第304話 実技試験を控えて

 共生知生体連合首都星系シンビオシス、首都星クレメンティアをめぐる周回軌道上に存在する共生宇宙軍学園都市にて――


「ペーパー試験は楽勝だったわ!」


「問題がぬるすぎて、あくびが出たよぉ~~!」


「まぁ、公式カンニングがOKだったからねぇ……」


 中央士官学校入学試験当日となり、機械生命体ならではの詰め込み教育のおかげで筆記試験をなんなくパスしたデューク達は実技試験に進んでいます。


「実技試験ってば、毎年違う内容だって聞いたけれど。資質を試されるというのは変わらないのよね?」


「うん、共生宇宙軍の士官としての資質が試されるらしいね。中央士官学校は戦略指揮コースだから、構想力とか判断力とか運気とか指揮官向けの資質が重要視されるんだって」


「なにより覚悟とかいろいろと~~」


 実のところ、この数か月というもの、ドクトル・グラヴィティは実技試験に備えて、運気を試すような麻雀をはじめとして、さまざまなシチュエーションにおける競技やらゲームやらシミュレーションについてデューク達を育成していました。


「軍事シミュレーションはかなり楽しかったわ」


 ナワリンは、恒星間文明同士の衝突をストラテジックに描く銀河大戦シミュレーションにおいて、ヒューマノイドやら機械生命体やらキノコ知生体などといった、多種多様な種族を用いた千年単位の恒星間戦争を経験していました。


「ボクフネだけどさ~~陸上の戦いもそれなりに楽しいものだったよぉ~~」


 産業革命時代の惑星における数百万の戦列歩兵が激突を繰り返す戦場で、ペトラは「砲兵は戦場の女神~~あと、大陸軍は世界最強~~!」などとナポレオニックな戦列歩兵シミュレーションにはまっていたようです。


「いやはや、政治というのがあまりわからなかったけれどね」


 デュークは”プレジデントになろう”とかいうシミュレーションで、いかに自分の評価を高めるか、そして対立候補を貶めるかについて学びながら「他人のあることないこと勝手に宣伝するのかぁ……」と彼はその手法に疑問を感じていたのですが――


「でも、あんた。結構えげつない手を使ってたわよね」


「ああ、あれね、スキャンダルってやつ。場合によってはそういうのが必要なんだ、うん。広告宣伝を担当してくれたNPCがそう言ってた。必要ならば、やるだけなんだよ」


 無駄を排して合理的な手法をとるということに、デュークは意外なことに適応していました。彼は基本的にまっとうな龍骨の民であり温和な性格をしていますが、必要だったり命令であれば「勝てばよかろぅなのだぁぁぁ! 合理的だし」というマインドについて、それほど拒否感がないのです。


「おお、こいつもしや大物なのかしら?」


「まぁ、デュ―クは大物どころか、超大型戦艦だもんねえ~~!」


 デュークの龍骨にいるご先祖様たちは「それでいいわが子孫よ」とか「勝たないと何もはじまらないとわかるか、ぐえっへっへ!」とか「執政官という人種はもっともっと悪逆だぞ」などと言っていますから、当の本人は「そういうものなんだなぁ」と変な方向に納得しています。


「で、試験の60パーセントは非常に単純な戦略的シミュレーションだけど、中央士官学校の入学試験では、35パーセントくらいが艦隊戦シミュレーションだったわね」


「うん、艦隊戦。司令部勤めの軍人には必須だもの」


 恒星間戦争の花形である勢力間紛争の最終的解決を図る艦隊決戦を指揮することは、中央士官学校の卒業生の王道コースです。世知辛い恒星間紛争を解決する手段として共生宇宙軍があるのであらば、その中枢に位置しなければデュークの望む最高司令官など夢のまた夢でした。


「でも、残り5パーセントはイレギュラー問題なのよね」


「そうだね、試験官の気まぐれで決まる、そういう試験だね」


 デュークはドクトルから稀に中央士官学校の試験では、稀に常識はずれの試験方式が行われることを聞いていました。これにぶち当たると試験対策はあまり有効なものをはならないと彼は教えられていました。


「だけどね、どんな試験があっても、僕は前に進むだけなんだ!」


「はっ、あんたらしいわよねぇ」


「どんなことでもついゆくよぉ~~!」


 デュークはやる気満々なのですが、さてはてどのような試験が行われるかは、中央士官学校の教官どもの考え一つなのでした。

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