第290話 小惑星内部へ

 ノルチラスの豪華なお茶会は20分程度で終了し、少将は「そろそろいくとするか――本体に入って私に付いてきないさい」と言いました。そしてデューク達はノルチラス少将に引きつられて要塞深部へ続くトンネルを進むことになります。


「壁面は加工されているわ、これは人工のトンネルね」


「それに縦に長く続いてるぅ~~?」


 トンネルは近衛の潜宙艦隊の根拠地となっている小惑星シンビオシスⅦの中心へ向かって直角に続いています。デュークは「裏道は、小惑星の内部にあるってことですか?」と少将に尋ねるのですが、「ゆけばわかるさ」と微笑みを浮かべました。


「フネが通れるだけのスペースがあるなんて、ずいぶんと大きなトンネルだわぁ」


「でも、ところどころ引っかかるなぁ……」


 トンネルの大きさは平均して1キロ程度と余裕があるのですが、所々にあるハッチ部はやや手狭になっており、体長に比例して腹回りも太いデュークは「ふん!」と龍骨を捻りながらハッチをくぐる必要がありました。


「もう深度200キロを越えたわね」


「ということは、このトンネルは小惑星の中心核に続いているのかな?」


 小惑星要塞シンビオシスⅦは直径が500キロ程ですから、準惑星と言っても良い大きさがあるのですが、トンネルはもう少しもうすぐ中心核にまで到達しようとしていました。


「あら? この先はずいぶんと広がっているわね」


「わぁ、凄く広いところだぁ~~!」


 そして深度230キロ程に達したところで、ようやく目的地に到着します。そこは直径が50キロほどもある広大な球状の空間――最後尾についていたデュークが視覚素子を伸ばしながら「ホントだ、まるで小惑星の核をまるごとくり抜いたみたいだ」と感心するほどの大きさを持っていました。


「おや、人工物の反応があるぞ」


「フネも数隻いるわ」


 空間の中心部には、装甲板のようなもので覆われた差し渡し10キロ程の丸い物体が見え、その周囲を11隻の軍艦が遊弋しています。


「シーエダ大佐、準備はできておるかね?」


「後10分ください、すぐに完了します」


 ノルチラスがピピッと電波を発信すると、一隻の軍艦からシーエダ大佐が返答してきました。少将は「よろしい――、それでは開口部へ向かおう」と言い、球体の一部に露出している小高い丘のようなところに向かいます。


「ここが裏道だ」


 少将が指し示したところには直径500メートル程の円形のリングが設置され、中央は相当な厚みを持つ装甲板が複数枚重なっています。


「これは、扉……ですか? あれれ、これって誕生の扉みたいだ」


「ネストの奥にあるやつね。小さなフネがドーン! って、飛び出てくるところ」


「ホントだ、ボクたちが生まれてきたところにそっくりぃ~~!」


 それは


「少将、これは――」


「ワシらはこれを”天躍の門スターゲート”と呼んでおる」


 と告げました。


「扉の周囲にある模様を見るが良い」


 天躍の扉の縁取りにはなにやらデフォルメされた乗り物の模様がいくつも浮きあがっています。


「これは――宇宙船ですね」


「ああ、形状からして恒星間航行を行う船だな」


 模様にはいくつか抜けているところもあるのですが、百近くあるそれらは輪となって丸い扉を彩っていました。


「いろんなのがあるけれど――これってば同族じゃない?」


「ホントだ~~、目と口が付いているよぉ~~!」


 ナワリンは流線型のシルエットに大きな目と口を持つという宇宙船の模様を見つけました。


「龍骨の民――それにたくさんの宇宙船――少将、これは一体なんなのですか?」


「はっきりとしたことはわかっておらん」


 ノルチラス少将が言うには、数百年ほど前、この星系で欺瞞を行う完全黒体を発見した際、小惑星シンビオシスⅦ――当時はそう呼ばれてはいなかったここで、この扉が見つかったということです。


 少将は続けて「完全黒体の周囲を周回していることから、最初はこの小惑星とこの扉も、超古代文明人の遺跡と考えられてはいるが、誰もそれを確認できんのだ」と説明しました。


「そもそも、この扉は我々の科学でも組成すら分析できぬ物質で構成されているからなぁ。科学者は超構造体と呼んでいるようだが……まぁ、ひとつだけはっきりしていることがある。これと同じものが連合首都星系にも存在しているのだ。それも全く同じ形状のものがな」


 ノルチラス少将はそこで、「これが何を意味するか、わかるかな?」と意味深な謎掛けをしてくるのです。


「え、全く同じ形状の門が? ええとつまり……なんだろ? ううむ、ゲートとゲートが・・・・・・」


 少将の言葉に、デュークが艦首を抱えていると――


「ああ、そういうことね」


「もしかして、その門と門って~~!」


 ナワリンとペトラは「なるほどぉ~~」と口をそろえて、なにやらを理解したようです。


 少将は「さすがは女型の軍艦だ、察しがいい……」と微笑み、こう言います。


「そう、この扉は首都星系の門と繋がっているのだ」


「ふぇ……えっと、繋がっている……」


「便利なものがあるものねぇ」


「そうだねぇ~~」


 ナワリンとペトラは「「んじゃ、こいつを使って、首都星系までレッツラゴー!」」と喜びます。デュークは「ふぇぇ……つまり、えっと……え?」とまだ理解が出来ていないようです。


「ノルチラスのおっちゃん、これの使い方は~~?」


「扉っていうからには、ここが開くのよね?」


「うむ、そろそろ空間接続点の調整が終わるはずだが」


 ノルチラス少将がそう言った時「少将、準備が整いました」と、シーエダ大佐から連絡が入ったのです。

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