第289話 気迫
「ふぇぇぇ――――?!」
「ぎゃっぁぁぁぁぁっ化け物――――!?」
「喰われる~~~~! 逃げろぉ、逃げるんだよぉ~~~~!!」
普通では考えられない程の大きさの活動体から、とんでもない大声をかけられたデューク達は、泡を食ったり、「化け物――――っ!」と叫んだり、脱兎のごとく逃げ出そうとします。
龍骨の民の活動体は、彼らのカラダの中に生えてくる一種の生体ドローンですが、その大きさは平均1メートル前後であり、10メートルもあるようなそれはありえない大きさなのです。
「おいこら、待てぃ」
逃走を開始したペトラの
「し、司令官殿…………でも、このサイズで活動体…………?」
「嘘よっ! あんな大きさのミニチュアなんて見たことがないわっ!」
「これはなにか別物だよぉ~~! 大佐、離して~~!」
デュークは半信半疑の表情を浮かべ、ナワリンは「嘘だわっ! あれは絶対ラスボスかなにかよ!」と喚き、首根っこを掴まれたペトラに至っては「生への逃走をじゃましないでぇ~~!?」と絶叫します。
「がっはっは!」
ノルチラス司令官は混乱するデューク達の様子を眺めながら、さもあらんという程に笑い始めました。すると――
「ふぇっ? さっきは10メートル位あるように見えたのに……」
「ホントだわっ?!」
「しぼんだぁ~~!?」
デューク達の目に映る司令官の姿は普通のサイズとなり、紡錘形のシルエットの少しばかりシワが寄った龍骨の民の形を取るのです。
「ふぇぇ、こ、これは一体?!」
「ぐははは、お前らは閣下のプレッシャーに気圧されたのだぁ。歴戦の勇将が持つ意思の力――そう、大気迫というやつになぁ!」
傍らにいたシーエダ大佐が説明すると、デュークは「えっと、サイキックパワーみたいなものですか?」と艦首を傾げるのですが、大佐は「違うぞぉ、只の気合だぁ!」答えました。
「にじみ出る気合が、其の者のカラダを大きく見せる――心が弱いやつが浴びれば、気絶するほどなのだぁ!」
少将は歴戦の勇者なのです。その気迫は3色に分かれていたり攻撃や探知に使えるものではありませんが、見るものをして威圧を行えるほどのものだったのです。
「気迫……そうか、僕らはそれに当てられて――」
デュークが気迫を放った少将――同族のノルチラスを見つめると、さっきはトンデモなく大きく見えた彼は、
「久方ぶりに同族、それも若い衆を見かけて、つい、な」
ノルチラス少将が言うにはこの要塞には龍骨の民が他にはいないというのです。彼は「ここは亜空間に潜る能力のある潜宙艦しかおらんからな」とも説明しました。
「へぇ、じゃぁ少将も潜宙艦なのね」
「そんな能力を持った龍骨の民がいるんだぁ~~!」
亜空間航法は未だ改良の余地のあるものであり、なぜ龍骨の民にそのような能力が発現するかは未確認ですが、ノルチラスはまごうことなき亜空間潜宙艦です
「ふぇ、そんな珍しい能力を持っているなんて……あ、もしかしたら」
「気づいたか、デューク。そう、ワシのネストはテストベッツだよ!」
そう言ったノルチラス少将は左のクレーンを掲げ「アイ・アム・ユア・アンクルゥゥゥゥゥゥゥゥ!」と改めてデュークだけに強い気迫を放ちました。デュークは「ノォォォォォォォ?! いや、そうなのかぁ――――とにかく、その気迫、やめてくださいっ!?」と叫ぶことになるのです。
「がはは、少将が少々はっちゃけておられるぞぉ!」
「傍から見ていると普通のおっさんなんだけどね~~」
「なんとなく、いいフネなのは、わかるわ」
久方ぶりの同族でそれも
「さて、お前さんたちは首都星系を目指しておるのだったね?」
「は、はい。そうなんです」
少将から伝わるビシビシとした気迫をなんとか受け流したデュークは、改めて「カクカク、シカジカ、マルマル、ウマウマ」と現状を説明しました。
「はっはっは! なるほどなるほど、ここは超空間航路もないスターラインもできないどん詰まり星系だからの」
少将は「難儀するの仕方があるまいて」と頷きました。
「よし、それでは裏道を使うといい」
「裏道?」
そこでノルチラス少将は「大佐、あれの準備を」と、シーエダ大佐になにかを命じました。すると大佐は「閣下、あれは近衛艦隊の軍機ですが?」と首を傾げます。
「執政官閣下の命令ということは、使わざるをえんだろう」
「はっ……了解であります」
敬礼した大佐は「少しまっておれぃ」とドスの効いた声でしばし待つように伝えると、司令官室から出ていきました。
「裏道、近衛艦隊の軍事機密ですか?」
「まぁ、実物を見ればわかるさ。それよりも待っている間、少しお茶でもせんかね? 秘蔵の貴金属でできたお菓子などもあるぞ」
するとペトラは「おやつ~~!」と嬉しげな声を上げ、ナワリンは「間違いない、このフネ、良いフネだわ」とやはり嬉しがり、デュークは「いただきます」と答えました。
「そこに座ってちょっとまっておれ」
司令官室に設えられた黒色のテーブルに座るように言ったノルチラスはスルスルと艦首を上げ、部屋にセットされたお茶のセットを取り出しながら、「たしかここに入れておいたのだが……お、これだ」と棚からお菓子を取り出しました。そして彼はそのまま手ずからお茶の準備を始めようとします。
「あ、ノルチラス閣下。そういうことは僕たちがやりますよ!」
従兵として訓練を受けているデュークはすぐさま腰を上げて、少将の手からお茶とお菓子のセットを取ろうとするのですが――少将は「よい、よい。今のワシは司令官というよりも、同族のおじさんだからな」といってお菓子の箱をテーブルに置くと、パカリと箱を開けました。すると美味しそうなキラキラした金属製のケーキが現れます。
「おおお~~~! すっごい美味しそうなケーキだよぉ~~!」
「こ、こんなの見たことないわ! なんてレベルの高いお菓子なのっ……じゅるり……あらいけない」
ペトラとナワリンは「「見ているだけで、ヨダレが零れそうだわ」」と咆哮をあげました。お菓子の匂いをかいだデュークは「
それもそのはず、そのお菓子は金と白金と銀の混ぜものをベースとして、練り込んだスーペシウムとマーグネリウムを足し、超重元素であるD元素吸を隠し味に、トミノフスキー・クリスタルでデコレーションされているという、龍骨の民にとっては垂涎のマテリアルで作られているのです。
「ふぇぇぇ、なんだか相当な値段がしそうなお菓子だ……」
ベースとなるマテリアルはそれなりのお値段ですが、光の国でした産出されないものや、希少な超重物質、トンデモ粒子を結晶化させてた物質は、とんでもないお値段がするものです。
「いやはや、こいつを食べることができる種族は限られておる。同族が来た時にこそ出さんとな、がっはっは!」
そう言った少将は液体水素――それも軍用に特殊精製された超一級品のそれをティーカップに注ぎます。そして、仕上げにサイコロ状の角砂糖のようなものを取り出してカップの脇に置くのですが、数秒ほどものするそれはフッと姿を消しました。
「ふぇ? 角砂糖が消えましたよ?」
「いま置いたのは吸時空性オチモチリンだからだの」
オチモチリンとは時間と空間を吸う性質を持つ物質であり、カップに入れる前に溶けるというものですが、これも相当に効果な代物です。
「さぁ、おあがりなさい」
ノルチラスが笑みを浮かべると、ナワリンは「ゴッツァンですわよぉ~~!」と言い、食べる前からと餌付けされているペトラは「おじさん、いいフネ。おじさん、いいフネ~~!」とお菓子に手を出し、デュークは「それじゃ、いただきます!」と艦首を下げました。
そんな三隻を眺めたノルチラス少将は、少しばかり皺の寄った顔に、ただただ満足そうな表情を浮かべます。彼はなんだか凄い気迫を持つ勇将でもあり、そして龍骨の民らしい良いフネのおじさんなのでした。
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