第365話 根拠地にて
その後デューク達は特段の事件や事故にも合わずに無事辺境パトロール艦隊の小規模根拠地がある星系に入り、司令部のあるステーションに向かいます。
「小規模根拠地っていってたけれど、この星系自体は思ってたよりも立派な所だね。中央の星系と遜色ないくらいに開発されているね」
この星系には大小様々な惑星があるのですが、そのほとんどが居住惑星や資源惑星として開発され、いたるところに軌道ステーションが存在しています。
「ここは辺境植民星系で連合直轄星系なんだぜ」
辺境植民星系とは辺境における共生知生体連合の植民地であり、古代の植民都市のように各地に点在しているものです。
「この辺りの植民星系の中央で、辺境代表部の支局もあるくらいだ」
辺境代表部とは辺境宙域における共生知生体連合の出先機関であり、辺境各地に点在する植民星系と通商路を統括するもので、10の支局が存在しそれぞれの方面の窓口として機能しているのです。
「ここは開設されてから400年くらいだが、元々一帯の恒星間貿易の拠点だからな。それなりの規模があるのは当然だろう」
「なるほどね、だから連合船籍以外のフネもたくさんいるんだ」
デュークが見たところ星系内には少なくとも2000隻以上の民間船が存在し、その7割程度が他国船籍のものでした。
「でも、ここにあるのは小規模根拠地だよね?」
「そら小規模ってのは言葉の綾だぜ。正規艦隊の根拠地と比較しちゃいかんよ」
共生知生体連合は第一から第五までの正規艦隊を有していますが、そぞれ数万隻、場合により10万隻体制という膨大な艦艇を保有していますから、その根拠地ともなれば、複数の星系にまたがるような巨大なものです。
「万を超える艦隊の根拠地は中規模根拠地、ここ辺境第パトロール艦隊第10分遣隊は3000隻規模だからな、小規模ってことなんだ」
「へぇ、分艦隊クラスなんだ」
「まぁ哨戒にでているフネの方が多いから、今は1000位しかもいないようだが」
「艦種は軽巡洋艦とかフリゲートが多いね」
デュークは星系内の共生宇宙軍の識別符号を捉えて「快速艦艇が多いなぁ」と思いました。パトロール艦隊は哨戒を主任務とするのですからそれは当然です。
「だけど、あそこを見てみろや」
スイキーが指示したところには戦闘空母のフリップが表示され、その周囲には重巡洋艦を始めとする300隻ほどの艦艇が遊弋していました。
「ありゃぁ軽空母じゃねぇ、マジモンの正規空母だぜ。護衛も打撃力の高いのが揃っている」
「へぇ、正規艦隊の空母打撃部隊と同じくらいの規模だねぇ。あ、戦艦も10隻くらい配備されてる」
「根拠地の守りの要ってところだな」
辺境というところは大変に危険なところですから、重要な植民星系ともなれば、それくらいの部隊が必要なのです。
「なるほど、だからあれだけのステーションがあるんだ」
「ああ、あれが辺境パトロール艦隊第10分遣隊根拠地だ。ここは連合中央から遠く離れてるからな。すべて自己完結できるだけのものがあるのは当然だな」
デュークが伸ばした視覚素子には、小惑星帯に存在する軍事ステーション群が映っています。それらは大小さまざまな機能を持つ複合ステーションであり、施設の種類を考えると大よその物が揃っているようです。
「小さいけれど要塞まであるんだねぇ」
「ミッドナイト級バトルステーションか、型は古いが戦闘力は折り紙付きだぜ」
漆黒の装甲に身を固めたその戦闘ステーションは全長10キロはあるもので、いささか古びたものでしたが、小要塞といって差支えのないものでした。
「あ、あのステーションから通信が入ってる。宛・実習部隊、発・辺境代表部第10支局長、
「ふむ? 辺境代表部の支局は惑星の軌道上にあるはずなんだが」
辺境代表部の支局というものは星系代表でもあり、大よそ惑星軌道にあることが多いのですが、その通信は小要塞からの物でした。
「それも支局長様からお呼ばれか」
「確か支局長ってかなり偉いんだよね?」
「ああ、辺境代表が執政府の法務官や財務官――執政官一歩手前の高官だから、支局長はその下の按察官クラスだぜ」
共生知生体連合における執政官が大統領や首相クラスだとすると、法務官・財務官は大臣、按察官は長官クラスなのです。
「そんな人から直接連絡が入るなんて……もしかしてまたあれかな、スイキーの知り合いとか?」
「いや、この実習では偽名を使ってるからな」
スイキーは執政官の息子でありペンギン帝国の皇子様ですから、この実習中は忖度を避けるために偽名を使っていました。
「もしかしてお前の方じゃねーか?」
「僕も一応、仮の艦籍で行動しているけれど。本名を名乗ってもオートでそれが適用されるんだもの」
デューク達も仮に死んだことにされているので、仮の艦籍と偽装を使い分けながら行動しているのです。
「ふぅむ、まぁとにかく行ってみよう」
「そうだね」
そうしてデューク達は小要塞に向かうことになったのです。
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