第281話 召喚命令

「これぞ共生宇宙軍正規艦隊じゃ! ほっほっほ、まさに威風堂々たる姿よ」


 第三艦隊――共生知性体連合の正規艦隊――大艦隊から通信が入ったのです。トクシン和尚はバンバン! と指揮所の手すりを叩いて喜びの声を上げました。


「これが共生宇宙軍の正規艦隊か!」


 和尚は「君が――ワシが――宇宙軍スターミィなのだっ!」と訳のわからんセリフを吐く中、デュークは「宇宙軍……っ!」と、感激した面持ちになりながら龍骨をプルプルさせて、クレーンを大きく振り上げます。


「なんていうか、恐ろしいほどの力を感じます……」


「武装、練度、数――戦いはこのバランスで決まるのじゃよ」


 とても大きな戦艦であり恐るべき力を持つデュークですが、数万隻の大艦隊の威容というものは胸が踊るような気持ちにさせてくれました。


 トクシン和尚とカークライト提督も、感極まった感触を得ているようです。大艦隊――それは共生知性体連合の力の源泉であり、恒星間勢力戦争において確固たるプレゼンスを示す意思の現れなのです。


「そういえば、和尚様ってこれと同じような正規艦隊――第一艦隊にいたのですよね。やっぱり、同じくらいの規模なんですか?」


「ふぅむ、第一艦隊は連合最大の艦隊――この三倍程度の戦力を持っておる」


「ふぇっ、三倍っ!?」


「第一艦隊は、ニンゲンやその他の攻撃的な勢力と接した方面を担当しておるからのぉ。それくらいおらんと、防衛しきれんのだニャ」


 そう言ったトクシン和尚は「とはいえ――」と、こう続けます。


「これだけの艦隊があれば、メカロニアどもを抑えきれる……とりえずはニャ」


「とりあえず、ですか?」


「うむ、この星系を守り続けるために艦隊を維持し続けることはできないのじゃ。そうさな……衛星規模の戦略要塞を一つ二つばかり移動させてくるのが良いじゃろ」


「ふぇっ、そんなものがあるのですね」


 トクシン和尚は「近頃第二艦隊の戦線が整理されたから、手頃な移動可能な戦略要塞が余っとるじゃろ」と、事無げに言いました。さすがは元共生宇宙軍中将ということか、戦の神の僧侶であるからか、和尚は戦略的なリソースの現状について深い知識を持っているようです。


「ま、それはそれとして――――艦隊本部からなにか通信は入っておるかいな?」


「はい、艦隊本部から数分前に暗号通信が入っています。でも、ものすごい暗号化だから…………」


 デュークは艦隊本部から受けた量子的な暗号を副脳に入れて量子圧縮されたコードを解凍していたのですが、あまりにも複雑な暗号化のために解読が全くできていませんでした。


「いつもなら30秒もあれば解読できるのに……通信解読できました。えっと、これは……」


 解凍されたメッセージを受け取ったデュークは、その文章の最初にあるヘッダーを眺めて一つ龍骨を捻ります。


「これは首都星系にいた時に見たことがあるな。えっと……なんだっけ、レディ・タンヤンの招待状をもらったときと同じだから……あ、これって執政官の符号です」


「ほぉ、第三艦隊の指揮官から直々かいな? どれどれ……ふむ、カークライト分艦隊の主要メンバーへの召喚命令か。即時に艦隊本部――執政官が座乗している種族旗艦ジャバウォックへ出頭せよ――とな」


「艦隊本部の呼び出し?」


 デュークはのほほんとした口調で「これまで頑張ってきたことについてお褒めの言葉でも貰えるのかなぁ?」などと思うのですが――


「違うな。これは査問のためじゃろな」


 トクシン和尚は「カークライト提督の独断専行――ゴルモア星系の無断放棄の関係者を調べ問いただすつもりじゃ」というのです。


「ふぇ?! 独断専行って……大変なことになるもしれないって、カークライト提督が言っていた件ですか。でも、まだ敵だっているこんな時にわざわざ……」


 デュークは艦隊本部は何を考えているのだろうと訝るのですが、トクシン和尚は「ほっほっほ」といつもの通りの福々しい笑みを見せるだけだったのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る