第374話 艦橋にて
打ち合わせを終えたデュークはスズツキに先導され、嚮導駆逐艦内にある艦橋兼指揮所へ入りました。本体のままでも指揮は出来るのですが、指揮官として艦橋にあるとやはり指揮官としての気分が違うということで、今回の指揮はここで取ることになっています。
「指揮官着任、総員敬礼!」
スズツキがそう言うと、艦橋内のクルーが一斉に敬礼を行います。デュークはそれに対してサッと敬礼を行いサラサラと自己紹介をすませました。
「へぇ、標準的な艦橋とあまり変わりませんね。クルーも乗っているんだ」
「そらまぁ、嚮導駆逐艦じゃからの」
艦橋内部を見たところ戦術スクリーンや伝令設備など、共生宇宙軍の指揮設備とさほど変わらないようなものが設置され、他種族の艦橋要員がまめまめしく立ち働いてもいます。
「艦橋は後付けの設備ですか? 軍の工廠で改造を受けたとか」
龍骨の民は軍の工廠で改造を受けることで後天的な機能追加が可能であり、主砲やミサイルなどの武装に始まり、クルーが滞在できる居住区があります。軍の設備に似ていると感じたデュークは、スズツキがそのような改造を受けたと思ったのです。
「よう似とるけん、皆そう思うのじゃが、実んところ艦橋設備のおおかたは自前のものじゃ」
「ご自分の物ということは、フネになった時にはすでに備わっていたのですか?」
「うむ、知らんうちにカラダん中にできておったよ」
龍骨の民あるあるですが、多分昔、母星に沈んだ老骨艦の中に指揮ユニット持ちがいたのでしょう。
「それを取り込んだ
スズツキは「勝手な推測じゃがの」と言いました。マザーは沈黙の天体ですが、産出されるフネの形状やシルエット、機能から何らかの意図汲みだすことは多少は可能です。
「ま、そりゃどうでもええことじゃ。それより、ほれ、そこが指揮官席じゃけぇ早う座りんさい」
「はい、ここですね」
スズツキが指示したのは艦橋の中の一段高いところに設置された指揮官用の座席でした。これも共生宇宙軍の万能シートと同じもので、デュークが腹ばいになってカラダを載せるとグルンと形状が変化してフィットします。
「座り心地はどうかね。ここに座るとビッと来るものがあるじゃろ」
「ええ……」
スズツキがそう言うとデュークは少し龍骨を震わせて「これが指揮艦席――」と感慨深げに排気を漏らしました。
「ともかく、この艦橋がワレさんの城じゃけん。好きに
「はい、お借りします! ところで前に座っていた方はどうされたのですか?」
これまで指揮官席には誰か別の指揮官が座っていたはずなのです。デュークは「まさか僕のために席がなくなったとか……」などと思ってしまいます。
「カッカッカ、中央士官学校の実習たぁいえ、さすがに指揮官を挿げ替えるようなこたぁせんよ。それに彼は優秀な指揮官じゃったしな」
スズツキは前の指揮官――成績優秀なバルカン少佐は先日病気にかかって、軍病院送りになったと説明しました。
「へぇ、病気で……」
「別に感染するものではないが、なんとも恐ろしい病でな。常にカラダの一部がピリピリする病じゃて」
スズツキは「ナノマシンで抑えることもできるんじゃが、酷くなると外科手術が必要なんじゃ」とも続けました。
「その上、一度罹患すると癖になるという始末の悪い病でな」
「ふぇぇぇぇ……手術が必要な上に、何度も起こるんですか」
デュークは「バルカン少佐が罹ったその恐ろしい病気の名前は一体なんですか……?」とおっかなびっくり尋ねると――
「病名は、お尻ピリピリ病じゃ!」
「お、お尻……ピリピリ病……!?」
スズツキは真顔でなんだか妙な病名を告げましたが、要するに ”痔”です。
「ヒューマノイドの排泄器官にできる出来物でな。脂汗を流しながら耐える他ないというきつい病じゃ」
「出来物が……僕らだと船尾の腫物かぁ」
デュークは自分の船尾を眺めて「排泄器官だから、推進器官の方かな」などと思います。龍骨の民は機械生命体な上に基本ナノマシンによるオートリジェネがかかっているため、病気に罹ることはほとんどありませんが、戦傷を受けた部分が妙な具合になって腫物が出来たりします。
「バルカン少佐は優秀じゃが、真面目過ぎる男でなぁ。常に艦橋に居ないと気が済まないタイプの指揮官じゃったけん、長時間のすわりっぱなしが原因じゃろ」
共生宇宙軍の座席やシートは体にフィットしたものであり、そういう病気にはなりにくいものですが、艦長兼指揮官のバルカン少佐は艦長と言うものは可能な限り艦長席に座っているべきという主義の持ち主だったのです。
「メシですら席で取るお人でな。
それに加えてスズツキ曰く「眠気覚ましにコーヒーをブラックでガバ飲みするようなお人じゃった」ということですから、砂糖かミルクを入れないガバ飲みをして内臓系がアレになり、痔の原因になったのでしょう。
「体調管理は指揮官の基本じゃけぇ。ワレさんは気ぃ付けるんじゃぞ」
「あっ、はい」
デュークは指揮艦籍の上で艦首をウンウンとさせながら「指揮官はそう言うことも気を付けなければならないんだなぁ」と思うのでした。
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