マザー:直径が地球の4分の1ほどの低重力の惑星、あるいは惑星規模の工場(?)
から産み出される、生きている宇宙船の民族「龍骨の民」。
星間戦争では悲愴な玉砕戦に身を投じ、自分たちを犠牲にして若者を生き残らせようとする勇士だが、
自分たちのネストに、なかなか新しい幼生体が産まれず、心を痛める老骨たちでもある。
そんななかマザーがネストにもたらした待望の新生児は、12個もの縮退炉を持ち、少年期で早くも500メートル超に迫る巨艦!
私達、地球の人間とはかけ離れた世界感・身体感に没入するいっぽう、
彼ら同士、特にデュークに注がれる愛情がとても温かく、龍骨の民の絆が感じられます。
自らの命と意志を持つ、巨大な「船(宇宙船)」デュークを主人公とした、SFファンタジー巨編です。
デュークは生ける宇宙船の種族「龍骨の民」として生まれ、戦闘用の宇宙船(軍艦)として生きる事になるのですが、とても穏やかで心優しく、好奇心も旺盛な少年として描かれており、まずそのキャラクター性に愛おしさを覚えます。
「龍骨の民」は完全に人間とはかけ離れた巨大な機械生命体なのですが、デュークの優しさ、大らかさが、この不思議な種族と世界観、物語自体を、ぐっと身近なものとして感じさせてくれます。
デューク以外に登場する、他の「龍骨の民」達、あるいは別の惑星で暮らす異星人たちも、人生の先輩としてデュークを導いたり、あるいはデュークと共に冒険を行ったりと、非常に魅力的なキャラクター達ばかりで好感が持てます。
「巨大宇宙戦艦」として生まれついた以上、デュークもいずれは戦いの場へ赴く事になるのだと感じます。
ですが、そんな過酷な現実を前にしても、きっとデュークは変わる事無く、己の優しさと正しさを貫くのだろうと思います。
彼と彼を取り巻く人々、異星人、生命体、宇宙に生き、意志を持つ者達は皆、お互いがお互いを認め合う努力、分かり合う努力を行っており、その姿勢に感慨深いものを覚えます。
この壮大かつ相互理解の進んだ世界は、ある種の理想郷ではないかと思います。
この世界で生きる限り、デュークは「龍骨の民」として、真っすぐに生きて行くのだろうと思う次第です。
とても優しく大らかな世界観、かつ本格的なサイエンスフィクションの風味も、たっぷりと散りばめられた逸品です。
(※第72話まで読んだレビューです)