第101話 最終訓練 その3
「総員傾注――――ぅ! これより訓練所所長から戦闘演習の内容と訓示をいただく、心して聞くように!」
新兵たちは3日間の準備期間を経て、曲りなりにも組織だった行動が可能な状態に入っています。そんな彼らに対していつも通りフリッパーをパタパタとさている大隊長スイキーが、最終訓練の内容の伝達があること告げました。
「よいしょっと……」
例によってサイキック能力を使ってフワフワと壇上に上がったクエスチョン大佐がマイクを通して、この様に告げます。
「ええ~~仮設第1諸種族連合大隊の諸君。最後の訓練内容は第201訓練所との戦闘演習だとすでに伝えてあるが――これは伝統ある行事でね、すっごく大事なイベントなんだ。なにせこの演習の結果は、君たちの進路に影響するからね」
そう言った大佐は「負けたら辺境の氷雪だけが友達である極寒の惑星で木を数える仕事につくことになるんだ、同志。いや、木があるだけましかな? もしかしたら、ないかも」などと冗談を飛ばします。新兵やそれを取り囲む訓練教官の多くは笑いを浮かべていましたが、一部は物凄い青い顔をしていますからある程度の真実が含まれていることは想像に固くありません。
「ま、それはそれとして、やるからにはやはり勝ちたくない? せっかくこの訓練所に来んだし、多種多様な種族が仲間になってさ、共生知性体としていろいろ学んだのだから――勝ちたいよね?」
そんな大佐の言葉に、新兵たちは「そうだな、やるからにはね」「うん、勝利の味を味わいたい」「勝利って美味しいのか、じゃぁ頑張る!」などと、肯定的な意見が大半のようです。
でも、大佐は新兵の雰囲気がだんだん上がって来たのを感じながら続けます。
「ぜひ頑張って欲しい。だって勝利の暁には、軍務中の一番最初にもらえる長期休暇中に――共生知性体連合首都星系フリーツアーに全員ご招待なのだぞ! なお、経費は全部軍持ちで~す!」
と告げると、新兵たちは「おおお、首都星系だ!」「一度行ってみたかったんだ!」「ラッキー里帰りの費用、軍持ち」などと喜ぶのです。共生知性体連合首都星系とは連合の中心であり、一度は観光に行ってみたいところNo.1なのです。
「おお、オラ、首都星系さ出るだっ! 惑星トキオでベコ買うだ」
田舎育ちのキンジロウなどは「オラのムラには電気がねぇ」などと冗談交じりの笑みを浮かべ、クロックワームのチャールズは「センターコアの多層地下空間を見学してみたいみょん」と穴掘り屋としての見聞を広めたいと言いました。
「首都星系ってどんなところだろ?」
「さぁ、マザーみたいなところかしら?」
「よくわかんない~~」
首都星系というところがどういう場所かわかっていないデューク達が艦首をネジネジさせるのを見とがめたスイキーが「なんだしらんのか!」とクワクワ笑いました。
「メチャクチャご飯が旨いところだ! あそこのメシは銀河一なんだ」
「「「なんだってッ――――――――――?!」」」
大佐が「首都星系に行きたいか――――!」などと宣えば、「絶対行きます!」「ど、どんな手を使っても勝つわ!」「ご飯~~ご飯~~美味しいご飯~~!」「と三隻から咆哮が上がるのも仕方がないことでしょう。
「でも、皆気をつけてね。今回使用する弾丸は訓練弾だから当たっても死なないけれど、当たれば痛いでは済まないんだ!」
大佐は小さな手で先の平たい弾丸をつまみ上げながら「気をつけて!」と言いました。彼が手にしているのはカラダに当たると衝撃を吸収して自壊する訓練弾ですが、気絶するくらいの衝撃はありますし、当たりどころによっては骨折程度のことは普通にありえるのです。
「戦闘はあの丘で行われるよ! 対抗部隊である第201大隊はすでにあそこに入っているから、我々の目的は丘を奪取することだよ!」
大佐は小さな鼻をヒクヒクさせ、ビシリと手を挙げると数キロ先にある小高い丘を示し「丘を取ったら、僕らの勝ちさ!」と言い――
「君たちならやれると信じてる――」
と胸に手を当てながら、真剣な表情で「宇宙軍は諦めない! 宇宙軍は見捨てない! 創意工夫して頑張って欲しい!」と訓示を終えたのです。
一時間後――丘に至るまでの道のりはそれほど険しいものではなく、デューク達はらくらくと丘の麓に到着しています。
「大隊長、総員配置に付きました。敵の射程圏外で待機中です」
護衛小隊のメンバーと本部連絡員を兼任したマナカが、スイキーの元に、各中隊の配置が完了した事を伝えました。なお、今回の演習では、M47ライフルの射程は500メートルに制限されています。
「ここまでは弾は飛んでこないが――敵の姿も見えんなぁ。ものすごく草木の密度が深いぜ」
丘はまるで熱帯雨林のような深い植生で覆われていました。
「これはあきらかに自然のものじゃないノ。自然の植生だけではこうはならんから、対抗部隊さんが、手を加えたようだノ」
「なるほど、これは厄介だぜ。増葉剤かな?」
護衛小隊長兼大隊長付きの参謀となったキーターが丘に茂る植物について「自然のものではないノ」と言うので、スイキーは「カモフラのために増葉剤を大量使用したか」と専門知識を披露します。
増葉剤とは植物の成長を一時的に増大させるもので、土壌の栄養分を無駄に低下させるため農作には使えませんが、陣地のカモフラには最適のものでした。またカムランの土壌は溢れんばかりに肥えているので、1日程度でとんでもない密度の植物が生い茂る事になったのです。
「スイキー、いや大隊長どの――――! 偵察小隊いつでもいけます! 空からなら、なにかわかるかも、です!」
「なんだデューク、お前、すごくやる気だな」
「だって、首都星系には美味しいご飯がいっぱいなんでしょ?! 是非やります、希望します! 自分は任務を熱望するであります!」
デュークがなんだかやる気なのですが、スイキーは「お前キャラ変わっとらんか? いや違う、そうだった、これが龍骨の民だったぜ」と苦笑いと浮かべました。
「では、航空偵察というのを、やらせてみたらどうかノ? 高いところからならば、何か別の物がみるじゃろうて」
「まぁ、やらせてみるか」
そう言ったスイキーは、デューク達に小高い丘の偵察を命じたのです。
「行くぞぉ――――!」
デュークは「ご飯、ご飯、ご飯!」と叫びながら、航空偵察に適した部隊員を率いて高空に飛び上がっていったのは、それから38秒後――その両脇にはやはり「ご飯! ご飯! ご飯!」と吠える二隻の龍骨の民がいたのです。
「ううん、抑制器が外れたから簡単に飛べるけれど――相手の姿が全然みえないや……」
「ち、俺の鷹の目でも見通せない」
デュークが丘の上空で丘の様子を眺めるのですが、深い植生に覆われたそこは高空からではなかなか下が見えないのです。舌打ちをしたのは鳥人種族のサイトでした。彼は鷹から進化したヒューマノイド種族であり、その視力はデューク達の視覚素子を超える程の物を持っています。
「こいつはすこしばかり高度をおとさんと獲物が見えんぞ小隊長」
バッサバッサと翼を振りながら空中で待機するサイトが、ライフルのスコープまで使って睨みつけても、上空対策もしっかりとした偽装に阻まれ、見つけるべき物が全く見えません。
「うーん、まだ高度は800メートル位だよね。もう少し降りてみようか」
「うむ、ライフルの射程は500メートル。下からの打ち上げだから、いいとこ450までが有効射程――500までは大丈夫だろう」
「でもサイトはそこにいてね。ボディアーマーを付けてても危ないよ」
機械生命体である龍骨の民と違って炭素系のヒューマノイドは脆いのです。訓練所に入ってから、骨折やら肉離れなどをする種族をたくさん見てきたデュークは、自分と違って脆い構造を持つサイトを慮ります。
「うむ、ご先祖様は生身で急降下して地面で反転して獲物をとるなんて荒業を持っていたらしいが――今の俺には無理だ。訓練弾でも、この高度で撃たれたら死にかねん」
進化の過程で飛ぶ能力だけは維持できているものの、サイトの種族はご先祖様のような危ない真似ができるだけの神経はとうの昔に捨て去っています。
「ああ、俺はバックアップに回るぜ。すまんな龍骨の民」
「気にしないでサイトさん~~ボク達が囮になるから~~」
「撃たれたら記録しておいてほしいわ。偵察任務は必ず、完了させるのよ」
ペトラとナワリンは「ご飯のためなら何でもやるわ。そこにご飯がある限り!」と戦意をむき出しにしています。
「それじゃ、単縦陣態勢で急降下、500メートルで一航過して、急速離脱でいくよ」
デュークは他の二隻に無線を飛ばして、降下のためのコース取りを伝えます。ナワリンたちから特に異論は出ず、彼らはデュークを先頭に急降下を始めました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます