第99話 最終訓練 その1
「ここが集合地点――予定どおりの当到着時間に到着できたね!」
「ああ、まだ他のやつらの姿は見えねーか」
デューク達は長距離行軍を無事に終え、目的地――灌木が生い茂る丘陵地帯の麓に到着し、救護所などが併設された臨時駐屯地に入ります。
「スカード二等兵以下総勢5名、全員揃っております!」
待ち構えていたネズミの大佐と鬼軍曹ゴローロの前に出頭すると、分隊長であるスイキーは敬礼しながら全員揃っていることを報告するのです。
「ご苦労さま――他の分隊のどこよりも早かったね。訓練所の歴史の中でもトップクラスの成績だよ!」
大佐ははチゥチゥとと満足げな鳴き声を上げ、横にいるゴローロ軍曹も「なかなかの行軍速度だったな」とお褒めの言葉を掛けてきました。
「へぇ……結構ゆっくりと歩いたし、休憩もかなり取ったはずなのに……」
意外そうに不思議がるデュークにクエスチョン大佐は「ああ、やはり龍骨の民は
「仲間の脚を考えてベストなルートを選択し、無理のない行軍速度で適切な休憩を入れて、無駄なく効率的な行軍ができていたね。まぁ、優秀な士官がいれば、できて当然のことだけど」
「えっと僕らってただの二等兵ですよ。士官なんていません」
デューク達は皆ただの二等兵――「軍曹、僕らって下っ端の下っ端なのですよね」と横にいるゴローロ軍曹に尋ねました。
「ゴロロ、ボンクラどもは等しく下っ端だ……だが、そこのスイカード大尉に聞いてみろ」
「え、スイキーが大尉って?」
「それは言わんといてくださいよ軍曹……」
スイキーは「すまん、隠していたわけじゃないが確かに俺は大尉だったのさ。共生宇宙軍の大尉じゃなくって
「薄々気づいてたけれど、星系軍の士官出身だったのね。どうりで指示やルート設定が的確だと思ったわ。それに、命令するになれてたし」
キーターとパシスも「星系軍ですか、なるほど」とか「ワシの故郷の郷土防衛隊みたいなものだノ」と合点がいった様子です。でも、デュークが「ええと星系軍って種族ごとの独自軍だったっけ? それの士官? 他のみんなは感づいてたのかぁ」などと艦首をねじっていますから、まったく気づいていなかったみたいでした。
「だが、皇族で中尉だろうが、種族王国の貴族の一人息子だろうか、伝説の古木のクローンだろうが、サイキック能力者のニンゲンだろうが、生きている宇宙船の巨大戦艦だろうが――――最初は等しく同じ二等兵から始るのだよ。そうだよね、スイカード大尉? いやプリンス・フリッパード・エンペラと呼んだほうがいいかな?」
「大佐まで、やめてください。俺は共生宇宙軍のスイキー二等兵ですよ」
星系軍の階級と共生宇宙軍の階級は連動せず、宇宙軍に入隊すれば階級は誰でも二等兵から始まるのです。また各種族における社会的地位も全く影響するものではありません。
「まぁそれは確かなんだが……経験というものは消せるものではない。見事に、分隊を率いたものだ」
「結果は分隊全体の功績です。樹海でコンパスが効かなくなったり、サメに襲われた時は、仲間に助けられました」
大佐が「君の
「なるほどねぇ大尉殿だったんだぁ!」
「その辺りはあまり話さないのが不文律だからな――それにしてもなんでこのタイミングで皆に知らせるような事を? 後で打ち明けようと思っていたのに……」
「ああ、それはだね…………その前にちょっとそこの日除けを開けてよ。他の新兵が到着し始めたみたいだ」
スイキーがブラインドをガシャリと開けると、他の新兵達もぼちぼち到着し始めているのがわかりました。
「彼らが全員到着するまでに……理由を話して置かなければならないねぇ」
クエスチョン大佐はそう言うと小さな鼻をヒクヒクとさせ、なにかに怯えるように身を竦ませたのです。
さて、第101訓練所の新兵たちが全員集合すると、駐屯地のグラウンドに集合して整列してブリーフィングを受けることになります。
「第101訓練所のみんな、長距離行軍訓練ごお疲れさんだぜ!」
グラウンドのに設置された壇上で、スイキーがフリッパーをパタパタとさせてながら、集まった新兵に慰労の言葉を投げかけました。
「俺は第一宿舎001分隊のスイキーだぜ!」
彼は、自分たちの分隊が最も早くこの駐屯地に到着したことを述べ「長距離行軍試験第一位のご褒美に大隊長を拝命した!」と説明しました。
「俺たち第一宿舎の新兵は、仮設
そんな
「宿舎の面子をベースに中隊を10個作って演習に望む。行軍試験の結果を元に選抜された各宿舎の中隊長とでだいたい会議を実施するから集合して欲しい。残りの者はその場で大休止していてくれ!」
そう言ったスイキーはペタペタと他宿舎の中隊長と駐屯地に設営された仮設建物に向かいました。
「集まって、なにをするのかノ?」
「多分、最終訓練とやらの打合せをしているのですよ」
「500人からの部隊を動かそうというのだものねぇ、あいつにできるかしら?」
「大丈夫だよ、スイキーならできるさ!」
などと、休み時間を用いて仲間たちが会話をすること1時間ほど経過すると――
「あ、スイキーが返ってきたよ」
打ち合わせを終えたスイキーがペタペタと戻ってきます。
「どうだった?」
「ああ、これから3日間で部隊を仕上げることになった」
「3日間ですか? それはまた随分な無理難題ですな。1ヶ月あっても不足でしょうに――――」
パシスは「ワタクシ、軍事方面はど素人ですが。大人数がまとまった部隊行動をするには相当の錬成期間がなければ、まともに行動できないと聞きました」と呆れたようにアゴをガチガチ鳴らしました。
「共生宇宙軍の戦術AIが貸与されるから、3日で十分ということだ。オレっちの故郷にもあったもたが、はっきり言って別物だ。まったく制限のない本物のAI後からを借りることになる」
「共生宇宙軍のAIは自由意思を持った本物の機械知性ね。それなら納得だわ」
共生知性体連合の中では様々な所に人工知能がいるのですが、自意識や魂を持った高性能なタイプは基本的に連合執政府や共生宇宙軍にしか存在できません。
「それはともかく、皆は大隊本部付きの護衛小隊および偵察小隊に回される。本部付きの虎の子予備隊と航空偵察部隊ってやつだな」
サラサラと状況を説明するスイキーは、いつものお調子者な様子とは違って、どこか大人びた口調でした。
「小隊ということは、他の宿舎からも人がくるのかしら?」
「うむ、第3と第10から抽出して編成する手筈だ。特に第10には龍骨の民がいるから手元に置いて偵察隊を強化するつもりだ」
「あら、第10の龍骨の民ってはナワリンちゃん達ね。それで偵察隊って、あなたもしかして?」
「ああ、デュークもそこに入ってもらうぜ」
「ということはナワリン達と一緒に――――」
デュークが「あ!」と声を漏らすと、スイキーは「必要だからそうしただけなんだが……まぁ、すこしばかり情実入っちゃったかもな? クワカカカカカカっ!」と、いつもどおりの調子で快活な笑みを見せたのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます