第415話 ごくりと、結婚と、準備

 塩を売って木材と工具とかをマイラが調達してきた。

 俺とセレンは家を直した。

 直したといっても雨水が床に垂れないだけだ。

 こんなのは直したうちに入らない。


 ある日、マイラがホクホク顔で帰ってきた。


「何か良いことがあったのか」

「うん、塩がいつもの5倍売れた。3日後は新年なんだって」


 何だってー。

 マイラがあのことに気づかないことを祈る。


「ではささやかながらお祝いしないといけませんわね」


 レクティがそんなことを言いだした。

 ごくり。


「タイト、約束を覚えてる?」


 ごくり、ごくり。


「マイラ、なんのこと」

「あと2年って約束したよね」


 くそっ、マイラが忘れるはずない。

 ここは別世界だからノーカンというわけにはいかないかな。


「覚えているよ結婚だろ」

「身内だけの結婚式よ」


 婚約者の4人が寄って来た。


「分かったやろう」


 とうとう来るものが来たか。

 俺は13歳。

 マイラは17歳。

 リニアの年齢は分からん。

 たぶん20代前半。

 だが年を取らないので判別は無理だ。


 レクティとセレンは19歳。

 結婚するには日本では早いが、異世界では珍しくない年齢だ。


 ええと、ドレスは無理だな。

 料理は出来るだけ豪勢なのを食うとして、ケーキも無理だ。

 だが、でるだけやらないと、一生言われる気がする。


 塩を街の人間に売れればな。

 仕方ない。

 顔役と交渉しよう。


「塩が腐るほどある。売り捌けないか」

「できるとも。だがスラムの住人に売っている額の半値だ」


 スラムの住人に売っているのだって安いのにさらに半値か。

 マイラを連れてこなくて良かった。

 舐められたら終りよと言って大暴れしそうだ。


「分かった」

「不満気だな。いいか闇塩は危ないんだぞ。塩を牛耳っている商会は大店だ。むこうはスラムの人間を皆殺しにできる。領主ともつながりがあるからだ。皆殺しは外聞が少し悪いってだけで、目こぼしされているだけだ」


 予想以上に厳しいらしい。

 塩を顔役に売ってなんとかドレス代は稼げた。

 古着のドレスしか買えないのは勘弁してもらおう。


 さてケーキだ。


for i in range(0,100,1): # 100回ループ

  print("【レクティから俺に魔力を移せ】")

  print("【木から糖分召喚、精製せよ】")


 これでメイプルシュガーもどきが作れる。

 あとはパン屋に砂糖を卸して、ついでにケーキを作ってもらうだけだ。


 ただ木から砂糖を採るには街の外に出ないといけない。

 カエデが群生しているといいのだが。

 しょうがない。

 冒険者を頼むか。


 レクティと共に冒険者ギルドに足を踏み込んだ。


「森を散策したい。護衛してほしいのだが。木の種類に精通している人ならなお良い」

「それだと銀貨3枚ぐらいかな」

「じゃあそれでお願い」


 チンピラ冒険者が寄ってこないようにカウンターのそばで待つ。

 ほどなくして、依頼を受ける冒険者がやってきた。

 年齢は16歳ぐらいとみた。

 駆け出しだな。


「あんたが依頼者か。薬師見習いか何かか」

「まあそんなところ」


「木について聞きたいんだってな」

「うん樹液が甘い木を探してる。こんな葉っぱ」


 カエデの葉を書いた紙を差し出した。


「知ってるぜ。カエデだろ」


 どうやら、上手くいった。

 冒険者達に連れられて、森へと足を踏み入れる。

 レクティの手は離さない。

 レクティからの魔力補給が生命線だからな。


「あれがお目当ての木だ」

「【Pythonパイソン 砂糖.py】」


 白い粉が出来た。

 それを袋に詰める。

 舐めてみると確かに甘い。


 いくぶん渋みもあるようだが贅沢は言えない。

 持てるだけの砂糖を作って街に帰った。


 パン屋の扉を叩く。


「何だい?」


 女将さんが出て来た。


「新年のお祝いで特別なパンを食べたい」

「へえどんなの」

「スポンジケーキに甘い生クリームを塗るんだ」

「なるほどね。甘味は貴重だから、たしかに豪勢だ」


 砂糖を卸してケーキを注文した。

 あとはドレスだ。


 婚約者4人を連れて古着屋に行く。

 ドレスはあったがどれも古臭い。

 汚れがそう見せているのだろう。


for i in range(0,100,1): # 100回ループ

  print("【レクティから俺に魔力を移せ】")

  print("【ドレスを漂白せよ】")


 こんな魔法を作った。

 これで買ったドレスを漂白したら、新品同様になった。

 準備は整った。

 あとは新年を待つだけだ。

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