第152話 神薬エリストールと、月光草と、長くない

「リラ、タイト先輩を除いたみんなにお願いがあるの。順位戦優勝のご褒美は有効よね」

「おっ、やっと願い事を言う気になったのかね。早く言うのだ」


「神薬エリストールが欲しい。その材料探しに付き合って」


 エリストールと言えば甘味料じゃなかったか。

 いや、偶然の一致か。


「ふむ、面白いのだ」


「リラ、君は儚く散りそうなのか」


 そうアキシャルが言う。


「ぜんぜん。でも治らない病気なの。出来る事なら治したいなぁって」

「僕には君が散りそうな花に見えるよ」


 不吉な言い回しだな。

 アキシャルにはリラの死相が見えるのか。

 そんなわけはないか。


「手伝ってあげましょう」


 セレンが賛成した。


「そうですね。病気の治療ならやってあげたいです」


 レクティも賛成か。


「取り決めだから仕方ない」


 マイラもしぶしぶオッケーを出した。


「俺は指名されてないけど、勝手についていく。ルールだから手伝わない」

「決まりなのだ。それで材料はどこにあるのだ?」


「あのね。月光草、精霊のしずく、アムリタ、聖水銀のどれか一つでも手に入ると、薬ができるんだけど」

「ふむ、詳しくなのだ」


 リラが説明をして、最初の探し物は月光草になった。

 場所は魔の森だ。


 物騒な所に決まったな。

 俺なら余裕だが、他のメンバーにはつらいだろ。

 手伝った方がいいのかな。


 とりあえず、俺は図書室で月光草の情報を集める事にした。


「すみません、月光草の情報を探しているのだけど本はありますか?」


 俺は司書に話し掛けた。


「たしか、Aの657番とEの418番だったと思います」


 言われた番号の本を探す。

 あったが、一つは娯楽小説。

 もう一つは偽書のコーナーの呪いの本だった。

 ええと、伝説でも何でもないのかよ。

 完全に創作物の出典だな。


 罠か?

 それなら俺を外す意味が分からない。

 俺が行かないとか言ったら計画が台無しだ。

 罠に嵌めようとしたのじゃないのか?


 それとも俺の性格を読んで、ついて行く事は確定しているのか。

 行ってみないと分からないな。


「月光草って聞いた事がある?」


 俺はアキシャルの所に行き尋ねた。


「都市伝説だね。満月の夜に大輪の花を咲かせるらしいよ。花を愛する者としては一度見てみないと」


 採りに行かなくても、魔法は召喚魔法だから、取り寄せられるかな。

 ああ、見た事ない物は取り寄せられないのだったな。


 楽は出来ないって事ね。

 それに魔力が強い物は取り寄せられない。

 この花が凄い魔力を秘めているとも限らないしな。


 神薬エリストールについても調べて見た。

 こっちの手掛かりはない。

 完全なでっち上げなのかも知れない。


 でも本当にある可能性もある。

 疑ってかかるのはよくないな。


「マイラ、リラの薬の事だけど、どう思う?」


 俺は自室でマイラに話し掛けた。


「懇願の色が見えた。リラは長くないと思う。アキシャルの勘は馬鹿にできない」

「そうか、リラは良くないのか。あの力を素で出すのは、相当無理している感があるからな」


 じゃあ、本気で探すか。

 ドラゴンのアルゴなら魔の森の主だから、何か知っているかもな。


「話は変わるけど、サイリスの戦闘を見て分かった事があるわ」

「何?」

「彼女は人を殺したくないと思っている節がある。サイリスは狼でなくて犬かも。無理やり戦闘意識を高められた犬みたいに感じる。犬使いの飼い犬があんな感じだった。仕方なしに反撃してる。それと野生の本能が抑えられない」


 狂犬病は違うな。

 大人しい犬の意識を狼に移植した。

 こんな感じか。


「伏せって言ったら、大人しくなったりしてな」

「タイトなら、ありえる」


 そうか試してみるか。

 試すのは無料だからな。


 学園に1週間ほど旅行に行くと届けを出した。

 もしもの時に必要な荷物は収納魔法の中に入れた。

 移動する板の魔道具を人数分作り、準備は整った。


「にゃーん」


 猫のエレクの事を忘れてた。


「カソード、猫を預かってくれ。おも研で旅行に行くんだ」

「お土産で手を打つよ」

「恩に着る」


 エレクも頼んだし、これで完璧だ。

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