第305話 艦隊シミュレーションにむけて
中央士官学校の実技試験当日――
「試験は艦隊戦シミュレーションだってね」
「実にオーソドックスな試験だね~~!」
「艦隊決戦っていえば、宇宙軍の華ね!」
試験内容が複数の受験生でチームを組んだ艦隊戦シミュレーショであるという発表がありました。
「異種族同士でチームを組むみたいだけれど」
「異種族との共同ということね。共生宇宙軍の中央士官学校にふさわしい試験だわ」
「異種族さんかぁ~~どんな人たちかぁ~~?」
入学試験には様々な種族――実に100を超える多種多様な知生体が参加しています。デューク達はそれら異種族とチームを構成し、艦隊戦シミュレーションに臨むのです。
「相手は機械知性のシミュレートみたいね」
「うん、連合の主要な敵対勢力のどれかが敵になるみたいだ」
「っていうと、人類至上主義連盟とか、商業帝国とか、狂信者とか、機械帝国とかだね~~!」
共生知生体連合の敵対勢力は大小合わせていくつかありますが、その中でも有数の軍事力と科学力を有するのは、ペトラのいう4つほどでした。
「そのうちニンゲンとメカとは戦ったことがあるわね」
「ニンゲンのほうは辺境の残党軍だったけど戦意は旺盛だったなぁ。その本体も強そうだけれど――でも、やってやれないこともないかな」
「メカを引いたら大当たりだよぉ~~! あいつら数押しのゴリ押ししかしてこないもん~~!」
デューク達は連合の主敵のうち半分との交戦経験を持っており、それは相当のアドバンテージとなるでしょう。
「残りの二つは未経験だけれど、商業帝国のほうは軍事的にそれほど強くないって聞いたことがあるね」
商業帝国は経済力に優れた勢力であり、その戦術は常備軍に加え仮装巡洋艦を主とした通商破壊を行うなど侮れない戦力を持っているのですが、正面切っての艦隊戦向けではありません。
「でも、縮退炉や推進技術は連合の上を行ってるって~~! それに航宙技術は相当なものなんだって~~!」
優れた経済力を持つ商業帝国は航宙関連技術に特化した科学力を持ち、航続距離や瞬間的な加速能力において共生知生体連合をしのぐ部分を持っていました。
「まぁ、逃げ足は速いってことでしょ。それより危ないのは狂信者だわ。自爆特攻なんでもござれの危ない奴らだもの」
狂信者――正式名称を神聖深淵教団と呼ばれるその組織は、基礎的な軍事科学技術や標準的な軍事力は低めなのですが、捨て身の攻撃を得意としています。
「それに宇宙怪獣を手下にしているって噂だね」
神聖深淵教団には宇宙に潜むアノーマリー的な存在や宇宙怪獣を使役し戦力化を図っており、いざというときは星一つの住民を生贄にする外法を用いるという噂があります。
「なんにせよ、連合の敵って厄介な勢力ばかりだわね。それを相手に艦隊戦シミュレーションというのは、実際的な試験だわ」
共生知生体連合も年がら年中戦争をしているわけではないのですが、現状で抗争状態にある敵、潜在的な仮想敵に対する戦争技術を問われるという試験は非常に合理的な試験かもしれません。
「指揮官としての資質がストレートに問われる試験だけど、カークライト提督の下で働いたことが生きてくるなぁ」
カークライト提督の元、デューク達は艦隊の指揮というものをまじかで見て来たわけですし、自分自身をその駒として戦った経験を活かせば、シミュレーションはなんとかなりそうです。
だから、ナワリンは「カークライト提督の従兵をやってた私達なら楽勝ね!」などと言い、ペトラは「楽勝~~!」などとお気楽なセリフを吐くのですが――
「あれ? でも、この学校って…………」
デュークは傍と「この学校の試験って、そんな簡単なものだろうか?」と呟きました。
「何よデューク、あんたが一番提督の下で指揮を見て来たのじゃない!」
「そうだよね~~! よっ、秘蔵っ子~~!」
なにしろデュークは旗艦として艦隊の中心にいたのですから、確かにナワリン達のいうことは最もなことでした。でも、デュークはどこか不安を隠しきれず、義体の顔についた眉間に皺を寄せました。
「なんていうか、僕はなにか本質的なことを知らないような気がするんだ。それに試験が単なる艦隊戦術シミュレーションで終わるような気がしないんだ」
「それはつまりどういうことよ?」
「ええとね、ただの模擬戦闘なら――――」
デュークが何かを言いかけたところで「受験生、総員集合」の号令がかかり、彼は思案顔のまま艦隊シミュレーションが行われる試験室に向かうのでした。
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