第364話 指揮実習 その4
そして1か月ほどが経ち、デューク達は高純度Qプラズマ推進剤を使った超光速航行を終えて、さらに先の星系に向かう航路に乗っています。
「何事もない穏やかな航海が続くわね」
「ああ、何もない期間だからこそ、デューク達の戦略レベル上げができるんだがな。なぁデューク、戦略と言うものがそれなりに分かってきたろ?」
「そうだね、戦略と言うものがなんとなくわかってきたよ」
クマやトカゲのいた星系から離れた後の航行期間、デュークは戦略指揮訓練シミュレーションゲームに明け暮れており、スイキーとエクセレーネの指導の下、戦略思考というものを身に着けつけることに専念して、それなりの成果を得ていました。
「でも、ナワリンとペトラのレベルには追い付かないんだよなぁ」
「彼女たちは氏族の特徴である脳筋思考や商売人みたいなところを上手く活用しているからだわ」
エクセレーネが言うには「砲艦外交もハッタリも辞さない度胸はみとめるわ」と説明します。軍艦少女二隻はそれぞれの氏族の特徴を上手い事利用して戦略ゲームを乗り切っているようです。
「氏族としての特徴かぁ……」
「あなたのパーソナルデータを見ると、テストベッツらしいものよね。アーナンケ救援の際の小惑星まるごと大脱出作戦の発案者はあなただし」
「次元断裂でのミサイルポイポイ戦術も評判がいいんだぜ。軍大学では、超空間での応用を研究中だと聞くものな」
テストベッツ氏族の特徴は、数が少なく個艦性能の振れ幅がやたらと大きい個性派ぞろいであり、また新奇的な考え方――ある意味思い付きに長ける氏族という傾向があります。
テストベッツ氏族は、少数ながらも個艦性能の振れ幅が大きく、新奇な考え方をする個性派揃いです。
「でも、それを戦略に活用出来てないんだ。僕はテストベッツの特徴を活かせてないのかなぁ?」
実戦においてデュークは突飛なアイデアを考え出しており、それらは全て戦局に影響を与えるような新規的なものでした。でも彼は、戦略シミュレーションにおいてそう言うことをあまりうまく活用できません。
「おいおい、戦略レベルで簡単に新機軸を打ち出せるなんて思うなよ。戦略というものは基本が大事でな、様々な要素をしっかりと身に着けて、その上で応用しないとあまり意味がないんだぜ」
「そうね、新しい戦略を思いつくのは、ありとあらゆる可能性を考慮した上でのことだし。あなたの氏族の特性を戦略に活用するには時間がかかる気がするわ」
「あとな、お前さんはご先祖の記憶が強くでるみてーだから、それに流されているんじゃねーのか? エクセレーネ、そんな傾向があったはずだな?」
「確かに、デュークの龍骨に残るご先祖の記憶が随分とはっきりとしているみたいね。それにより相当なバックアップをうけているみたいだけれど、あれは判断材料として活用するんであって、決断はあなたがしないと」
「指揮官の決断、だよね」
デュークのご先祖様達はデュークを操ったり支配したりはしませんが、強い影響を受けることは間違いありません。そして彼らの判断は千差万別であり、龍骨の民らしく結構いい加減なところもあるのですが、デュークはそれを鵜呑みにしてしまう傾向があるのでした。
「とまぁ、先輩面はこれまでとして、指揮官殿。今後の航路のことだが――」
「あ、そのことなのだけど」
指揮官と呼ばれたデュークが「指揮権って返上しなくていいのかな?」と、ちょっと食い気味に尋ねました。
「ああ、本来2週間くらいは続けてやらせてやるんだよ。恒星調査のタイミングで移譲したがあれは数日、そのあとの航行期間は何もなかったからな」
スイキーは「経験の積めない指揮期間なんぞノーカンだぜ」と言うものですから、デュークは「なるほど、そういうものなんだなぁ」と納得しました。
「話を戻すぜ、指揮官殿。この後の航路はどうする? このあとの目的地は辺境パトロール艦隊の小規模基地だが、そこへ向かうルートは複数ある。最短のルートだと――星系間紛争地を横切る必要があるがな」
「あの推進剤不足の原因になってるところかぁ」
「まだ戦端は開かれていないけれど、睨み合いが続いているようね」
デューク達がわざわざガス惑星に潜る切っ掛けとなった恒星間勢力の紛争は一触即発状態にあったのです。
「双方合わせて二千隻規模の睨み合い――星系をまたいだら、絶対見つかるよね」
「うむ、技術力は低いけれが曲がりなりにも恒星間航行種族だからな。数も数だ、量子レーダーで存在が露見するだろうぜ。そんでもって見つかったらどうなると思う?」
「共生知生体連合が介入したと思われて――恒星間勢力の国際問題になるよね?」
この頃になると、戦略シミュレーションゲームを通してデュークは、恒星間勢力の争いというものや国際紛争と言うものについて理解が進んでいました。だから、星系に入るだけでも共生知生体連合が紛争に巻き込まれるとすぐさまわかるのです。
「介入する意味は全くないし、それだけの戦力を集めれば、僕たち三隻を沈めるには十分だろうなぁ」
そう言ったデュークは「迂回だね、それしかありえない」と断言しました。辺境における恒星間勢力は凡そが弱小なものですが、数が千のオーダーともなれば、いくらデュークが超巨大戦艦であり、優秀な高速戦艦と重巡洋艦――ナワリンとペトラが合力したとしても、太刀打ちできるものではありません。
「他にあるスターラインしやすい航路を選ぶとして、選択肢は二つあるぜ。片方はそれなりに友好的な勢力の星系があって、もう一方は宇宙海賊の勢力圏だ」
「そうなると友好星系を通るルート一択だね。海賊は見つけ次第叩きたい存在だけど、僕たちの任務は辺境パトロール艦隊基地への到達だから」
その判断は至極まっとうなものなので、現在デュークの舵を握っているスイキーは「じゃぁ、舳先をそちらに向けるぜ」といったのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます