第158話 遺跡で鳴る爆音

二隻ふたりはどうした?」


「営倉で寝ています」


 デュークは恐慌状態に陥った二隻を、やっとのことでベッドに放り込んで寝かしつけたと報告しました。なお、彼女たちは簀巻きのままです。


「……ふむ、とりあえず彼女たちは基地の中での勤務とするか。しかしなんだ、軍艦”にも”虫が苦手なのがいるんだなぁ」


 コング大尉は、眉をひそめながそう言いました。


「”にも”? あら、大尉もそうなんですね。私は大好物ですけれど」


「そ、そうか」


 コング大尉の傍らにいたワインダー少尉が舌をチロチロと伸ばし、目をパチパチとさせました。爬虫類の彼女にとって、虫は餌なのです。


「虫かぁ、この惑星ってまともな生態系が無い割に、あんなのがウジャウジャしているんですよね? どうなっているんだろう?」


「しらん、俺はただの軍人だからな」


 デュークが素朴な疑問を口にしたのですが、コング大尉はそんなもの知らないし、分かりたくもない――と仏頂面になりました。


「まぁ、とにかく――」


 コング大尉がなにかを言いかけたときです。


 ズシンッ――――!


「うわぁっ……何かが爆発した?!」


 どこからか大きな音が響き、少ししてから基地が大きく揺れました。


「あん? 遺跡調査の連中だな。発破をかけたのだろう」


 大尉は、基地からそれほど遠くはない所――地下で調査隊が爆薬を使ったのだと言いました。


「爆薬……遺跡が壊れませんか? 貴重なものなんでしょうに」


「ああ、あの遺跡――――俺にはただの黒い箱にしか見えんやつは、何をしても壊れないようだ」


「古代遺跡には稀に超硬質物質で出来たものがあるのよね。熱、衝撃、化学物質、何を使っても傷一つつかないの。こんどの調査は、軍用爆薬を使ったのよ」


 ワインダー少尉は手元の端末を見ながら、調査隊が行ったこれまでのデータを眺めて、鱗の付いた指先を折って数えました。


「へぇ、でも、乱暴な調査ですねぇ」


特別監査手続Special Censor Protocolって言ってね、様々な手段を色々試すのよ。次は何をするのかしらねぇ……あら?」


 彼女は、ディスプレィの上に、ポン! とメールのアイコンが浮かんだのに気づきます。


「大尉、調査隊から再度協力の依頼が届いていますわ。もっと破壊力のある――”とても重くて、とても速くて、当たると痛いもの”を持ってこいですって」


「もっと破壊力のあるものか…………そうだなぁ……」


 調査隊の要請についてコング大尉が算段し始めました。


「”とても重くて、とても速くて、当たると痛いもの”かぁ……」


「あら、デュークは心当たりがあるのかしら?」


 デュークの独り言に気づいたワインダー少尉が尋ねます。


「ええと――――とても重くて、とても速くてって、例えば、僕自身とか!」


「……おっと、そうきたのね。宇宙戦艦をぶつけるだなんて、考えつかなかったわぁ。あはは!」


 デュークの言葉に、ワインダー少尉は随分と切れ上がった口元を更に広げて、シャ! シャ! シャ! と愉快げな笑みを見せました。


「おぃおぃ、それはやりすぎだろ……調査じゃなくて、星ごと破壊する気か」


 コング大尉は、デュークを見つめて「やっぱりこいつも龍骨の民なんだな」と思いました。龍骨の民は基本的におおらかで、また大雑把なところがあります。


「じょ、冗談ですよぅ……えーと、多分、アレとかがいいのでは?」


 デュークは基地の角に置かれている、角張った車両を指差しました。その上には、随分と長い棒状のものが載っています。


「電磁加速を使って超重量弾頭を高速で打ち出す大砲ですよね?」


「”とても重くて、とても速くて、当たると痛いもの”だな。ふむ、真空中で使えば、小規模艦砲なみの威力があるものだ。こんな感じで――」


 コング大尉はそう言いながら、グッと拳を握りました。そして彼は逞しい腕をデュークに向けて――――ズドン! と言いました。


「ふぇっ、僕を撃たないでくださいよぉ!」


「ははは――――情けない、それでもお前は戦艦か」


 筋肉の塊のような大尉の仕草と声にはかなりの迫力があったので、デュークはビクッ! とカラダを震わせました。今のデュークからすると、コング大尉の体長は二倍以上もあるので、とても大きな大砲で撃たれたような気分になったのです。


「あら、大尉。部下を脅すなんて!」


「え、いや、そんなつもりでは……」


 デュークが震えたのを見たワインダー少尉が、「何やっているんですか」と叱りました。


「あなたみたいな種族は、他の種族からしたら必要以上にマッチョだと感じるんですからね! パワハラですよ! パ・ワ・ハ・ラ!」


「おぃ、そう怖い目をするなよ…………俺は別に――」


 と、コング大尉が言い逃れをしようとすると、ワインダー大尉は目を細めながら、これまでとは違った、強力な警戒音を鳴らします。


「あなたって人はいつも――ガラガラガラガラガラ言い訳無用――――!」


「うひぃ」


 それはとても迫力のあるものだったので、コング大尉は少し怯えた顔になり、大きなカラダを小さくするように肩をすくめました。


ガラガラガラガラガラガラガラ噛み付いてやるぞ――――――!」


「ううう………………」


 現在進行系で噛みつかれえているコング大尉を眺めたデュークは「ヘビに睨まれたゴリラ?」などというどうでも良いコードが龍骨に浮かび上がるのに気づきました。実のところ、大型とはいえ、サル型種族にとって、ヘビは天敵なのです。


「わかったわかった――――すまんなデューク」


「いえ、ちょっと驚いただけですから」


 実際のところ、デュークは、コング大尉のズドン! よりもその後のワインダー少尉の振る舞いのほうが怖かったのですが、口には出しませんでした。


「ふむ……お詫びと言ってはなんだが、面白い乗り物に乗せてやる」


「え、乗り物って?」


 コング大尉は大砲を乗せた車両――――共生宇宙軍陸戦隊制式主力戦車に乗ろうと言ったのです。

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