第282話 査問前
召喚命令が発せられてから数時間後、カークライト提督以下分艦隊の枢要なメンバーが第三艦隊旗艦、超大型戦艦ジャバウォックに設えられた広い講堂のような所に集合しています。
「クワワッ、分艦隊のメンツが勢ぞろいか」
「あれれ、スイキー。君も呼ばれたのかい?」
クワクワ鳴いているペンギンの同期生の姿に、デューク訝しがっています。ペンギンの皇太子はあくまで星系軍の総大将であって、分艦隊の一員ではないはずなのです。
「うんにゃ、俺はオブザーバーとして参加するんだ。ペンギン帝国の星系軍指揮官、それから星系利益代表としてだな」
「ふぅん……そうなのかぁ」
本来的には彼がここにいる必要性はないのですが、なにやら思惑があって参加しているらしいスイキーはしれっとした口調で「ペンギン帝国皇帝代理でもある」などとのたまいます。デュークは「そういうものなんだな」と、よくわからないけれどよく分かった風に頷きました。
「しかしなんだな、分艦隊にはいろんな種族がいるな」
「何言ってるのさ。それが共生宇宙軍だもの。君もその一員なんだよ?」
このところペンギン達ばかりに取り囲まれていたスイキーは「危ねえ危ねえ、俺様も共生宇宙軍人だってことを忘れちゃいけねぇな」とフリッパーをパタパタさせてから、こう言います。
「査問だって言うのに、カークライト提督は落ち着いているな。ニンゲン族らしい勇猛な指揮官だが、胆力も凄いのだろうな」
「そうだね、どんな時も動じない人だよ。ニンゲン辞めちゃったみたいだけど」
思念波の力を使いすぎて霊的な存在になってしまったカークライト提督が厳粛な面持ちで静かに佇んでいます。
「美女二人を侍らせたゴーストってな、随分シュールな絵面だぜ。しかしやっぱりルルマニアンはすげぇ美形だな。あれが噂の美形指揮官――ゼータクト准将だな」
カークライト提督の近くでは、美しい二人の高級軍人が何事もないというような様子で控えていました。
「へぇ、知ってるの?」
「そら有名だぜ。美貌だけじゃなく、その能力もな。だが――」
スイキーは小さな声で「……ありゃ、随分若作りしてるぜ。結構年いってそうだ」とゼータクト准将に聞かれたら絞め殺されて毛を毟られるような事を言いました。なお、フォーマルハウト大佐の方は年齢相応の自覚があるので問題ありません。
「提督の横で手をスリスリしているタヌキは、提督の副官殿だったな」
「ラスカー大佐はタヌキじゃないよ、アライグマだよ」
愛くるしい風貌を持つ参謀ラスカー大佐がせわしなく両手をスリスリする様子を眺めたスイキーは「タヌキとアライグマは見分けがつかんが、あの大砲屋、一度士官学校に臨時の教官として来てたな」と呟きました。
「おい、あの白饅頭族は?」
「水雷戦隊指揮官のマルオ准将とオイナラヤ大佐だね」
「マルオ准将といえばアホみたいに優秀な水雷屋だと聞く。まぁ、変態紳士としての方が名高いが」
白くて丸い饅頭と、白くて長い饅頭が「査問だおっ、査問だぉっ!?」とか「じょ、常識的に考えて、だ、大丈夫だろ。た、多分」とかビビリまくっています。水雷屋としては肝のすわった男たちですが、平素は心がブレッブレッな男達でした。
「んで、あの蒼い顔をしたのは誰だ?」
「総統閣下――もといテイトー准将だね」
准将の階級章をつけた青白い肌をした男がワイングラスを片手に「フフフ」と言う感じで薄ら笑いを浮かべている姿にスイキーは「准将閣下はなんでワインを飲んでいるんだ。それにあの不敵な笑み……すごく怖いぞ」と少し引いてしまいます。
「あのひとは……異世界転生人格障害――総統病という病気に罹っている可愛そうな人なんだ。でもまぁ、優秀な指揮官なんだけれどね」
デュークが「総統閣下と呼ばないと滅茶苦茶ご立腹になるから注意して」とこっそり伝えると、スイキーは「あ、あれが総統閣下か! 宇宙に一例しか発症者のいない珍妙な病気の総統閣下か!」と珍獣を見るような目でテイトー准将を眺めます。
すると准将はワイングラスを掲げながら「ごきげんよう、ペンギン帝国の皇太子よ」というよくわからんセリフを口にしながら不敵な笑みを見せるものですから、ペンギンの皇太子は仕方なく「どういたしまして、テイトー総統……」と答えました。
「……ふぅむ、なるほど、分艦隊の枢要なメンバーはかなり名の知れた軍人――それも個性派ばかりのようだな……ん? あのどす黒いフネのミニチュアは特務武装憲兵隊のマークをつけているぞ」
「フリゲートのデッカーさんとその配下の人だね」
地獄の番犬のシンボルマークを付けたフリゲートなデッカーが「けっ、なんでまた俺たちまで査問なんぞ受けるんだ」と少しばかり苛立ちを見せています。その後ろにはノラ少佐が控え「変なこと言わないでくださいボス」とお小言を言っています。
「超空間やゴルモアでは随分と助けられたんだよ。スコップで宇宙超獣を殴り飛ばしたり巨大ロボと戦ったり、デッカー大佐なんて超巨大な怪獣の腹の中に潜り込んで爆破したりと、凄く強いんだ」
「ううむ、さすがはケルベロス……んで、あっちの葉巻吹かしてる連中はなに者だ?」
途中から分艦隊指揮下に入った恐竜族のペパード大佐が、ゴルモアを脱出したテイ大佐と仲良く葉巻を吹かしています。
「恐竜族のペパード大佐はゴルモアの防衛指揮官で、もう一人はゴルモア人の指揮官テイ大佐だね」
「なるほど今回の戦の関係者が揃い踏みということだな。オブザーバーとして俺の他にネコの和尚さんもいる。あの坊さんはたしか共生宇宙軍の元中将で軍大学の教官だったと聞くからな。へっ、こいつはいわばザ・高級軍人ズってところだな」
「そうだね、偉い人ばかりだなぁ」
スイキーはペンギン帝国星系軍の階級で言えば相当な位を持っているのですが、「おらぁ一介の士官候補生――将軍様に佐官様ばかりじゃ、肩身がせめぇぜ」と話すとおり共生宇宙軍では一介の士官候補生に過ぎないのです。「僕なんて曹長でしかないんだけれどね」などと話すデュークに至っては下士官でした。
「あん? おいおい、フネの嬢ちゃんたちもいるじゃねーか」
部屋の片隅では、ナワリンとペトラが設えてあるお菓子のセットを美味しそうにモグモグしています。
「えっと、一応カークライト提督の従卒扱いになって勉強しているのだけれど……あんまり自覚がないみたいなんだ」
従卒の自覚が全くな二隻は「あ、空になったわ。おかわり!」とか「追加~~追加
頂戴~~!」などとのたまっていました。
「ははっ、嬢ちゃんらはあんまり変わってねぇな」
生きている宇宙船の実にフリーダムな様子を眺めたスイキーが「クワカカッ!」と笑ったときでした。扉がガコンと開いて、白銀の装甲を持つ機械生命体12名ほどが列をなして部屋に入ってきたのです。
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