第159話 船馬一体
「これが戦車かぁ……近くで見ると、結構大きいなぁ!」
デュークの視覚素子に角張った線形を持った全長10メートル全高3メートルちょっとの装甲車両が映っています。それは体長1メートルほどのミニチュアである彼からすると、小山のような大きさを持っていました。
黒色に塗装された装甲板は鋭角に纏められ、避弾経始とステルス性に配慮した先鋭的なシルエットを持っていました。車体の上に乗る砲塔はからはとても長い砲身が
睨みを効かせるように伸びています。
「へぇぇぇ、なんていうか――――」
デュークは戦車の姿に、得も言われぬ力強さを感じ、龍骨を震わせました。
「どうだ、立派なものだろう――」
コング大尉がニヤリとした笑みを浮かばせながら、こう続けます。
「――共生宇宙軍陸戦隊主力戦車。シンビオシス&トーア重工製
「”おチビちゃん”って、こんなに大きいのに?!」
「”おデブちゃん”という、重機甲師団用の重戦車があるのよ」
ワインダー少尉が、おデブちゃんはおチビちゃんの倍の大きさがあるのだと説明してくれました。
「へぇ……でも、おチビちゃんというには、やっぱり随分と立派なものだなぁ。あ、これは複合装甲ですね。とても密度が高いぞ!」
デュークは目を輝かせながら戦車に近づいて、クレーンを伸ばして装甲板を触ります。彼が指先で装甲板を叩くと、ゴォンと鈍い音がしました。龍骨の民の外殻とは違った手触りでしたが、とても強固な頼もしさを感じるのです。
「食べるなよ? 食い物じゃないからな? お前ら龍骨の民は、目を離すと複合装甲でも喰っちまう……」
「もぉ、そこまで子どもじゃありませんよぉ! ……おや、足元にベルトコンベアがついていますね!」
デュークは戦車の底面に、金属製の転輪と、硬質ゴムで出来た装置が付いているのに気づきました。
「ベルトじゃないわよ。これは戦車の脚――――無限軌道とも言うわね。大尉、下に異物はありませんわよ」
ワインダー少尉は、身をかがませて地面に這いつくばり、車体の下に邪魔なものが無いか確認しながら、そういいました。
「よし、じゃぁ、砲塔に登れ。特別に車長席に乗せてやる!」
コング大尉が戦車に乗るように言うので、デュークはフワリと浮かび上がって、戦車の上部に開いた穴にたどり着きます。
「大尉、なんだか狭い穴がありますけれど?」
「そこが車長席の入り口だ。席はフレキシブルに動くから、お前でも乗れるはずだ」
デュークは艦尾を下にしながら、そろそろと車長席に座り込みました。前後が長い彼ですが、カラダを縦にすればうまい具合にすっぽりとはまり込むのです。
「へぇぇぇ、こうなっているんだぁ」
戦車の上面から艦首を覗かせたデュークは、ハッチの端をクレーンで握りながら、クルクルとカラダを回転させて周囲を観察しました。車高のあるそこからは、戦車の全容がハッキリと分かります。
「なんだか自分が大きくなった感じがするなぁ……」
大きな戦車の車長席から、外を見ると周りのものが小さく見える様な気がします。そして、周囲を包む複合装甲は実に頼もしく、デュークは得も言われぬ安心感を感じました。
「それは一体感というやつだな。人馬一体、いや、船馬一体といったところか。よし、ワインダー! エンジンに火を入れてくれ!」
後部ハッチから射撃手席に入ったコング大尉がワインダー少尉に指示を出しました。
「イエッサ――!」
運転席に乗り込んだワインダー少尉が、スターターをポチリと押しました。するとゴォン! と爆音が鳴り響き、ズドドドドド! とエンジンが回り始めるのです。
「うわぁ、これが戦車のエンジン音かぁ」
「回転数――チェック、油圧正常――エンジン出力最大へ――――」
ワインダー少尉は、エンジンの調子が良いことを確認し、出力を増大させました。
ズギャギャギャギャ――ァァァァァン!
エンジン音が一気に増大し、つんざくような大音量が戦車の中を支配します。
「ふぇっ――――――すごい音だ! エンジンが唸りを上げているぞ! すごい出力を感じます――すごいですね――!」
「最大出力10万馬力の大出力エンジンだからな――――!」
轟音が周囲を支配しているので、デュークは大声で叫びました。コング大尉も大声で「揚陸艇にも使用されているトーア重工の疑似縮退炉だ――――! すごいだろ――!」と答えました。
「へぇ、僕と似たようなエンジンを持っているんだなぁ」
戦車に響く音と振動は大変なものでしたが、デュークは大変な心地良さを感じるのです。彼は口の端を上げて笑みを浮かべました。
「いい感じね――――――!」
ワインダー少尉も戦車の奏でる騒音を楽しんでいるようです。
「よしっ――――デューク、端末のボタンを押せ!」
「これですか?」
コング大尉が言う通り、デュークが車長席についている端末のボタンをポチりと押しました。すると、カシュゥン――――――という音が鳴り、エンジンの音がフィィィィィとした軽いものに変わるのです。
「いつまでも五月蠅いのは困るからな、消音装置がついているんだ。次は、端末を使って各部の状態を確認するんだ」
「ええと、これかな」
デュークはポチポチと端末を操作して、戦車の状況を確認しました。ユーザーフレンドリーなインターフェース画面には、「おーるおっけぇ~~!」という表示が映っています。
「調子良いみたいです!」
「こちらも、確認した。よし、そしたら車長殿、発進指示を出してくれ」
コング大尉は、車長席に居るデュークに向けて、手のひらを前方に振って、発進の指示を出すように言いました。
「目的地は、遺跡のあるところ――――コースはこれで良いかな。よぉし、両舷全速ぅ――――! 舵そのままっ――――!」
「ふはっ! これはフネじゃないんだけれどぉ」
デュークがフネを動かすように言ったものですから、ワインダー少尉は吹き出してしまいました。
「まぁいいわ、しっかりと掴まってなさい!」
彼女はそう言うと、尻尾を器用に使って、アクセルを踏み込みます。すると、フィィィィィィとした音とともに、
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