第102話 最終訓練 その4

 デューク達が急降下の準備を始めたころ――


「ヒット――――」


 丘の頂上付近で草木で偽装し腹ばいとなった男が双眼鏡を構えてニヤリとした笑みを浮かべていました。長く伸びた耳をパタリと閉じながらヒゲをヒクヒクとさせていますから、彼はウサギ型種族のようです。


「次はどこかな。ピーター」


 ライフルを構えながらウサギの横でそう尋ねたのは、ずんぐりむっくりとしたカラダが特徴的なカバ型種族のようです。彼はつぶらな目の玉をクリクリ動かしながら、観測手――ウサギの相棒からの指示を待ちます。


「10時の方角――岩陰の下に指揮官らしきヤツがいる。狙えるか?」


 ピーターと呼ばれたウサギがそう言った直後――バスン! というくぐもった音が生じました。ライフルの先端にかぶせたお手製のサプレッサが効果を十全に発揮しているのです。


「グッキル。敵の小隊長が気絶した――戦死判定だな。さすがは白い悪魔の息子と言ったところだな。ミンムスデ」


「親父みたいな異能生命体と一緒にしないでよ。親父と違って、僕はただのカバなんだ――――」


 カバ型種族の男がスゥと息を吐きながら引き金を絞ると、また眼下でバタリとなにかが崩れ落ちる音が聞こえました。


「グッキル……よし、敵が後退を始めたぞ。反対側は動きが止まったままだ」


「帰ってください。こちらは数が少ないんだ。それに訓練とは言え、同じ新兵を撃つのは気が引けるんだ」


 ミンムスデと呼ばれたカバの大きな口はヘの字に曲げっていました。彼はこの状況が全く気に入らない様子なのです。


「まったく伝統行事だか、なんだか知らないけれど。こんな真似してまで勝ちを取りに行かないといけないとは――あのクソ教官どもめ。なぁ、長距離行軍ではねられた奴は、再訓練なんだろ?」


「ああ、酷い話さ。強行軍に耐えられなかった新兵は、別な場所で様々な治療を受けてるってよ。まぁ、2日も時間を短縮すればそうなるか――ミンムスデ右に300メートル」


 引き金を絞ったカバは、戦果を確認しないまま「ねぇ、ピーター。そろそろ別の方面に移動するか?」


「セオリー通りならそうだが、ここは撃ち続けるべきだろう――数を減らさんと」


「じゃぁ、続けるとしよう――ん? これは、上空になにかいるな」


 そこでミンムスデが何かを感じ取ったか、上空を見上げました。


「上空だと?」


 そう言ったピーターもクルリと仰向けになって双眼鏡を上空に向けるのですが、全く何も見えません。


「頭上でドローンのようなものがフワフワと浮いているだろ? あれは龍骨の民とにバードマンだな」


「よ、よく見えるな。さすがはミンムスデだ。いかん、位置は露呈しているか?」


「いや、龍骨の民はキョロキョロしているから見えていない――――ううん、バードマンの人はすっごく目を細めてるなぁ……都市暮らしが長すぎて目が退化してるんだろうね」


 あぐらをかいたミンムスデはライフルのスコープ越しに上空の敵を観察し「流石にこの距離なら当たらないなぁ……あ、降下してくる。近づいてこちらを見つけようとしているんだ」と言いました。


「どうする、ミンムスデ、隠れるか?」


「いや、無理だね。彼らの視覚素子は赤外線反応をひろうから、近づかれたらまず見つかる」


「じゃぁ、どうするんだ」


「ん~~? 鴨打ちの要領でやれば問題ないよ」


 ミンムスデは「故郷ではそれが生業だったんだ」と、ライフルを上空に向けて指向したのです。


 さて201大隊の狙撃手達がリラックスしながら狙撃に勤しんでいるタイミングの少し前、スイキーは大隊の各中隊に前進を命じ、圧力を掛けて敵の動揺を誘う戦術を取っていたのですが――


「スナイパーッ――――!」


 彼の率いる101大隊は大混乱に陥っていました。彼の前方100メートル程のところを登っていた小隊の辺り、ビシッ! という音が聞こえ、訓練弾があたった新兵の一人が倒れ伏して戦術AIが戦闘不能を告げました。


「なんでこの距離で当たるんだ。狙撃手は見えたかっ?!」


「全く見えんノ!」


「遮蔽物に隠れて応射しろ! 応射だ――――!」


 撃ってきたと思われるところに、大隊が全力で射撃をするのですが、まったく姿の見えない敵に対して効果は殆どなく、完全な足止め状態となってしまいます。


 各部隊はテンデンバラバラに遮蔽物に入りますが、敵からはその様子が手にとるように見えているらしく、的確な弾道が次々に101大隊の新兵を戦闘不能状態に陥れました。


「あぶないわ、スイキー!」


「へっ?」


 岩場の影に隠れていたスイキーに銃弾が迫ったのを察知したマナカが念力を用いて弾丸を弾きました。スイキーは「あ、あぶねぇぇぇッ! 助かったぜ、指揮官が戦死したら洒落にならんっ!」とヒヤヒヤするのです。


「いたたたた。痛いノォ……ワシなんか二発も受けてしまったぞい」


 カラダの大きなキーターは二発も被弾していました。ただ、「幹を撃たれなければ、戦死判定しないようだのぉ。とは言え痛いものは痛い――」などと、丘に生えている木を数本ほど掘り起こし、即席のバンカーを構築しました。


「狙撃がやんだか……これは位置を変えているな。畜生っ、まるでプロみたいじゃねーか。それに凄腕過ぎんぞ、有効射程を100は軽く超えてやがる」


「えっと、いくつかのチームが撃ってきるみたいだけど、正確なのは1チームだけみたいね。大砲みたいに曲射しているって戦術AIが判断してる」


「なんだよそりゃ、つまり相手にはデュークみたいな凄腕の狙撃手がいるってのか?! まずい――――デューク達に高度を落とすなと伝えろ!」


 そう言ったスイキーが上空を見上げるのですが――


「うげっ、急降下してやがる――」


 すでにデューク達は高度を落とし始めていたのです。


「あらあら、やだわ。下はメチャクチャじゃない」


「ドンパチドンパチ~~~~!」


「一方的に撃たれてるなぁ……」


 デューク達は降下をしつつ電波の声を用いて頻繁に戦術データを配分しています。僅かな時間で戦況が目まぐるしく変化するとしても、そのようにおしゃべりをするのが龍骨の民というものでした。


「あと100メートル、あと90メートル」


 本能的なものとして被弾の可能性を軽減するため横軸方向にサイクロイド回転を取りながら、デューク達は丘の上に向けて降下を継続します。


「あと50メートル……。あれっ? ナ、ナワリンが落ちてる!」


「ナワリンの推進器官が被弾した~~!」


 デュークの後ろを進んでいたナワリンの脚にライフル弾がヒットし、中破判定が下り推進器官の推力が半減して「お、落ちるわぁ――――!」と物凄い勢いで高度を下げていました。


「被弾だって、この高度でなんでっ?!」


 デュークが本能的に横方向に向けたスラスタをキックすると、一瞬前までいたはずの空間に弾丸がヒュンっと通り過ぎるのを感じます。「ぼ、僕も撃たれてるっ?!」と驚いた彼は、放熱翼を展開するとカナード翼の様に振り回し、くるりと90度ほど回転すると推進器官を全開にして、高度を上げ始めます。


「うわ~~凄まじいアクロバット飛行だよ~~!」


 目まぐるしい空中機動ではありますが、龍骨の民の僚艦に続くという本能というものは惑星上でも有効に作用し、デュークともどもペトラはなんとか攻撃範囲からの脱出しました。


「た、たすかった~~~~! でもナワリンの姿が見えないよぉ~~!」


「か、完全に落ちたか……くそっ、じゃぁ、もう一度降下して助けに――」


 と言ったデュークですがカラダの動きが止まります。「降りよう」といったデュークのクレーンを鳥人サイトがグッと握りしめ「駄目だ小隊長! 撤退しろと命令が出ている」と言っているのです


「で、でもナワリンが――」


「俺が見ていた。地表近くで減速したから大丈夫だろう、あとは樹木と下の土がクッションになったはずだ。とにかく、ここは危険だ、小隊長」

 

 言うことを聞かないデュークに向けて、サイトは鷹の目を剥いて睨みつけ「一旦引くんだ。命令が出ているんだぞ」と押し留めました。鳥人族の鋭い眼差しと命令というものに対して忠実であろうとする龍骨の民の本能により、デュークは「くっ、くそっ!」と一声吠えると、なんとか自分を抑えてスイキーの元に戻ったのです。


 そして10数分後――――


「デューク、大丈夫だったか?」


「ごめん、全然役に立たなかったよ……ナワリンは落とされちゃったし……」


「気にすんな! 全くの無駄じゃなかったぜ――サイトがカメラで丘の様子をしっかり記録してくれていたからな」


 鳥人サイトは、デューク達が撃たれていたときも冷静に対抗部隊の射撃位置を確かめ、それを記録するとともに、かすかな敵の動きを鷹の目でつかみ、おおよその配置についての情報を得ていました。


「ま、上空は危険すぎる、まだ地べたの方が遮蔽があって――」


 スイキーがそんな事を言っているとバシッとした音が鳴り響き、キーターが手にしたヘルメットがポーンと地面に落ちました。


「いやはや、すごい腕前だノ」


 樹木を組んだ即席のバンカーの上に突き出し囮としていたヘルメットに、ただの一発でヒットされたことにキーターは呆れたような声を上げました。


「他のやつらも結構な腕前だぜ――あっというまにやられて損害は10パーセントを超えちまった」


 軍隊というものは損害が3割を超えると戦闘力を失い全滅となります。共生宇宙軍は戦術AIのサポートにより、それを4割まで引き上げていますが、これ以上の無理すればそうなるまでに、さほど時間はかからないでしょう。


「だれなんだ、丘攻めなんてシチュエーションを考えたのは……」


 丘を陣地化した歩兵というものは生半なことでは倒せないのです。高低差もある上、状況はドンドン悪化し手の打ちようが無くなったスイキーは「普通は砲爆撃を繰り返してから――それでもごめんだぜ」と、僅かに憤りを見せ始めました。


「まぁ、おちつくんだノ。ま、なにかのハメ技を食らったような気もするがノ」


「ううむ第201のやつら、丘を取るために長距離行軍は相当の無理をしたらしいから、兵数は少ないはずなんだが……」


 実のところ201宿舎は長距離行軍試験の結果よりも最後の戦闘演習を重視し、到着時刻を切り上げることで、丘という地理的な優位を締めていたのです。その事を知らされていたスイキーは「あっちの教官どもの策ってことだな」と嘴をカチカチと鳴らしました。


「まだ時間はある……何か手を考えるの良いだろうノ」


 現在時刻はちょうどお昼すぎであり、作戦終了時刻は22:00と設定されていますから、残り時刻は10時間です。キーターは「それまでに」というのですが、「夜間戦闘なんて、専用装備がなけりゃ無理だ。なくても動ける種族もいるが、やれるとして日が落ちるまで19:00までが限界だろう」呟きました。


「でも、どうすればいいかしら地べたに釘付け、空も駄目なのよ」


「いっその事、全員で突撃するのはいかがでしょうか? 我らアリ族の祖先は、そのような方法で戦い抜いてきたと聞きます。ハッハッハ!」


 パシスが真面目な顔をそんな事を告げると、スイキーは「まじでいってのか?」と少し怖い顔をします。すると、アリは「ま、全員が全員アリのような種族でもありませんからな。ハッハッハ!」と冗談だと言いました。アゴを鳴らすいつもの笑い方ではなく、共通語で笑ったのは「肩の力抜きなさい」という彼なりの気遣いなのです。


「しかし、どうにもならんことにはかわりねぇぜぇ――ああ、ここが海だったらどーにでもできるんだが」


 スイキーは丘を睨みつけながら「あそこが海なら、下を潜って裏取りするんだがなぁ」と詮無いことを言うのです。


「たしかに地面を潜っていければ、弾は当たらないわよねぇ」


 マナカは「そんなの無理よね」と肩をすくませるのですが――

 

「地面を潜ればいいの?」


 フッと排気を漏らし、龍骨をネジネジさせたデュークが「それならできるかも」というのです。スイキーは「どういうことだよ」と尋ねます。


「ええと、穴を掘れば地面に潜れるよね」


「…………坑道戦術か、しかしそれは時間がかかる」


「でも、パシスとかそういうのが得意な種族がいるじゃない。そういう人たちを集めれば、どうにかならないかな。僕も手伝うよ」


「ハハハ、確かに私は穴掘りが得意ですな」


「そういえば、小惑星掘削をやってるフネを見かけたことがあるわ。美味しそうに岩石を食べてたから、思えばあれは龍骨の民だったのね」


 龍骨の民はかなり汎用性が高いのです。


「いや、ここらの土は下の方まで豊かな腐葉土層になっとるから――ちと、大地に聞いてみるとするかノ」


 大地と交信できる能力の持ち主であるキーターは、すっと地面に枝を下ろして祝詞を唱え、地下の状況を確かめ始めました。


 それから数時間後――第201大隊のスナイパーチーム、ミンムスデとピーターは、眼下の用を伺いながら、早めの夕食を取っていました。彼は昼間の間、ただひたすらスナイピングを行っていたため、昼食を取る暇もなかったのです。


「ピーター、もう上がってこないかな?」


「あれだけ打ち込めばそんな気力はなくなるだろうな」


「時に、撃ち落としちゃった龍骨の民はどうしてる? 脚を狙い撃ったから、ひどい怪我はしてないと思うけど」


「メシ取りに行った時に聞いたんだが、あれって女の子だったみたいだ。で、救護しようとしたけど、ギャーギャー暴れるもんだから簀巻きにして黙らせたらしい」


「ははは、なんだよそれって……あっ、また下の人たちが動き始めたよ」


「まじかよ、あいつらまだやる気なのか!」


 夕食を食べて緊張感がなくなっていたピーターの表情が僅かに緊張しました。ただ、ミンムスデは特に表情を変えることなく「先頭はあの樹木型種族だね」と、福々しい笑みを浮かべています。


「二発当てたけど、体力がありすぎて戦死判定にならなかったんだよなぁ。ふふっ」


 ミンムスデは大変良い笑みを浮かべていますが、ピーターが冷静に状況を分析し「引き抜いた木を盾にしているが、殺れるか?」と尋ねると――


「あれはだめ。この距離じゃ対物ライフルでもないと無理だね。でも、一応撃っておこう」


 ピーターがそう言った瞬間、バスン! とした音が鳴りました。足元に弾丸を打ち込まれた樹木型種族はピタリと脚を止めました。


「ふふっ」


「プゥ……足止めできていればそれで良しってところだ」


「ああ、他のまた遮蔽物に潜ったね。あとは時間を稼げばそれでいいか――あと30分でくらいで日が沈むものね。うふふ、僕たちの勝ちだね」


 丘の高みに腰を据えた狙撃チームは、目と目を合わせてニヤリとした笑みを交わしました。ですが、彼らが射撃を止めたその瞬間――――樹木型種族は猛然とダッシュを始めたのです。


「おいおい、まだ来るのか――――っ!」


「大丈夫、距離が詰まれば幹にあたるよ」


 ミンムスデは、また息を吐きながら、暗い夜に霜が降りるように引き金を落としたのですが、彼の放った弾丸は樹木型種族からそれた足元に突き刺さたのです。


「なんだ、おい、幹を狙えよ」


「いや、違うよ。これは外されたんだ。あ、見えた――樹木の葉っぱに隠れて誰か乗ってるね。ニンゲンの女の子かな?多分サイキック能力者だと思うよ」


「テレキネシスで干渉して弾いたか……だが、能力者には限界がある……ミンムスデ、撃ち続けろ」


「了解」


 ピーターの指示に、ミンムスデが速射を始めます。


 バスバスバス!


 正確無比な弾丸は、狙い違わず樹木型種族の周囲に突き刺さります。彼の弾丸はジワリジワリと思念波能力を削っているのです。


「干渉率が下がって来たぞ、当たりが近くなってきた!」


「分かった、続けていこう」


 ミンムスデが手慣れた手付きで射撃を継続する中――


「ウォォォォォォォッ!」


 マナカを担ぎ上げたキーターは怒声を張り上げながら丘を登っていました。


「もう……持たないわっ……集中が切れる……」


 キーターの腕にしがみついたマナカは、サイキック能力を振り絞って飛来する弾丸を弾いていたのですが、能力の限界に達しきたのです。


「マナカ! あと、1分程じゃぞ――耐えてくれい!」


「いや、もう無理。あとは任せた――――」


 キーターが叱咤激励するのですが、マナカの能力はもう限界突破状態でした。マナカの意識がフツリと切れてしまいカラダが落ちそうになるので、キーターは「あ、駄目じゃったか」と慌てて足元に下ろしました。


「ムフゥ――ここからはワシ一人だけか……」


 キーターは、長く伸びた枝を構えて、防御の姿勢を取りながら、また丘を登り始めます。すると、丘の上から放たれる弾丸が集中し、キーターの腕を、一本また一本とへし折ってゆくのです。


 しかし彼はそれでも歩みを続けます。最後の一本がへし折れると、彼の幹が丘の上からもあらわになるのですが――


「あと30秒――――あと少し気を逸らせば――」


 キーターは「ここじゃぁぁぁぁ! ワシの幹を撃て――!」と絶叫したのです。そんな様子を眺めていた狙撃手チームの一人、ウサギのピーターは呆れた思いでキーターの声を聞いていました。


「おいおい、ここを撃てって叫んでるぜ。ミンムスデ」


「ああ、いつでも行けるけれど――――」


 ミンムスデは、腕を折りながらもまだ戦意の残っている相手に対して、ちょっとした敬意と驚きを覚えて、少しばかり次の射撃をためらっていました。狙撃をビシバシ受けながら「ウオォォォォォォォォォッ!」などという樹木は初めてなのです。


「情け無用だ――お前の銃で、敬意を示してやれよ」


「そう、だね……」


 と、ミンムスデが引き金を落とそうとした時のことです――


 ボコッ! という音がしたかと思うと、彼らの背後で何かが崩れました。


「うわっ、何だ――――?!」


 ピーターが、後ろを振り向くと――地面に大穴が空き、そこから黒い影が飛び出てきます。その影は、大きな顎を開いて、キシャァァァァァァァァァァァツ! と叫びました。


「「アリだ――――――――!」」


 飛び出てきたのはアリのパシスでした。彼は複眼を爛々と光らせながら、ピーターとミンムスデの顔に近づけ、こう言います。


「くっちまうぞぉぉぉぉぉぉぉっ――――――!」


 あまりのことに、ウサギとカバは「なにこれ、怖い……」と硬直状態に陥りました。2メートルを超える大アリが目の前にいたら、大概の種族はこうなるものです。


「よっこいせっと……」


 さらに穴からはスイキーが飛び出てきます。彼の後ろからは、101大隊の新兵たちが続々と続続き、周囲に散ってゆくのです。


「うぷっ……食べ過ぎだ……」


「カムラン土は美味しいけど、飽きた~~!」


 などとデュークとペトラも這いずり上がってきました。彼らのお腹はパンパンに膨れ上がっています。そんな様子を、ミンムスデとピーターは、呆然とした面持ちで眺めました。


「あ、おたくらが、狙撃してたヤツ? なんかしれねーけど、固まってるねぇ……まぁいいや、じゃ武装解除な」


 スイキーは茫然自失としているウサギとカバの武装を取り上げました。すると戦術AIから「状況終了」というメッセージが入ります。


「お、201の隊長を捕まえたか。んじゃ俺たちの勝ちだな」


「ふむ、状況終了ですか。じゃここまでですね」


 そう言ったパシスが大きな顎を狙撃手チームから離すと二人組はヘナヘナと倒れ込みました。


「ま、そうなるよなぁ……おい、大丈夫か?」


「ど、どうやってここまで……」


 スイキーがフリッパーでピーターの顔をペチペチと叩くと、ウサギは「どの様な手段を用いて、ここまで来たのか」という素朴な疑問を口にします。


「そりゃ下にトンネルを掘ったのさ。アリが掘って、フネが食べて、あとミミズがフンをして」


「そ、そうか。坑道戦術か、でも、なぜ、気づかなかったんだろう?」


「最後、下でキが騒いでたろ、それで気づかなかったんだよ」


「あ、や、やられた――――」


 ピーターは長い耳をパタンと力無く落としました。そこにキーターがマナカを抱えて斜面を登ってきました。


「ああ、みんなここにいたんだ」


「おぅ、無事だったか――」


「しこたま枝を撃たれたがのォ」


 キーターが、撃たれた枝を振りながら「幹は撃たれんかったぞ」と言いました。


「よしよし、これで全て終わりだ――――」


「げぷっ……まって……」


「どうした――ああ、そうか。ナワリンちゃんなら救護所にいるそうだぜ」


「救護所~~~~って、どっち~~? ゲプッ」


 デュークとペトラの演習は、救護所で簀巻きになったナワリンを見つけるまで続いたのです。

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