第379話 星系強襲上陸 その3
ダマラッシャ率いる海賊帝国の艦艇が共生宇宙軍の橋頭保に迫っていたころ、その最前線に位置する一隻であるナワリンはと言うと――
「あつつっ! いたたっ! お肌がヒリヒリするじゃないっ!」
周囲に広がる閃炎と爆熱に顔をしかめていました。彼女に装甲があるとはいえ至近でドカン! と炸裂する核融合爆発は大変熱くて痛いものなのです。
「くっ、反物質反応――――艦外障壁全開っ!」
時折混じってくる対消滅弾頭のキュバッ! という爆発は、艦外障壁を用いても干渉しきれずビシバシと装甲を叩いて彼女の肌を焼きました。
「バクーって、対消滅兵器を普通に使ってくるのね……」
対消滅兵器は銀河中央の恒星間勢力の兵器としてはありふれたものですが、宇宙海賊がこれだけの数をそろえるということは大変な事でした。
「でも、縮退弾頭や重力子弾頭じゃないだけましだけど……痛いわねぇ!」
重力子弾頭や縮退弾頭は危険な粒子や放射線をまき散らすだけではなく、空間をドワォッ! という感じで歪め、艦体に直接ダメージを与えてくるものです。それらは共生宇宙軍でも数を制限されている戦略兵器ですから、さすがにバクーも使ってはこないでしょう。
「よしよし、爆発が収まってきたわ」
しばらく機雷の爆発を受け流していたナワリンは、時間の経過とともに周囲の爆発が収まってきたことを確かめます。そして艦隊ネットワークから情報を引き出すのですが――
「最小限の橋頭保は確保できたけれど――私はともかく、何隻かに損害がでているわね」
と、自分の率いる中隊に少なからぬ損害が生じていることを認識しました。彼女の部隊は重装甲の戦艦を主とした構成ですが、第一陣の最先端として機雷源に突入し、至近ともいえる距離で対消滅爆雷の爆発を受ければ致し方がないところでしょう。
「宇宙海賊風情と舐めていたら、酷い目に合うか」
彼女は「もうあっているのかもしれないけれど」と呟きました。実のところナワリンはバクーがただの海賊ではないということを知らされているのです。「海賊帝国バクー、やるものだわ。メリノー按察官の言う通りだわねぇ」と言った彼女は龍骨を一つ捩じって気合を入れなおし、第一陣の他の部隊の状況を確かめます。
「本部、本部――――あら、通信が確立しないわ?」
彼女が増強戦闘大隊の艦隊ネットワークにアクセスすると、大隊本部からは「404エラー」と、
「核ノイズのせい――ではないわね?」
すでに融合弾頭や対消滅弾頭によるEMPによる影響はすでに落ち着きつつあり、艦艇間にはレーザー通信や重力子通信技術もあるですから、通信が途絶えるということは、何か別の原因があるのです。
「これは……嫌な予感がするわ」
ナワリンが後方を眺めると――
「うげっ、大隊長のフネってば、電子系がぶっ飛んでるじゃない。ステルス式の機雷が残ってたんだわ」
ということに気付きます。彼女は自らの艦体と指揮下に置いた重装甲戦艦部隊を用いて、機雷を踏みつぶしながら橋頭保を確保していたのですが、ステルス式の機雷がいくらか残っていたようです。
「あれじゃ指揮艦として機能しないわ」
ナワリンは「運が悪いわねぇ」などと眉をひそめました。戦場部隊を率いる艦が直撃弾を受けたり、蝕雷することは往々にしてあり得ることで仕方がないことですが、運が悪いという事に変わりはありません。
「なら、先任将校に指揮系統の再確立をしてもらわなきゃ……って、先任の第二中隊長とも通信が取れない…………って、ハァァァァ……⁈」
彼女が大隊本部と共に進んでいた第二中隊を確かめると、中隊長座乗のフネの艦橋が大炎上を起こしていましいた。
「ちょ、まてよ! 指向性核融合爆雷の断片がバリアの隙を突いたって!? なんて運の悪さよっ!」
指向性核融合爆雷とは、核融合の爆発に指向性を持たせ超重元素で出来た断片を高速で打ち出すショットガン的なもので直撃すればかなり危険な兵器であり、それが艦外障壁をすり抜けて艦橋を直撃した模様です。
「第二中隊長以下、重症か
少しばかり慌てふためいたナワリンは――
「落ち着け私、落ち着いて素数を数えるのよ、そして色を龍骨に――って、超空間に逃げ込んでどうするのよ!」
そんな感じで一人乗り突っ込みします。素数を数えるのは心を落ち着かせるには良いのですが、龍骨の民にとっては超光速航法の切っ掛けとなるものでしたが、超光速で逃げ込むわけにもいきません。
「私かペトラが指揮を執るほかないわね……」
上級指揮官が機能喪失している状況下では、指揮権は最上級の将校に託されるものです。今回彼女には特別に艦載AIが搭載されており、速やかなる指揮権発動を促してもいものですから、まずナワリンは同格であるペトラに通信を取りました。
「ええと、追及するから少し待っててね~! か、仕方ないわ、前を固めて待つか」
そう言ったナワリンは、損傷の大きな艦を後方に下げつつ、残存艦で橋頭保を固めるべく陣形を構築しなおします。彼女の部隊は結構な打撃を受けており、それを行うにはかなりの困難が伴うものでしたが、新米指揮官とはいえ相当の修羅場を潜ってきたナワリンは問題なくそれを完遂しました。
「ナワリーン、来たよぉ~」
「あら、数が多いわね」
しばらくするとそこにペトラが部隊を率いて到着します。ナワリンが見たところ、その数は二個中隊ほどの数がそろっています。
「第二中隊から損害のなかったフネを抽出して合流してもらったよぉ~。損傷艦は全部最後方に下がってもらってるからねぇ~!」
「へぇ、やるじゃない」
ペトラは何時もの通り間延びした口調で、自分の部隊だけではなく指揮官を失った第二中隊を取り込んだと言いました。機雷の対処に追われたナワリンに比べて余裕があるからこそですが、ペトラはそのような判断ができるようになっているのです。
「そんで、大隊の指揮権はどうする~?」
「多少フネが減っているけれどまだ80隻は居るわ。これをまとめて指揮できるほど私たちには経験がないわね」
「まぁそうだよねぇ~」
彼女達に付けられたフォロー役や、艦載AIの力を借りてもそれだけの集団を一元管理するのは難しいのです。いかに修羅場を潜ったとはいえ、彼女達がそれができるというのであれば、それは自信過剰に過ぎるでしょう。
「経験のある巡洋艦とかがいればよかったのにねぇ~」
「ええ、白銀の
彼女達は以前キノコ狩りの際に出会った軽巡メノウを思い出してから、「あのフネが居ればよかった」などと口を揃えました。そしてこんな時でも余計なお喋りをするのが龍骨の民らしいといえばそうなのですが、悠長に構えている時間もありません。
「ああ、敵艦が加速してきてるわ……うへぇ、結構動きがいいわね」
「これって、ボク達、半包囲されつつあるじゃん!」
彼女達の視覚素子には足止め状態の共生宇宙軍に対して前進しながら艦隊運動を行うバクー海賊帝国の艦艇が映っています。そしてその運動は海賊というよりも正規艦隊が描くような美しいものだったのです。
「まずいわね、すぐに行動に移らないと……橋頭保の確保は絶対だわ。とにかく防御を固める?」
「でも、第二陣が来るまでに橋頭保がもったとしても、あの勢いだと、第二陣も含めて、狭いところに押し込められて集中砲火を浴びることになるよぉ~!」
「むむぅ、たしかにそれもそうね。なにか打てる手はないかしら?」
「うーん、ちょっと考えてみよぉ~」
ナワリンもペトラも中央士官学校での学習や各種シミュレーションを経て、戦況を読むことや対処法についてそれなりの知見を得ていました。そして龍骨の上でそれらを総動員します。
「「あーでもない、こーでもない、そうでもない」」
そしてフォロー役の助言やら、様々な経験を持つご先祖様システムのちょっとばかりいい加減な意見や、搭載された艦載AIの冷徹なる判断を得て、とある結論に達したのです。
「つまりこれって、アレをやるしかないわけね。危険な賭けになるけれど」
「でも、このままだとリスクは高まるだけだし~」
「それもそうね。一応本隊に確認だけはしておいて……」
「うん、すぐ行動しないとねぇ~!」
そう言った彼女たちは指揮官としての決断を下しそれを実行に移すのでした。
少年戦艦デューク~生きている宇宙船の物語~ 有音 凍 @d-taisa
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