第286話 何故か首都星系の防衛艦隊が

「中性子星のノイズのせいなのかな? 情報が曖昧になっているけれど、それなりの電波強度があるね」


「ということは、近くにいるってことね」


「うん、かなり近い気がする~~!」


 デュークは四重連星の方角から届いたノイズ混じりの通信波を再観測します。するとと、データの欠損は激しいものの電波強度自体はかなり強いもので、発信源が近くにいることがわかりました。


「でも、姿が見えないなぁ」


「そうね、アクティブレーダーには全く反応がないわ。一体、どこから発信しているのかしら?」


 彼らは強力な電磁パルスやレーザーを発することで能動的な電磁走査を行い通常空間を探査しましたが、それらのセンサには全く反応はありません。


「ステルスしているフネがいるんじゃない? どこに居るんだぁ~~~~! 姿を見せろ~~!」


 ペトラはステルス艦でも探すかのように量子レーダーを起動させましたが彼女の観測用副脳は「誰もいませんよ?」と全く掴みどころのない反応を示します。そして――


「あら、発信源が増えてるわ。右舷前方、それに左舷にも」


「にゃっ!? 側方からも電波が届いてるよぉ~~!」


 発信源不明の通信波は数を増し、距離は不明ながらも、方角からして三隻を囲むようにその存在を示してきました。


「これって包囲されているみたいな感じだな……ううう、なんだか龍骨に冷や汗が……」


 正体不明の電波源に囲まれるというのは、あまり気持ちの良いものではありません。戦場帰りで戦闘モードが抜けきっていないデュークなどは咄嗟に「ら、乱数加速の準備をしておこうよ……」と、推進器官にエネルギーをぶち込んで大加速で軌道を変化させる準備を始めます。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。ここは戦場じゃないのよ!」


「ねぇねぇ、それよりも通信波の精度が上がってるよぉ~~! これってば、なにかの指示だぁ~~!」


「ふぇ、正規の指揮コマンドじゃないか。それに星系内航行管制官のコードもついているぞ」


 彼らに届く通信波は強度を増し、彼らに「進路そのまま」というほどのシンプルなコマンドを伝えてきます。それは紛れもなく共生知性体連合の正規のコードのように見えました。


「つまり明確な、命令ね」


「命令だぁ~~!」


「命令だねぇ」


 命令と言われたら「あっ、はい」とか「仕方ないわね」やら「あいあいさ~~!」と従ったり嬉しがったりするが龍骨の民のサガというものです。彼らは大人しく指示にしたがって「ようそろ~~」などと進路を固定しました。


 そうこうしていると、彼らの周囲でズズズ……と空間そのものを震動させる重力震が発生します。


「あら、重力震だわ」


「あそこの空間――空間曲率が増大してるぞ。超空間からのジャンプアウト? いや、この星系にはそんなものないはずだけど」


「でも、たしかにジャンプアウトに似た感じがするぅ~~!」


 そしてデュークらを囲むようにして発生した重力震動の一つが、空間をグンッ! と内側に撓みこませてから、今度はズンッ! と盛り上がり始めます。


「ひぇっ、空間がねじ曲がっているわ!?」


「な、何かが空間を突き破ろうとしているんだ!」


 視覚的にすら空間を捻じ曲げていることがわかるそれは、一点を突き破るが如くに伸び上がり、ある瞬間パキーン! とした煌めきを見せました。


「あれはフネの舳先ッ?!」


 続けけドオォォォォォン! という激しい震動とともに青光りする舳先が現出し、そのまま通常空間に対してして60度という急角度でズゴゴゴゴと浮かび上がってきます。


「フ、フネが浮上してきたわ!」


「シルエッットは紡錘形――ええと、確かあれは」


「もしかして、次元潜宙艇~~?」


 次元潜宙艇とは、数学的な詐術を用いて通常空間とは違った亜空間と呼ばれる場所を潜航するためのユニットを装備した小型のフネであり、共生知性体連合においてはここ100年ほどで急速に性能を向上させている艦種です。


「でも、あれは潜宙艇なんてものじゃないぞ。400メートル級の――重巡洋艦サイズじゃないか」


 通常空間に浮かび上がってきたフネは、共生宇宙軍における一般的な重巡洋艦のそれと違って、紡錘形のシルエットを持っていました。その艦首から艦尾までを計測すると平均的な重巡洋艦とほぼ同じサイズを持っていることがわかります。


「あ、あっちにも、こっちにも浮かんでくるぅ~~!」


 続けて5隻の潜宙艦が空間を急角度で突き破りドバンッ! と浮かび上がり、最初に浮かび上がったフネとまったく同型のシルエットを晒しました。


「潜宙艦が六隻も出てきたわ!」


「こ、こんな大きな潜宙艦があるなんて、聞いたことないぞ……」


「そうだよねぇ、100m級の小さな潜宙艇でもバッカ高いお値段がするって聞いた事があるもん。あのサイズじゃ、どんだけ建造費が掛かるか想像もつかない~~!」


 この時代において、次元潜宙の技術はそれなりに確立されているものですが、それを行うための潜宙ユニットは莫大なコスト――艦体の大きさの二乗に比例すると言われています。巡洋艦サイズともなれば超巨大戦艦あるいはそれ以上のお値段がする可能性すらありました。


「あんな贅沢な装備を持っているなんて、一体どこの部隊かしら? ええと、識別符号は共生宇宙軍近衛艦隊――これって近衛じゃないの!」


「それって首都星系防衛艦隊じゃん~~!」


「は? 近衛が、なんだってこんなところにいるんだろう?」


 近衛艦隊は執政府直属の精鋭艦隊であり、首都星系近傍とはいえ「こんなどん詰まりの星系でなにをやっているんだ?」とデュークが訝しがっていると、潜宙艦から大容量の通信データが届きました。

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