第238話 サイリスの復活と、死者蘇生と、この世界

 死体は魔導師のものもあるが、市民のものが多い。


 領主の城に行く事にして、歩き始めた。

 そこらかしこが、焼け焦げと死体だらけだ。

 俺は死者蘇生について考えた。

 肉体と魂を再構成すれば、復活は可能か。

 世界のシステムのどこかに肉体と魂のバックアップがある気がするんだよな。


 神がいたら、復活は神が怒りそうな案件だな。

 まずは魂と肉体のバックアップだ。

 どこにあるだろうか。

 前に神秘魔法名の人間探索は作った。

 サイリスの神秘魔法名『カクンスニト』で検索を掛ける。


 『ソケギうスイソンソリイルコニミ』という場所で引っ掛かった。

 ここの中のサイリスの体のデータで肉体を再構成すれば、サイリスは復活するのかな。

 やってみるか。

 プログラム自体は簡単だ。

 ただのファイルコピー。


 リニアからサイリスを預かっているセレンが、サイリスをそっと降ろす。

 魔法を実行。

 結果、サイリスの体が復活した。


 リニアよサイリスが復活したぞ。

 サイリスは青い毛並みの狼型モンスターだった。


「グル」


 サイリスは短く唸ると駆け出す。


「追うぞ」


 空を飛んでサイリスを追う。

 何度か角を曲がり、リニアが戦っている現場に到着した。


「あなた、サイリスなの。うそっ、復活したの。どうやって?」


 サイリスとリニアが抱き合う。


「なんかできちゃったんだよな。簡単だった。でも死者復活はやばそうだ」

「どうなんでしょうね。魔法は神が与えた力とされています。行使したところで天罰が下るとは思いません」


 レクティは死者復活の賛成派か。


「タイト、一線を踏み越えると碌な事はないよ。チンピラはたいていそれで命を落とす」


 マイラは反対派だな。


「セレンとリニアはどう思う?」

「そうね。人間は死ぬから美しいと思うのよ。死のない世界なんて色がない世界と一緒だわ」


 リニアは反対派のようだ。


「戦争とかあると、人が生き返ったらなとは思います。どうなんでしょう。私には判断がつきません」


 セレンは分からない派か。

 俺もどちらかと言えば分からない派だな。


 試しにやってみるとは言えない。

 サイリスは魂が存在したから、肉体を取り戻すのは問題ないと思う。

 かろうじて一線を越えてない気がする。


 この世界は何なんだろうな。

 そこが分からない事には判断できない。

 魔法がある世界。

 それは確実だ。

 地球の科学力で魔力の存在は確認されていない。

 異世界では物理法則が違うというのは理解できるが、科学的にどうなんだ。

 地球では魂の存在も証明されてない。


 そんな事がありえるのか。

 実際にあるんだからというのはなしだ。

 今のところ判断する材料はないな。


「領主の城に行こう。死者復活の問題は棚上げだ。俺には手に余るような気がする」


 城に着くと、既に制圧されていた。

 焦げ跡が多数残っているので、戦闘の激しさを思わせる。


「領主一族は皆殺しにされたようです」

「そうか。悲しいな」


「タイト様には領主代行をして頂けたらと」

「何にも出来ないぞ。お飾りならやる。近隣の反乱が起こっている街も、ここと似たり寄ったりなんだろうな」

「そうですね」


「じゃあ、アルゴを連れてパパっとやりますか」


 アルゴを連れて、街を解放しまくった。

 こんな簡単で良いのかな。

 アルゴの脅しが効かない相手も、100万魔力の魔法の前には屈した。

 中には粘った所もあるが、アルゴのブレスで城門を壊し解決。

 仮の城門は石の壁で作ったから問題ないだろう。


 俺は一夜にして18の都市を束ねる大貴族になった。

 書類のサインだけでも死にそうだ。

 印鑑を作ってずるをした。


 印鑑なら俺が押す必要はない。

 これだから戦闘の後始末は嫌なんだよ。

 復興にどれだけ掛かると思っているんだ。


 石だの木だのは魔法で簡単に生み出せる。

 人間は戻ってこない。

 命の尊さというものをしみじみと感じる。


「この書類、横領の疑いがあります」


 レクティが書類を持って来た。

 全く混乱している時に横領なんかするなよ。

 首をはねてしまいたい。

 人の命は尊いけど、馬鹿な奴をみると怒りがこみ上げる。

 いかん、疲れているな。


「これが終わったら、みんなで温泉に行こう」

「やった」

「いいですわね」

「サイリスも入れる所がいいな」

「ご一緒します」


 サイリスが入れる所だったら三毛猫温泉だな。

 猫が入っていても気にしないらしいから、狼のモンスターでも平気だろう。

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