第288話 機動要塞へ
「なんて大きさなのよ!」
「でっかぁ~~!」
「あれってもしかして――」
デュークは「恒星を覆っている……のかな?」と、黒い球体が恒星を包み込んでいるのではないかと言及します。
「Dリング……そんなコードが湧いてくるんだ。恒星を囲ってそのエネルギーを全部回収する装置みたいだ」
Dリングとは数百年前に当時の宇宙工学の権威ディスクレシャン・ヘイ・ロー博士が提唱した星系の主星を構造物で囲んだ恒星エネルギー回収システムのことです。
「でもあのリングは輪っかでしょ? あれは完全に覆う形だわ」
「さしずめ、Dスフィアってところだねぇ~~」
共生知性体連合で実用化されているDリングですら10年単位の建造時間がかかります。恒星全部を覆うような構造物を建造するというのはその工期を考えると現実的ではありません。
デューク達が完全黒体について話していると――
「そのとおりだぁぁぁ」
凶暴なサメの風貌をしたシーエダ大佐が「あれは”くぁんぜんこぉくたいでできたDスフィアなのだぁ」と突然通信を入れてきました。
「たっ、大佐……」
「突然現れないで! 怖いわ!」
「超怖い~~!」
突然現れた大佐の顔に、ナワリン達は「ひぇ」とか「ひょぇ~~!?」と怖がります。大佐は「ああ、そう……」と少しばかり悲しげな表情を浮かべるのですが、極悪な風貌ですから、なにか悪巧みでもしているようにしか見えません。
「大佐、あの球体は共生宇宙軍のものですか?」
「いや、宇宙軍でも連合のものでもないぞ。あれは、ただあそこにあるのだぁ」
大佐は続けて、「いつから存在しているもわからん。ま、あれは上代の文明が作り出したオーバーテクノロジー的な何かなんだろうぅ」と続けました。
「あ、やっぱり、あの完全黒体は遺跡なんですね」
「ほぉ、知っているのかぁ?」
デュークは以前遭遇した古代人の遺跡ないしは遺物について説明しました。
「先進古代文明の遺産、解析不能な遺跡――でも、あれは大きすぎやしませんか? それに恒星のエネルギーを丸まる吸収しているのですから、とんでもない熱量が溜まっていそうですね」
「うむ、多分だがそのエネルギーは隠蔽のために使っているのだろう。天体サイズの隠蔽装置――四つの中性子星はカモフラージュというか、一種の光学迷彩なのだぁ」
Dスフィアは、遠くから眺めたらとんでもない軌道を描く四重連星にしか見えないのです。大佐は「だが、専門家に言わせれば、それだけだとエネルギー収支はまだプラスということだぁ」と説明しました。
「なにかの発電装置みたいなものなんですかね?」
「俺は専門家じゃないからな。上代の古代文明がなんの目的で作られたかなんぞ、知らんがな」
シーエダ大佐は「それより、そろそろ目的地だ。この方角に視覚素子を伸ばしてみろぉ」と命令しまし。大佐に言われたデュークが視覚素子を伸ばすと――
「ん……あれは、小惑星サイズの天体だな。ずいぶんとボヤケて見えるけれど。あれは一体何ですか?」
ぼやっとした小惑星の影が映り込むのです。
「あれこそが、我が潜宙艦隊の根拠地、機動要塞シンビオシスⅦだぁ。この距離まで近づかんと見ることもできん」
大佐は「どうだぁ、恐れ入ったかぁ」という感じでゲハハハと笑いました。
「小惑星改造の要塞小惑星なのね。なるほど共生宇宙軍の施設か」
「かなり隠蔽度が高いねぇ~~航行シグナルがなかったあら見えないくらい。でも、シンビオシスって首都星系の名前だよねぇ~~? なんでこんなところにそういうものがあるのかなぁ~~?」
「それはあれだ、首都星系ってところはそれでなくても大混雑しているだろう? あんなところに機動要塞を置いておいたら邪魔なんだな」
大佐が言うには「首都防衛の要、近衛の根拠地でもあるんだが、商業活動に影響がでるからな」ということでした。
「へぇ……でも、50光年も離れたところに置いておいて、首都防衛ってできるんですか? それにこの星系はスターラインすらできないどん詰りなのに」
「そらあれよ、機動要塞といったろ?」
シーエダは小惑星の端のところにある円筒状の施設を指し示し「あの機動ユニットでいどうするのだぁ」 と説明しました。
「なんだか見慣れないユニットですね。でも大佐、あれを動かすにしてもやはり通常航行だと時間がかかりすぎますよ」
50光年という距離は、光の速さで50年もかかる距離でした。Qプラズマ推進を行い、量子力学的な作用をフル活用しても半年、または年単位で時間が必要なほどなのです。
「あれは緊急時には超光速推進を行うことができるユニットだからな」
「超光速推進ユニットですか、形式はなんだろう?」
デュークが訝しがるのですが、シーエダ大佐は「亜空間を利用した特殊なものとだけ言っておこう。それ以上は軍機だ」と言いました。
「へぇ……」
視覚素子を伸ばして小惑星を改めて眺めてデュークは「そういうものなんだなぁ」と妙な方向で感心してしまいます。
「よし、着陸許可がでたぞぉ……全艦シンビオシスⅦからの牽引ビームに備えよ」
「ふぇっ、カラダが引っ張られるぅ」
小惑星から強力な重力ビームが発信され、デューク達のカラダはグワシッ! とばかりに鷲掴みにされました。それは艦載母艦の重力ネットに似たものですが、数十倍以上のゲインを持っているのです。
「グハハハ、要塞用の大型の縮退炉のパワーだからなぁ。超大型戦艦だとて、身動きは取れまいて」
シーエダ大佐が「大人しくしろぉ、ゲハハハハ」と大笑するのを見たデュークは「……海賊に拿捕されたような気分になるなぁ」とボヤき、ナワリン達は「なんか気分悪いわぁ」とか「MPにしょっ引かれるよりも質が悪いよぉ~~」と得も言われぬ理不尽さを感じてプンスカします。
そうこうしている内に、潜宙艦隊とデューク達は機動要塞シンビオシスⅦの開口部へと導かれて大型の格納庫に入りました。
「若造ども、要塞司令官殿に挨拶だ。ミニチュアに入って10分後に出頭しろ」
サメの大佐は要塞内部へ続く通路のマップを示してから通信を切ります。命令とあればデューク達は否応もありませんから、活動体に入ってスルスルと要塞内部を進みました。
「中は結構こざっぱりとしているわね」
「近衛は連合の精鋭部隊だからかな。練度もそうだけれど、細かいところもしっかりしているんだなぁ」
「でもさぁ~~、すれ違う人たちってば、人相の悪い人達ばかりだよぉ~~」
要塞内部を進むデューク達の脇を幾人かの軍人がすれ違うのですが、ペトラが言う通り、穏当とは言えない面構えの異種族ばかりなのです。
「たしかに強面……だよね」
「ずいぶんとオブラートに包んだ表現ねぇ、私には悪人面にしか見えないわ」
ナワリンの見るところ、軍人たちはいかついを通り越して、凶暴な見た目を持ったものが多く存在していました。
「あ、モヒモヒ族がいる~~!」
モヒモヒ族とは頭髪が縦に伸びるという特徴を持つ種族です。彼は陸戦隊員のようで肩パッドを、ペトラは「ヒャッハー!」と挨拶をします。それに対してモヒモヒ族は、極悪な顔を歪ませながら「ヒャッハー!」と挨拶を返してきました。
「なによ、そのヒャッハー! って……」
「モヒモヒ族の挨拶だよぉ~~! 意味は確か、いつも心に世紀末! とかなんとかかなぁ~~?」
「聞いたことがあるよ、それ。全住民が――ん、あれは……」
なにかを言いかけたところで、デュークは通路の先に検問所があることに気づきます。それはその先が要塞の最重要区画であることを示しています。
「おおぅ、ものすっごいムキムキの陸戦隊員が警備してるわね。そんでもって、やっぱ顔が怖いわ」
「もしかして、この要塞ってああいう人ばかりなのかも……」
龍骨の民はフネですが平均的な美的感覚を持っています。どー見ても凶悪な面構えを見れば、ちょいとばかり腰が退けるのでした。
「身だしなみは整っているけれどねぇ~~」
悪人面ばかりではありますが、要塞内の軍人は身なりは整っています。そうでなかれば、デューク達はここが海賊の本拠地だと言われても疑わなかったでしょう。
「で、ここが司令官室ねぇ……」
「なんだか嫌な予感がするぅ~~!」
「僕も同じ気持ちだよ……」
デュークが達が司令官室の扉を眺めていると、シーエダ大佐が顔を覗かせ「来たか、早うこっちゃ入れ」と手招きしてきます。そして、それでもデューク達が尻込み
するものですから、大佐は「司令官殿はお前達と同じ龍骨の民だから、安心しろぃ」と告げました。
「ふぇ、司令官って同族なのか」
「なら大丈夫だよぉ~~!」
「そうね、生きている宇宙船なら、穏やかなはずだわ」
龍骨の民は生来温和で人当たりの良い性格をしているものです。少しばかりホッとしたデューク達は、司令官室のゲートをくぐると――――
「よぐぎだぁぁぁぁぁぁっ――――!」
凄まじい重力波のダミ声が、宙に浮かぶ”体長10数メートル”の生きている宇宙船のミニチュアから放たれたのです。
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