第100話 最終訓練 その2
「今回の合同演習で俺たちの分隊は二手に分かれることになった。マナカとキーターは本隊付きの護衛小隊に回ってくれ」
スイキーが言うには、マナカはテレキネシス能力を用いて、脚の遅いキーターはその持ち前の宇宙空手で護衛の任に付いて欲しいとのことでした。
「ワシは足が遅いからノ。護衛小隊というのは喜ばしいノ」
「あら、意外ね。私のテレキネシスなら離れた所からでも攻撃できるのに」
キーターは「ありがたい」と言うのですが、マナカはなんだか不服そうな顔を見せました。彼女は自分の持つ物理系の思念波能力は攻撃に適していると思っているのです。スイキーは「たしかに遠隔握撃は、すげぇ痛かったぜ」と言ってから、このように説明します。
「いくらお前の念力が強くてもライフルほどは射程があるのか?
「それは無理ね……」
マナカは「確かに弾丸くらいなら弾けると思うけど、他の能力はそこまでじゃないわね。
「げ、まじでいるのかよ。SSクラスって」
「まぁ、歴史上にはね。超人なんとかと呼ばれたご先祖様とか――あれってSS超えてたらしいけど」
「そんでもって、デュークとパシスは偵察小隊だ。デュークは空を、パシスは地下を進めるから適任だろ」
「なるほど、龍骨の民は空を飛べ、地潜りアントは地を駆けろというところですか。では、皇帝ペンギンは海を行きますかな?」
パシスが「3つのしもべに命令ですぞ!」とどこかで聞いたようなフレーズを口ずさむものですから、スイキーは「ここが海ならそうしたいがな」と苦笑しました。
「なるほどね、空を飛ぶのは得意だよ。でも、偵察小隊って何をするのかな?」
すでに最終訓練に向けてデュークのカラダからは抑制器が外され、重力スラスタもミニチュアの推進器官も十全な力が発揮できる状態にあってドローンのように空からの偵察が可能ですが、彼はそもそも偵察の概念が分かっていません。
「第201宿舎――奴らが何をしてる空から覗き見するんだ。相手の場所がわかれば有利に事を進められるからな」
「へぇ、そういうものなんだねぇ! 流石は大隊長殿だね!」
「わかってくれたか。じゃぁ、お前さんには偵察小隊長殿になってもらうかな」
「えっ、僕が小隊長になるのっ?!」
スイキーは偵察小隊長にデュークを選出していたのです。デュークは「そんなの無理だよぉ」と言うのですが、スイキーは「お前ならやれるさ。頼んだぜ!」と笑みを浮かべたのです。
それから少しして――
「小隊長……そんなのやったことないよ。ねぇパシス、代わってくれない?」
「駄目ですぞ、デュークが頼まれたことです。それにワタクシもそんなものやったことありません。生徒会長ならやったことがありますがね、ハハハッ!」
小隊長付き参謀に任命されたパシスが「ま、これも経験なのですぞ。デューク小隊長殿!」と言うと、「ああ、それなら仕方がないね。何事も経験だし」とデュークは素直に納得しました。彼は新しいことに挑戦することに意欲的なのです。
「あ、あそこだ――空に浮かんでいる種族がいるぞ」
「おお、プカプカ浮かんでいますな」
デュークとパシスが偵察小隊にあてがわれた駐屯地内のテントに近づくと、なにやら風船のようなカラダをした種族や、大きな翼を背中から伸ばしている鳥人型の種族などがたむろしているのがわかります。
「なるほど、高所を飛べる種族を集めた航空偵察隊。おや、飛んでる種族だけじゃありませんね」
パシスが地面を見てみると、光沢を持った黒いカラダを持った種族が腕を振るい、茶色のチューブ型の種族が頭を地面に突っ込んでいるのがわかります。
「おらの畑を返せ――――っ!」
「土旨い、土旨い、土旨い!」
2メートルほどの均整のとれた黒い体躯を持つ種族は長い手足をブンブンと振り回して地面をひっかき、ワームは掘り返された土をバクバク食べています。
「やぁやぁご同輩、見たところ。畑を耕しているように見えますな。こんなところで屯田兵の真似事でしょうか?」
「あん? そこに大地があったら、耕すのがオラ達だべ――」
「そこに土があったら食べるのが、ボクらなんだもん」
パシスから話しかけられた二人は地べたを掘り返すのをやめ、ツルツルとした頭部と、ニョイーンとカラダの先にある真ん丸な目玉を向けてきました。
「オラはキンジロウ――というべ」
「私はアリ族のパシス、よろしく。ヒャクショウ族のキンジロウといえば、男性の大体5パーセントくらいはキンジロウですね」
「おお、アリのくせにあんたよく知っとる。ほだな、この名前もポピュラーすぎんで、ニノミヤのキンジロウって呼んでくんろ。よろしくな」
パシスが博学な所見せるとキンジロウは感心したように挨拶します。なお彼はヒャクショウ族の第二居住惑星レーベル・426の
「ボクはクロックワーム族のチャールズ・ダヴィンだよん。よろんよろん~~」
チャールズはカラダをニョイーンと伸ばして挨拶をしてきます。彼のカラダは物凄い伸縮性を持っており、それを伸ばすと3メートル位もあるのでパシスの巨体にも匹敵するサイズになるのです。
「クロックワームというと、かの有名な穴掘り種族ですな」
パシスは「クロックワーム族は、土を食べてその中にいる微生物を食べる種族ですぞ。工学的な才能に長けており優れた穴居性の建造物を作るのことに定評があるのです。また彼らは築城、開墾、道普請――万能の工兵として、その姿からも黒鍬族と呼ばれることもあります」などと長々しいウンチクを語りました。
「へぇ、君よく知っているのねん」
「一応、共生知性体種族分類学で
パシスが「デュークの姿が……」と触覚を振ると、少し離れたところでフネのミニチュアが三隻ほど浮かんでいることに気が付きます。
「あっ、デューク――――」
「ん? ナワリンとペトラの嬢ちゃんと――そのお仲間が浮かんどるわ。そうか、あれがデュークってやつかいな?」
クロックワのチャールズはどうやらナワリン達のルームメイトのようで「嬢ちゃんラ、なんだか面白い事になっとるがや」となにやら得心がいった様子でキシャシャとした笑い声を上げました。どこかで噂を聞いていたチャールズも「オスとメスが出会ったら、まず交接だろん!」などと、ちょっとばかり卑猥な感じでカラダをプルプルさせています。
「ええ、そのデューク君なんですが、ちょっと見てきま――」
パシスがデューク達のところに行こうとすると、チャールズは「ちょっと待てや!」と言ってパシスを押し留めます。
「あいつらのことは、オラたち第十宿舎でも話題になってたからな。だけんど、そういうことに口挟むのはどうかのぉ? おめさん、あいつの保護者なんかいな?」
キンジロウから生真面目な口調でそう言われれば、パシスが「ううむ――」と黙るって同意するほかありません。なお、クロックワームは「傍から眺めているのが面白いんだよん!」と無責任で大体の新兵がそう思っていることを口にしたのです。
アリとヒャクショウとミミズがそんな会話をしている中、デュークとナワリン、ペトラの三隻は、艦首を突き合わせながら「あの……」「えっと」「その~~」などと、気まず~い状況に陥っています。
「ひ、久しぶりだね……って、あの休日ぶりだから、そんなでもないか」
「えっと……そ、そうねぇ久しぶりでもないわね」
ナワリンは「デュークの馬鹿ァ!」などと言って逃げ出したことを思いだし、少しばかり頬を赤らめています。
「休日って、あの時か~~! ボク、ちょっとワタワタしてたよね。ごめんねデュークぅ~~!」
ペトラは快活な笑みを浮かべています。多少時間が経過して、気恥ずかしさがなくなったのでしょう。
「あ、えっと……うん。それで僕さ、ここの小隊長になったんだ。今回の戦闘演習の間だけだけど」
「へぇ、あんたが私の上官……ふぅん、そうなんだ」
「えっと、ボクは全然気にしないよ~~」
ペトラは小声で「むしろ、オッケェ~~!」などと言っています。
「だけど、僕が小隊長ってねぇ……少し困ってるんだ」
「あら、怖気づいたのかしら?」
デュークが「上手くやれるかな?」と排気を漏らすと、ナワリンは少しばかり嘲りが入ったような笑みを浮かべ「あんたがやらないなら、私がやってあげようかしら?」と少しばかり嘲りの入った笑みを浮かべました。
「え~~、ボクはデュークが隊長なのがいいよぉ~~!」
ペトラは超空間での出来事を思い出しながら「デュークについてゆくだけで、なにもかもうまく行きそうな気がするんだもの」と続けました。
「まぁ…………それは、そうね。私もそう思うわ」
「えっと、それは――」
などとポツリと呟きました。そして、それを聞いたデュークがなにかを言いかける前にナワリンは――
「なんだって、いいじゃない! と、とにかく、小隊長殿っに敬礼!」
ナワリンは誤魔化すように共生宇宙軍式の敬礼をビシッと掲げ、ペトラも「小隊長どのにけいれ~~!」などとおどけた調子で合わせました。
一方その頃、デューク達三隻の様子を傍から眺めていたパシスら地べたチームは――
「はぁはぁ、完全な三角関係だよん! それに両手に華でうらやましいにょん!」
「ま、まずはあんなところだべさ」
「なるほど、微妙に進行しているみたいですね」
などと、思い思いの感想を口にしています。空を飛んでいる風船型種族も「そんなもんさ」と言い、鳥人種は「お子ちゃまだなぁ」と苦笑しています。
そのようにして本部直属偵察小隊の面々は「まぁ、見守ってやろうぜ」などとなんだか変な奉公で結束をあっという間に固めると、3日間の錬成期間に入ったのです。
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