第157話 簀巻き(すまき)

「「モゴガ――! モゴガ――!」」


「なっ…………」


 デュークは、ワインダー少尉が指差した二つの物体を眺め、驚きの声をあげました。強靭なケーブルで括られた二つの物体がジタバタと暴れながら、くぐもった声を上げています。


「ナワリンとペトラじゃないか!」


 戦艦と重巡のミニチュアがふん縛られています。口にはタオルが詰め込まれています。デュークの龍骨には「フネの簀巻き……」というコードが浮かびました。


「一体何が……」


「ええとね……パトロール中に害獣バグと遭遇した途端、恐慌状態に陥ったのよ…………基地に戻ってもジタバタするのよ」

 

 ワインダー少尉は、簀巻きにしたナワリン達に向けてシャ――! と警戒音を鳴らして、落ち着くように言いました。でも、フネの簀巻き達は「モグガ――! キャィィィィィャァァア――――!」と、奇声を上げ続けるのです。


「よっぽどアレが気に入らなかったみたいねぇ。虫――! キャ――キャ――! とか言いながら銃を乱射し始めたのよ。まったく、危なっかしいのなんのって」


「はぁ……」


 どうやら、ナワリン達は害獣バグ達との遭遇により、龍骨がおかしくなってしまったようです。


「それでね、弾を撃ち尽くしたら放心状態になってねぇ……機体に放り込んで帰投しようとしたら、飛行中に「虫――!」と騒ぎ出して、ジタバタ騒ぎ始めたから、悪いけれど拘束させてもらったわ」


「ははぁ。よっぽどアレの姿が気に入らなかったんだなぁ…………テラテラと黒光りするシルエット、カサコソとした動き……あれはまるでゴキ――」


「おっと、デューク、それ以上言うなよ」


 デュークが「カサコソ――」というと、簀巻き野中のナワリン達が、「キィヤァアァァァァッ!」と反応しました。


「シェルショック――砲弾を受けた兵士がかかる精神的外傷みたいね」


「そうか…………まぁいい、もう基地に戻っているのだから解放してやれ」


はぁいイエッサ。ほら、動かないで、危ないわよ――」


 コング大尉は、ナワリン達の拘束を解くように指示しました。ワインダー少尉は腰に下げた山刀マシェットを外し、フネのミニチュアが巻かれているケーブルをスパスパと切断します。


 そして拘束を解かれた途端、ナワリンとペトラはさらに大きな声でわめき始めるのです。


「「虫が――――! いやぁあぁ――――! 怖いよぉぉぉ――!」」


「ふ、ふたりとも落ち着いて!」


 デュークが落ち着いてよと声をかけました。すると二隻は、「「デュゥクゥゥゥゥゥゥ!」」と、涙目になりながら、デュークのカラダにすがりつくのでした。


「ああああ、寄ってくる――! どんどん寄って来る――!」


「もう嫌ぁ~~~~! 虫、嫌ぁ~~~~!」


 ナワリン達は、クレーンと、スラスタと、放熱板をバタバタさせました。目からは大量の潤滑油なみだがシャワーのように吹き出し、デュークのカラダをビシャビシャにします。


「うわっ……二人とも、もう基地の中だから大丈夫だよぉ」


「「いや――――――――――っ!」」


 デュークが「大丈夫、大丈夫」と声をかけ続けるのですが、二隻はボルテージをどんどん上げていきます。


「外に、いるのよ――――!」


「湧いて出てくるるのぉ~~!」


「はぁ、なんだかすごいトラウマになってる……」


 デュークがどうにもならないなぁと思っていると、潤滑油の涙がピタリと止まります。叫び声やら鳴き声も聞こえなくなっていました。


「やっと落ち着いたかな……あれ?」


 彼女たちは、なにやらボソボソと呟いています。デュークが「どうしたんだろう」とナワリンの目を見ると、そこにはどうにも胡乱げな色が浮かんでいます。ペトラの方を見ると、どうにも怪しげな色が浮かんでいました。


「「アレハテキ…………レンゴウノテキ……」」


 デュークが「ふぇ?」と艦首を傾げると――――


「「敵は撃つべしっ! 本体で軌道上から爆撃してやるぅ――――――!」」


「なっ?!」

 

 絶叫めいた音量で、ナワリンとペトラはとんでもなく物騒なことを言い始めました。


「ガンマ線レーザー砲全力全開で砲撃してやるわっ!」


「ボクは秘蔵の重力子弾頭で~~!」


「が、ガンマ線レーザー⁉ じゅ、重力子弾頭?! 星が死ぬ――!」


 実際のところ、一隻で星を破壊することができるだけの兵装を彼女達は持っています。地上に届くほどの光線をぶっ放したら惑星は灼熱地獄になり、重力子弾頭を使えば地殻に穴が開くでしょう。


「そうよ、星ごとっ、焼き払ってやる――――――――!」


「空を焼き~~大地を溶かし~~とにかく根こそぎ~~!」


「そんなことしたら、軍法会議だよ! やめて――――!」


 デューク達の持つ武装は、宇宙空間での殴り合いのためのものです。龍骨に備わったセキュリティと、共生宇宙軍の規則に縛られて、惑星上ではその使用は厳重に制限されてもいます。


「しるかぁぁぁぁぁ――――! 一発だけなら誤射よ――――!」


「見敵必殺っ! 見敵必殺ぅ~~! 虫けら共連合の敵を踏み潰せ~~!」


 ナワリン達はデュークがたしなめるのも聞かず、重力スラスタを全力稼働させてフワリと浮かび上がりました。


「うわわああ―――――――――! 二人共とまって――――!」


 そのままだと本体に戻って本当に軌道上からの攻撃をしかねないので、デュークはクレーンで彼女たちをガシッと掴みました。


 すると彼女たちは、目をギラギラさせながら、声を揃えてこういうのです。


「「デューク、どいてっ! アイツラ殺せないッ!」」



 その後、デューク三等軍曹およびコング大尉とワインダー少尉の手により、二隻はまた簀巻きにされて、龍骨を冷やせと、無事に営倉に送りになったのです。

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