第280話 明かされる歴史

「 ふ、ふぇぇぇ……なんて規模なんだ」


 デュークの視覚素子には巨大な光の玉――チタデレ星系に舞い降りた第三艦隊主力の姿が映っていました。無数と思えるほどの数のそれらは、一つ一つが恐ろしいほどの力を秘めた戦闘艦なのです。


「ふぅむ、種族旗艦クラスの超巨大戦艦が10とは奢ったものだ。戦略艦載母艦は100隻――各艦数十隻以上は積載しておる――ほっほっほ、これは大した打撃力だニャ」


「そ、それだけじゃありません! 戦艦の識別符号は少なくとも四千隻を超えていますよ! 重巡と軽巡なんて一万を近くいるじゃないですか! それよりも小さなフネの信号――――だめだコレを入力したら副脳がオーバーフローしちゃいます!」


 既に星系に入り込んでいた駆逐艦や軽巡、また後続のその他支援艦をあわせると艦隊は全てひっくるめて3万隻弱もの大艦隊であり、トクシン和尚は「航路障害で引っかかった分だけ、戦力の集結が進んだということだニャ」と独りごちながら福々し笑みを浮かべるのです。


「フネのコードだけじゃなくて、部隊のコードもたくさんあるなぁ」


 フネのコードを拾っていたデュークは、様々な部隊から飛んでくる識別符号にも触れています。それは大変な数ですが、部隊の最小単位を10隻とすれば3000近いものになるから当然と言えるでしょう。そして彼はその中の一つから特殊ながらも、どことなく親しみの湧くような匂いがする電波を感じます。


「あ、このコードは同族だ。それも固まっているなぁ。えっと……あそこの部隊――――あの巡洋戦隊は龍骨の民ばかりだ!」


「ほぉ? 巡洋戦艦以下駆逐艦タイプが500隻か。生きている宇宙船ばかりを集めた龍骨戦隊じゃな」


 龍骨三倍則――通常艦と比較すると単艦能力が三倍という龍骨の民だけを集めた強力無比な戦闘部隊が、鬼のような出力を誇る推進器官をズゴゴゴゴゴゴと吹かしながら進んできます。


「へぇ、龍骨戦隊っていうのがあるんですね」


「ワシの現役時代にも直下に置いて重宝したものじゃ。む、平均艦齢は10歳程度と若いな……なるほど、第三艦隊の切り札かもしらん」


 デュークと比べればそのサイズは比較的小さな生きている宇宙船ですが、その特性を鑑みれば、1500隻以上の戦力――下手をすれば更に上の打撃力を持つという恐るべき部隊なのです。


「わぁ、切り札って格好いいですね!」


「それは良いが………あれはの、全艦が全艦、腹ぺこさんの大飯食らいなので、補給が難しいのじゃよ。艦隊司令部の補給担当泣かせの部隊とも言える部隊だのぉ」


「あ…………僕らってたくさんご飯食べますからね」


 行きている宇宙船の10歳といえばすでに成長は止まっているものですが、まだまだ若さが余りに余っているため、いつもお腹をすかせ「ご飯はまだですか~~? ハラヘリヘリハラ!」とか「小惑星ラーメン、ヤサイマシマシカラメマシアブラスクナメニンニクマシマシ――!」やら「お弁当お弁当うれしいなぁ~~! ひぃあぁ~~岩石の唐揚げウマー!」などといつも何かを食べていたり、腹ぺこさんだったりするのです。


「実のところ先の大戦時――彼らの補給を担当をしたことがあるのじゃが。大変な思いをしたものじゃ……」


 トクシン和尚は「正直こいつら底なしだと思ったものよ。はぁ……」と盛大なため息を漏らしました。


「何ていうか……すいません……」


「いや、将兵に飯を食わせるのも軍の大事な仕事の一つじゃ」


 和尚は「ま、補給線が分断されても、飯を食わせる必要があったもんで、えらい往生したわい」と言ってから、このような事を語ります。


「物資がなくなって、千隻ばかりの龍骨の民が、お腹すいたお腹すいたと泣いておるもんだから、手近な小惑星を拾って来てレーションを作ったのじゃ。あんな構成物質なぞ、初めて見る組成じゃったが、栄養豊富でなぁ」


「へぇ、どんなものだったのですか?」


「ん? 食わせてみたら、滅茶苦茶不評じゃったよ……」


 トクシン和尚は「MREレーションという名前が良くなかったのかもしれんのぉ」と言って、遠い目をしました。


「MRE……? ふぇっ?! も、もしかして、MREレーションザ・激マズ・マテリアルを開発したのって和尚様なんですか――――――っ! あれって最悪なんですよ――――っ!」


 何でも食べる龍骨の民が忌み嫌うMREレーションとは「食べるものがなければ食べるほかないか……し、仕方が――――ウゲッ、不味い――――っ!」と涙を流しながら食べるようなひどい味のマテリアルです。


「え、栄養は抜群に良いのじゃ! アレのお陰で、千隻もの龍骨の民が飢えずにすんだのだから……」


 実のところ、先の大戦における被害を最小限に食い止めることができたのはマザーにいた老骨船の犠牲と言われていますが、トクシン和尚が開発に成功したMREレーションの大量配備もかなりの効果があったとされていました。


「だが、あまりにも不評なもので戦後すぐ倉庫の奥に凍結したのじゃ。いやぁ、栄養はたっぷりじゃったのになぁ、ほろ苦い思い出じゃ」


「あれは、ほろ苦いってレベルじゃないですよ! それに凍結って、僕、前に食べさせられたことがあるんですけれどっ?!」


「ああ、それは訓練じゃな。いざという時あれを食べることができるように年に一回、必ず出すようにワシが計画したのじゃ。ほっほっほ」


「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」


 デュークが「うわぁん、酷い――――!」と泣き叫び、トクシン和尚が「フネとして、いざという時に備えるのじゃ、我慢じゃ我慢」と諭すのです。


 実のところ、先の大戦時にMREレーションを配給された当時の現役船たちは、それを粛々と、黙々と、覚悟をキメて、歯を食いしばりながら、宇宙の全てを呪いつつ、涙目になってMREを食して敵を撃退したのですから、デュークも我慢するべきでしょう。


「ぐっ、和尚様――――MREの原料となる小惑星はどこにあるんですか、全て灰にしてやります! いや、重力子弾頭で存在を抹消してやります!」


「教えられんのぉ、軍事機密じゃし」


 どうやら和尚は確信犯のようでした。これも連合の力をいざという時に備えるための方策なのですから、仕方が無いといえば仕方がありません。デュークは「う――――――――――!」と声にならない声を上げました。


「ほっほっほ、あれ以外は軍の飯はうまいのじゃから、我慢せい」


「う――――――――――!」


 このようにしてトクシン和尚がとんでもない歴史を語り、デュークが唸り声を上げていると――


「う……あ、本隊からの通信が来ています。分艦隊全艦宛です」


「ウサギの艦隊司令――ラビッツ執政官からだの」


 第三艦隊本隊からの通信が入ったのです。

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