第253話 援護砲撃からの接舷

「バ、リ、ア、が……げん……かい……です……」


「もう少しだっ! もう少し耐えろっ!」


 艦首をズキズキさせながらなんとか堪えていたデュークが力尽きようとするその瞬間、凄まじい熱量を持った熱線が、ドギュオ――――ッ! とプロメシオンの側方に斜からヒットし、バリアをえぐり始めました。


「きたぞ、援護砲撃だっ! 敵艦のバリアが弱体化したら、それに合わせて干渉するんだっ!」


 継続して飛んでくる熱線はメカロニア戦艦のバリアに負荷を掛けてゆきます。その様子から「砲撃だけでは抜けん!」と判断した大佐は「フルパワーでなんとしても貫けっ!」と大佐は叫びました。


「といっても――――わっちゃっちゃっちゃ――――ッ! 熱戦砲の狙いが、狙いが少しブレてるぅ!」


「多少は我慢しろ! とにかく敵のバリアに干渉して頭を突っ込むことだけを考えろっ!」


 味方艦が放ったビームはどうにも狙いが少し甘いらしい上に大出力ですから、チビチビとデュークのお尻を叩くのです。が、ラスカー大佐は「一発だけならセーフ! お前は祖国を裏切ってない!」などと、謎の文句をのたまいながら、プロメシオンのバリアを貫けと命じます。そして微妙に収束の甘かったビームの狙いが整い始めると――


「あ、手応えが変わった!」


「いまだ、押せっ! 押せっ! 押せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 熱線の効果により敵艦のバリアが甚大な負荷に耐えきれなくなったと見たラスカー大佐は「残存する推進剤を全て吹かして、ぶち抜けっ!」と叫びました。


「うおりゃ――!」


 デュークがグンと前に踏み込むと彼の艦首がググッと前のめりに進み、それまでのまったく歯が立たなかった敵のバリアに、艦首がギリギリと潜り込みます。そして、艦首がバリアを貫いてしまえば、後は敵艦の装甲板に接触するだけなのです。


「よし、抜けたぞっ! って――あいだだだだだだだっ?!」


 戦艦同士の強靭な装甲と装甲がぶつかりあいます。強度はデュークの方が上回っており、接触と同時にデュークの艦首はゴリゴリゴリゴリゴリッ! とした音を立てながらプロメシオンの装甲板にめり込んでゆくのですが――


「あれ? 止まっちゃいました――!」


「ぬぁ、相対速度が不十分だったか!」


 この時点で、お互いの相対速度はおおよそがバリアによって相殺されていたため、デュークの衝角攻撃は、敵艦の装甲をえぐってぶっ刺さるに留まったのです。


「よし、とにかくここから攻撃だ! バリアの中に入ってしまえば、砲撃も貫通しやすい! 撃て、撃て、全兵装射撃許可っ!」


「は、はい!」


 するとデュークは残った近接レーザーやら小口径の速射砲をドカドカとプロメシオンに向けてゼロ距離で発射し始めます。


「は、なんで小口径砲を使う?」


 小口径砲は多少は敵艦の装甲に対して効果を生むのですが、決め手となるようなダメージが生じることはありません。だから大佐は「主砲を使え! 主砲を!」と怒鳴るのですが――


「主砲がうごきません! 撃てないんです!」


「だぁぁぁぁぁぁぁ、衝突の衝撃で電路がほとんど動いておらんのか!? と、とにかく気合で電力を回せっ! 一発ぶっ放せば勝てるのだ!」


 度重なる戦闘で疲弊消耗したデュークは、主砲を発射することができませんでした。これまでバリアに回していたエネルギーを砲に回そうとしても「だめだ、発射可能状態まで20分はかかりますよぉ」という状況なのです。


「だ、だが敵の主砲もうってこない……やつらも相当のダメージが入っている!」


 完全に接弦状態になった両艦は、一部の近接戦闘火器以外は機能しない状況におちいっていました。


「こうなれば、なんでもいい、拳でもなんでもだ! 叩きつけろ!」


 ラスカー大佐は負傷した右手を艦長席の手すりに叩きつけ「いっでぇぇぇぇっ?!」と叫びながら、敵艦に頭を突っ込んだデュークに「クレーンアタックだ!」と命じました。


「は、はい!」


 デュークはクレーンを振るってプロメシオンの装甲を「デュークパーンチ!」などとぶっ叩くのですが、並のフネならともかく、超大型戦艦の装甲はとても硬く「全然通じません!」ということになるのです。


「駄目です、もう他に攻撃手段がありませ――ん!」


「ええい、こうなればっ!」


 と叫んだ大佐は「準備だ、準備を始めろっ! 敵艦が目の前なんだ、一発かましてやるのだっ!」などと、ワタワタ指示を出し始めます。


「えっ、また自爆とかする気じゃ――!?」


「違うっ、移乗戦闘だ! 切り込み隊を編成して、敵艦の内部に入り込んで爆破してや――」


「あ、なんだか、ワラワラと出てきましたよっ?!」


大佐が古式ゆかしい移乗戦闘を決意した瞬間でした。デュークの視覚素子には無数の金属体――剣呑な兵装を装備したメカロニアの兵隊が近づいてくる光景が映ります。



「うっ、敵の陸戦隊ではないか――先手を取られたかっ!?」」


「あ、撃ってきた――」


 プロメシオンのハッチから飛び出てきたメカロニア兵が、対物ライフルやら携帯ロケットをバシバシと放ってきます。大佐は「おいデューク近接火器! 近接火器!」と騒ぎますが、デュークの近距離火砲はすでに疲弊している上に、最早対応が不能な状況に陥いるのです。


「ええい、すぐ使える部隊を出せ! そうだ、特務武装憲兵隊分遣隊がいただろう! あれを出せっ!」


「あ、ケルベロスの皆さんたち、今出撃しましたよ!」


「おおおっ! よし行け、地獄の番犬ども! 時間を稼げぇぇぇぇぇ!」


 黒い装面を付け、赤いゴーグルを輝かせた司令部付の憲兵隊員たちが、右手に重機関銃を構え左手にスコップを握りしめながら、司令部ユニットからデュークの甲板に飛び降りています。真っ黒なプロテクトスーツに身をまとった恐ろし気な彼らが、歩を揃えて配置につく姿は実に頼もしい限りです。


「特務武装憲兵隊旗艦付第一小隊、右舷に移動!」


 憲兵隊指揮するのはノラ少佐です。彼はイヌ型種族の中でも最も勇敢で忠誠心の高いブラックハウンド族であり、500年ほど前に組織された特務武装憲兵隊の「にっこり笑って右手にライフル、左手にスコップ! 虫けらどもを踏み潰せっ!」というスローガンを体現するような男です。


「遮蔽物を利用しろ!」


 デュークの甲板上ではそこら中で兵装が爆散したり、燃え上がっています。ケルベロスたちは、それらを遮蔽物代わりにしながら防御陣形を敷き、手にした重火器をメカロニア兵に向けました。


「撃ッ!」


 少佐がそう命じると、特務武装憲兵たちはドコココココココ! と、M34空間戦闘重機銃を放ちます。するとデュークに取り付き始めたメカロニアの兵隊達が、バキッ、バキッと次々に砕かれ、戦線を離脱してゆきました。


「おお、流石はケルベロスだ。実に頼もしいぞ!」


「でも、あの人達、20人足らずしかいないんですよ!」


 デッカー特務大佐が残した憲兵司令部付特務武装憲兵隊は、司令部ユニットの警備に必要な最小限の数しかいないのです。残りの憲兵隊員は、ゴルモア民間人の脱出の手当に回っていますし、もともと接舷戦闘など考慮していなかったのだから仕方がありません。


「奴らは一騎当千の強者なんだ、あそこには20000名からの兵がいると思え!」


 計算はあっているかもしれないけれど、前提が色々と間違っていそうな言葉を言い放った放ったラスカー大佐は「武器庫を開け、とにかく臨時編成の陸戦隊を組織しろぉぉぉぉっ! うん? なんだかデジャブを感じるな?」などと言うのですが、小型次元超獣との闘いで似たような事をやっているからそれは既視感ではありません。


「あっ左舷側からも敵が来てるじゃないか!? 近接防御火器はどうしたっ?! 弾幕薄いよっ、何やってんの!」


「ボロボロのクタクタなんです。無茶言わないで!」


 デュークの左舷側のダメージも物凄いものでしたが、非常事態につき気合と根性で電路をつなぎ直したデュークは、小火器ならぬ、火災鎮圧用の消火器すら引き出して、敵兵に対応します。


「うわぁっ、下からも来ました。宇宙バイクか何かに乗ってます!」


「艦載AI、修理用ドローンを全部出せ、盾にするんだ! とにかくなんでも使え、立っているものは親でも使え!」


 メカロニア兵が小型の機動戦闘艇を用いて、デュークの船腹の方に潜り込んで来ました。ラスカー大佐は残り少なくなったドローン――多機能型のそれをあやつって防御しろと艦載AIに命じます。


「わっ、今度は上から来ました――――!」


「クレーンを使って排除しろっ! 司令ユニットの人員は予備隊だから回せん! くそっ! 次元超獣とは訳が違うぜ」


 機械帝国の兵隊は軍人奴隷が多いのですが、それでもさすがは軍隊というものであり、メカロニア兵はデュークの周囲を包囲しながら的確な射撃を行うという戦術的な行動を取ってきます。彼らが手にした武装は口径からしてデュークの装甲を抜くだけの威力は無くても、艦外構造物や破損した箇所などに攻撃を受けると無視することができない損害が生じるのです。


「全周囲防御態勢! ケルベロスどもが敵を排除するまで、防御に徹しろ! やつらを起点に反撃の機会を伺うぞ!」


 ラスカー大佐は接舷戦闘のプロではありませんが、この場において一番頼りになる部隊を基軸になんとか状況を打開しようと指揮をとるのでした。


 さて、一方その頃、プロメシオンの艦橋ではメカ貴族の二人――アレクシアとデュランダルがデュークの周囲て行われている空間戦闘の様子を眺めています。


「あの大出力ビームのせいで艦首をぶっ刺された時には一瞬ヒヤっとしたけれど、こうなってしまえば、こちらが有利だわ」


「ああ、こちらは乗組員がいくらでもいるからな」


 人員座乗型の龍骨の民ではないデュークは、その艦内に一人も乗組員が存在していない上に、唯一の例外である司令部ユニットはと言えば空間戦闘に対応するためのものではありません。それに対してメカロニアのフネには多くの奴隷兵が乗っているため、兵力差は大変なものになっていました。


「しかし、あの黒い装甲兵は厄介だな。武装が強力な上に、凄まじい練度をもっているぞ」


「あ、あの右舷側のやつらね。わぁ、片手であんな重そうな武器を振り回してるわ。左手に持ってる……スコップかしら? なによ、あれ、すごいわね!」


 ケルベロスたちが重機銃をドカドカとぶっ放しながらメカロニア兵の頭をスコップで叩き割る光景に、アレクシアは目を丸くします。


「機械帝国不死隊みたいなやつらだわっ!」


 機械帝国不死隊とは、俗にイモータルズと呼ばれるメカロニアの精鋭部隊であり、地上戦や空間戦闘技術に優れた特殊部隊のことです。


「いや、そんな生易しいものではないぞ……」


「ああっ嘘っ!? 左手のスコップでレーザーや銃弾を受け止めてるわ!」


 特務武装憲兵隊が持つスコップは超硬質合金製の業物であり、レーザーを弾き返し、実体弾を防ぐことができるのです。それをみたアレクシアは「どういう反応速度してるのよ!?」と驚きます。


「あれは猛者だ。間違いなく連合の最精鋭に違いあるまい!」


 デュランダルは嬉しそうな表情を浮かべました。特務武装憲兵隊は、第一軌道降下団とならぶ共生宇宙軍の陸戦隊部隊ですから、彼の見立ては全くもって正解なのです。


「あ、だめ、押し返されてるわ」


「数がいても、奴隷兵では歯が立たんな!」


 数百名がかりで攻め立てていたメカロニア兵ですが、キルレシオ0:100などというとんでもない損害を受けていたのです。まるでFPSゲームで言うところの初心者と廃人との闘いのような様相でした。


「不味いわ! 他で勝ってても、あいつらに好き勝手させたら、盤上をひっくり返されるかもしれないわよ!」


 戦争とは時に勢いが重要であり、ケルベロスたちが確保したデュークの右舷側では、共生宇宙軍はまさにその勢いを得てしまっているのです。これが他のところにまで波及すると、アレクシアの言う通りになる恐れが生じるかもしれません。


「確かにそうだな……よしっ、従卒、従卒、従卒! 俺の得物をすぐに準備しろ!」


 従妹が漏らした懸念に完全に同意したデュランダルは「艦外戦闘だ!」と、眼前で行われている接舷戦闘に参加すると叫びました。


「あら、おにーちゃんが直接やる気? そりゃ、あれほどの敵なら仕方ないけれど、プロメシオンはどうするのよ?」


「最早操艦の必要もあるまい」


 すでに敵艦との激突は終了し、接舷戦闘状態にあり、また熱線を放った遠方の敵艦は発砲の影響のためか、炎上状態にあるのです。


「武人としてあの戦場に降り立ち、あの黒い奴らと相まみえるとしよう!」


 軍人貴族であるデュランダルは、艦の舵取り以上に個人的な武勇をしめす場に置いて相当の自信があるようです。彼は「こんな所で、これほどの敵を出会えようとはっ。ふははは!」と不敵な笑みを浮かべ、銃弾唸り刃交わる戦場へと向かうのでした。

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