさに良妻賢母だ」

「はわわ、母なの。結婚してないのに」

「例えだよ」

「馬鹿」


 マイラが笑顔だ。

 完全に機嫌が直ったようだ。


 機嫌を悪くした原因であるニオブの奴は、何か仕出かしそうだな。

 だけど、何かあったらぶちのめすだけだ。


 勉強の期間は終わったから明日から魔法を開発しまくるぞ。

 そう言えば行方不明になった生徒を探すのだったな。

 そちらはぼちぼちと進めよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る